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”魔神王”とはその名の通り、すべての魔神族の頂点に立つ存在だ。
遥か昔、世界の創造主である混沌によって生み落とされ、魔界と魔神族を創造した正真正銘の神である。
性格は…正直言って褒められたものではなかったと思う。
身勝手で、独善的で、自己中心的…。おまけにプライドが高くて高慢。自身に歯向かう者や弱い者をとことん嫌い、思い通りにならない者は容赦なく排除していた。その災害のような性格と力から、他の種族からは恐怖の対象として見られていた。
だけど、何だかんだ言っても私達魔神族にとっては決して悪い王様ではなかった。
確かに時には部下であっても処刑する非道な一面を持っていたけど、根っこの部分には自分が造った魔界や魔神族のことを第一に考え、誇りに感じている部分があった。闇と死を振り撒く魔神族は他種族から忌み嫌われている存在。そんな四面楚歌な状況下で、魔神王様はその圧倒的な実力とカリスマで君臨することで、魔神族全体を守る抑止力になっていたのだ。
それに気難しい部分は確かにあれども、部下の進言にきちんと耳を傾ける柔軟さも持っていた。
私が女神族との和平を提案した時、魔神王様は始め憤慨した。十戒の一員でありながら敵に首を垂れるとは何たる体たらく、そんなものは牙を捨てた負け犬の所業である、と。しかし、私が長期的に見た魔神族全体の利益について説明すると、魔神王様は徐々にその考えを改めてくれたのだ。
聖戦によってブリタニア全土を奪い取ることは確かにメリットが大きい。しかし、ベリアルインと友好関係を結んで徐々に力を蓄え、年月をかけて堅実にブリタニア内に魔神族の領土を作っていく方針の方が遥かにリスクが小さく、得られる利益も大きい。その事を訴え続けた結果、時間こそかかったものの最終的に魔神王様は自身のプライドを押し殺し、魔神族全体の益になる決断をしてくれた。女神族と和平を結ぶと魔神王様が宣言した時、メリオダスやゼルドリスが鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたことをよく覚えている。
魔神王とはどういう存在か…。人それぞれ印象や考えが違うから、一概に答えることはできない。
しかし、私から見た魔神王様は偉大な魔神族の王であると同時に、魔神族の全体の父のような人だった。厳格で頑固で威張り屋で、お世辞にも褒められた性格ではない。だけどその大きな背中で私達を守り、導いてくれていたのは間違いなくあの人なのだ…。
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「…何つーか…、すげぇ話を聞いた気分だぜ…」
私が魔神王様について話し終えると、デュースがぽつりとその内心をこぼした。私の話に少し圧倒されているような様子で、頬に一筋の汗を流している。ちょっと熱が入り過ぎたかもしれない。
「一つの種族全体を統べる王か…。想像もつかねぇな」
「まぁ、貴方達には馴染みがないかもしれないわね。人間はいくつかの国や村に分かれて暮らしていることが多いから」
「いや、でもその凄さは十分伝わったぜ。お前がそこまで敬う気持ちも分かったような気がする…」
デュースはグラスをぐいっと傾け、身体の熱を冷ますかのように飲み物を呷った。
私は私で、誰かに話を聞いてもらったことで少し安心感を覚えていた。これまであまり話すことのなかった私の魔神王様に対する思い、それを話して少しでも共感してもらえたことが嬉しい。出会ったばかりの人間達に何故ここまで話しているのか、自分でも不思議だ。エースとデュースには人を懐に誘い込み、心を癒す妙な魅力があるらしい。
「……」
「…あら、エース? どうしたの?」
ふとそういえば、私に魔神王様のことを話すように言ったエースの反応がないことに気づいた。見るとエースは顔を俯かせ、じっと動かないでいる。テンガロンハットの鍔が影を作り、その表情はよく見えない。
「おい、エース。どうしたんだよ?」
デュースが近づき、背中をぽんぽんと摩る。するとエースの身体はぶるぶると小刻みに震え始めた。そして次の瞬間、ガバッと勢いよく立ち上がった。デュースが驚いて転び、ドサッと尻もちをつく。
「…すげぇ奴なんだな…魔神王…!」
ぎゅっと拳を握りしめたエースは、絞り出すようにその気持ちを吐露した。まるでずっと探し求めていたものを見つけたような、喜びに満ちた顔をしている。目はきらきらと輝き、興奮しているのか口角が自然と上がっている。
「世界中に名を轟かせて…、圧倒的な力を持って…、種族全員を背負って守る…”王”か!」
いったい私の話の何がこうさせたのかは知らないが、エースはかなり興奮しているようだ。何かが着火剤になって彼の中の闘志がメラメラと燃えているらしい。心なしかその熱が外側にまで放たれているのを、チリチリとした感覚で肌が感じている。その盛り上がりに私は圧倒されて、「そ、そう…」としか答えることができない。
「決めたぜ、デュース! メラスキュラ! 俺は”魔神王”になる!!」
「…………は?」
だが、エースが次に発した言葉に、私は呆けた声を出してしまった。
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……あまりの衝撃に少し時間が飛んだような気になった。
人間が魔神王になる? 聞いたことも考えたこともない前代未聞の発言に、私はただただ目を点にして固まっている。
