火拳のエースは魔神王を志す   作:みるちー

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現在pixivで連載している作品ですが、こちらでも公開してみます。
例によって気まぐれ更新ですが、もしよければ見ていってくださると幸いです。


其ノ一 ~大罪を愛した毒蛇~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_……_

 

 

 

 ……ここはどこ?

 周りは一切の光も見えない暗闇で真っ暗。辺り一面黒一色だ。

 

 

 

_……! ……_

 

 

 

 あまりにも異様過ぎる光景。でもそれが何だか心地良い。

 何か大きなものに守られているように感じられて、すごく安心する。暗闇の中で膝を抱き寄せて、胎児のように身体を丸めた。できるならこのまどろみをもう少し感じていたい…。

 

 

 

_……ラ、……_

 

 

 

 でもさっきから誰かが私に呼びかけている。

 とても聞き馴染みのある男の人の声だ。私はこの人のことを父親のように慕っていた気がする。

 

 

 

_メラ…ラ、……け_

 

 

 

 …記憶がぼんやりして思い出せない。

 この声の持ち主は誰だっただろうか…?

 

 

 

 

 

 

_…メラスキュラ、覚えておけ_

 

_お前がやったことが意にそぐわぬことであったら……_

_混沌(かみ)は、容赦なくお前がやったことを取り消す…!_

 

 

 

 ……貴方は、”魔神王”様?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ」

 

 私の意識はゆっくりと覚醒し、目を覚ました。

 辺りは一面の草原。海が近いのか風の中に仄かに磯の匂いが混じっている。

 

「ここは…、私はいったい……?」

 

 どうやら私は見覚えのない場所で眠っていたらしい。いったい何故?

 身体を起こして思考を巡らせてみるも、頭がぼんやりしていて上手くまとまらない。

 

 私は確か、”十戒”のメラスキュラになって『七つの大罪』の世界に転生していたはずだ。多種多様な種族と多彩な魔法が飛び交う王道ファンタジー。私が大好きな作品の世界だ。

 

 大好きな世界の大好きなキャラたちが悲劇的な運命を辿ることに耐えられなかった私は、原作の筋書きを回避するために色々と奔走していたように思う。”十戒”という立場を活用して魔神族と女神族が和平を結ぶように働きかけて聖戦を失くしたり、吸血鬼一族の謀反を事前に沈静化したり、ベリアルインと契約を結んで技術提供をし合うような関係にしたり…。

 

 その甲斐あって原作の悲劇は回避され、とても平穏な日常が流れていたと思う。魔神王の地位は正式にゼルドリスへ継承され、戴冠式は盛大に行われた。ゲルダを妃に迎えた彼はかねてからの理想である平穏な魔界を作るための統治を開始し、私はその補佐をする職に就いていた。メリオダスは魔界を飛び出してエリザベスと結ばれ、二人の婚姻は魔神族と女神族の和平の象徴になった。争いのなくなったブリタニアは文化や生命が豊かに循環し、誰もが笑い合える私が夢見た理想郷になっていたはずだ。

 

 

「……ダメね。分からないわ」

 

 だが、その先のことがまったく思い出せない。苦労の末に理想を手に入れて、その後のことは……?

 まるで記憶そのものを切り取られたように、いくら思考を巡らせてもその断片すら感じられない。見知らぬ土地でたった一人、周りに魔神族(なかま)の気配もない。よろしくない状況だ。

 

「ん…? あら……?」

 

 孤立無援の八方塞がり。そう思っていたがどうやら違っていたらしい。よくよく気配を探ってみると、慣れ親しんだ魔神族由来の闇の気配を感じる。それも私のすぐ近くからだ。かなり濃密で強大、魔神の中でも上位に位置する者の魔力が近くに留まっている。

 気配を頼りに周辺を探ってみる。すると倒れていた私のちょうど頭の上に位置する草むらの陰で、その魔力を発見することができた。禍々しい紫黒色の宝玉のような形をしていて、かぎ爪のような紋章が刻まれている。

 

「これは…まさか”戒禁”?」

 