そんな私のことなどお構いなしにエースは言葉を続けた。
「俺はな、”名声”が欲しくて海へ出た。勝って勝って勝ちまくって、最高の名声を手に入れて、この時代に俺の名を刻み込んでやろうってな」
昔を思い出しているのだろうか。エースはテンガロンハットを深く被り直し、星が輝く夜空を見上げた。
「欲しかったのは海賊王をも超える名声だ。そのためにスゲェ宝を手に入れたり、強ぇ海賊を倒したりして名を上げようとしていたんだが……、その目指す”高み”に名前がなくてな。ふらついてた部分がある」
「エース…」
デュースも何か感銘を受けたのか、ぽつりとエースの名を口にしている。
待ってほしい。勝手に二人だけの世界に入り込まないでほしい。私は何も状況が分からずに置いてけぼりだ。
「だがメラスキュラ! お前の話を聞いてピンときたんだ! 種族全部を背負って立って守る偉大な王…。海賊王を超える称号としてこれ以上ねぇ程うってつけだ!」
そこまで言うとエースは私の近くに寄ってきて膝をついた。顔を思い切り近づけて子供のような笑顔で言う。
「だから俺は”魔神王”になる! なりてぇ! 教えてくれ、どうすればなれるんだ!?」
すごく希望と熱意に満ちた顔だ。少なくとも伊達や酔狂でこんな発言をしているわけではないらしい。
人間が魔神王になる…。何度考えても歴史上類を見ない前代未聞の珍事だ。十戒の一員として、そんなことは不可能であるとばっさり切り捨てるべき話である。
だけど私は、何故だかこの男の夢を否定し切れないでいた。彼の表情から並々ならぬ本気度が伝わってくるということもあるが、一番の理由はエースの今の顔が一瞬ゼルドリスに重なって見えたからだ。
魔神王様の実子にしてメリオダスの弟、ゼルドリスは実直な性格と統率力によって部下からの信頼を集め、良き指導者として活躍していた。そんな彼と、私はある日珍しく
『なぁメラ…。俺は魔界を変えたいと思ってる…』
『魔神族はあらゆる種族から忌み嫌われている…。今は
『だから俺は、誰もが平穏に暮らせる新しい魔界を作りたいと考えている。メラ、お前も協力してくれないか…?』
自分にも他人にも厳しい姿勢を崩さなかったゼルドリスが、初めて見せた弱々しい顔。そして恐らく誰にも吐露したことがないであろう自身の夢を語る姿。今でも目を瞑ると脳裏に思い起こされるくらい鮮明に覚えている。
あの時のゼルドリスと今のエース、顔は全然似ていないのに何故か胸に感じる感情は同じだ。その夢を叶える手助けをしてあげたい、そんな思いが自然と湧き上がってくる。
あの時、私はどんな反応をしただろうか…。確か……。
「ぷっ、あははははっ!」
「あっ、おい! 笑うなっ!」
『笑うなメラ! 俺は真剣だ!』
そうだ、思わず笑ってしまったのだった。その後返ってきた反応も一緒で、私はさらに笑ってしまう。
「ふふ、ごめんなさい。ついね」
今も昔も、決して彼らの夢を嗤ったわけではない。嬉しいのだ。
そんな誰も実現を信じないような大きな夢を聞かせてくれたことが。そしてそのために私を頼ってくれたことが。
「そうね…方法は一つあるわ」
「本当か!?」
「ええ。魔神王様の断片である戒禁は全部で10個。そのすべての力を集めることができれば、貴方は魔神王と同等の力を得ることができる…。その後は貴方の器次第よ。できるかしらね?」
エースを挑発するように、『慈愛』の戒禁をこれ見よがしに見せびらかした。
方法を示したことでエースはさらに奮起したようだ。ガバリと立ち上がって私に手を差し伸べてくる。
「もちろんだ! メラスキュラ、乗っていけよ俺の船に! 俺が新しい”魔神王”になってやる!」
気の早い男だ。もうすでに私を仲間に引き入れる気でいるらしい。
だけど悪い気分はしない。今まで積み重ねてきたものが何もなくなってしまったこの世界。どうせやることもないのだから、この男の夢に手を貸してやっても良いかもしれない。『慈愛』以外の戒禁の存在もかすかだが感じることができる。何故私がこの世界に飛ばされたのか、その手がかりを探る意味でも利益のある話だ。
それに、このエースという男が魔神王になった姿も見てみたくなってきた。
「……ふふ、いいわ。付き合ってあげるわよ、船長さん?」
私は妖しい笑みを浮かべ、その手をそっと握った。
・メラスキュラ
十戒の一人、”信仰”のメラスキュラに成り代わり転生した人。
魔神王のことは父親のように尊敬している。原作よりも幾分か親しみやすいと感じているが、実はそれは魔神王からメラスキュラに対する矢印もわりかし強めだったからで、その点は気づいていない。
人間が魔神王になるという発言に思わずポカン。だけどその本気度と、エースという男に不思議な魅力を感じて乗船を決断。エースの魔神王への道の案内役となる。
・エース
まだデュースと出会って間もない頃のエース。ストライカーで二人旅をしていてスペード海賊団もまだ結成していない。
メラスキュラから魔神王のことを聞いて興奮。海賊王を超える称号に相応しいと感じた。これから先、エースは”魔神王”になるために旅をしていくことになる。
・デュース
エースの相棒。シクシス島の出会いで、エースが海賊王の息子であることを知っている。
”高みを目指す”、”海賊王を超える”というエースの夢にどこか具体性がなく、根幹の部分がぐらついていることに何となく気づいていた。今回のメラスキュラの件で、その目標に明確なビジョンができたことに安堵している。