 私の目に狂いがなければ、これは十戒のメンバーが魔神王様から直々に賜った特別な力である”戒禁”だ。刻まれている紋章や魔力の波長から判断するに、その中でもこれは十戒の統率者であるメリオダスが所有していた『慈愛』の戒禁。そんなものがいったいどうして主もなく、無造作に地面に転がっていたのか…。謎は深まるばかりである。

 

「……クヒト」

 

 ともかくこれをそのままにはしておけない。私は呪文を唱え、『慈愛』の戒禁を回収した。戒禁が私の手のひらに吸い込まれ、身体の中に収納される。

 

 まずは何でもいいから情報が欲しい。自分の身に何が起こったのか、皆は無事なのか。それを確認しなければならない。

 私はあてもなく、ひとまず海の匂いが香ってきた風上の方へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし何もないところね、ここ」

 

 羽衣のように闇を纏い、ふよふよと浮遊して移動すること数分。私は独り言をこぼした。この見知らぬ土地、草木が生い茂っていて自然豊かなのだが、生き物の気配がまるで感じられない。魔神族(なかま)や女神族はおろか、人間も、虫一匹すら見当たらないのだ。あまりにも静か過ぎる。なまじ景観が美しいだけに少し不気味だ。

 

 そして何もないので恐ろしく退屈だ。まだ移動し始めて数分だが、目に映るのは自然豊かな景色だけ。それだけで何も変化がないと早くも飽きてくる。海はまだか。私はあくびをしながら移動を続けた。

 

 

「……! ……」

「! ……!」

 

「…あら、やっと誰かいたわね」

 

 だが、そんな時間も終わりを迎えたらしい。やっと草原を抜けて海岸に出るというところで、誰かの話し声が聞こえてきた。若い男が二人、会話しているらしい。私はその声の方にふよふよと近づいていった。

 

「ここが噂の島か! 案外あっさり上陸できたな、デュース」

「ああ、大層な噂の割に静か過ぎて気味が悪いぜ…」

 

 話をしていたのは二人の青年だ。オレンジ色のテンガロンハットと黄色いシャツを身につけた黒髪の男と、水色の髪で目元にマスクを付けた男。身体的特徴から恐らく二人とも人間だろう。近くの浜に一人か二人ようやく乗れる程度の大きさの小舟が停めてある。どうやらあの舟で海を渡り、この土地までやってきたらしい。

 

「…ねぇ、貴方達。ちょっといいかしら?」

 

「ん? おっ、この島の住人か?」

「なっ!? なんだこいつ…宙に浮いて……!?」

 

 私は二人に近寄り、声をかけた。テンガロンハットの青年の方が振り向き、快活な笑みを浮かべて応えてくれる。一方水色の髪の青年の方は宙に浮かぶ私を見て後ずさりし、大袈裟に驚いていた。魔力や魔法にあまり馴染みのない土地の出身なのだろうか。

 

「私、メラスキュラっていうの。ちょっと話を聞かせてちょうだい」

「おう、俺はエースってんだ。よろしくな、メラスキュラ!」

 

 にかっと明るい笑顔を見せるエースと名乗った青年。気のせいだろうか、その声を聞いた時、『慈愛』の戒禁がぶるりと震えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 





・メラスキュラ
 十戒の一人、”信仰”のメラスキュラに成り代わり転生した人。
 七つの大罪の大ファンで、登場するキャラ皆好きな箱推し勢。好きなキャラ達に幸せになって欲しい一心で、魔神族と女神族に和平を結ばせて聖戦を回避するというとんでもないことを成し遂げている。さすがに完全な和平ではなくて、あくまで冷戦状態に持ち込んだ形だがそれでも大きすぎる功績。
 何故かブリタニアからONEPIECEの世界に転移しているが、そのことに気づいていない。魔神族として300年以上生きているので、前世のことはほとんど忘れてしまっている。

・エース
 まだデュースと出会って間もない頃のエース。ストライカーで二人旅をしていてスペード海賊団もまだ結成していない。
 とある噂を聞きつけて、メラスキュラが目覚めた島にやってきたらしい。







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