火拳のエースは魔神王を志す   作:みるちー

4 / 8
其ノ四 ~適合する火拳~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早いもので、あの島でエース達と出会ってから3週間が過ぎた。

 彼らと共にあの島を出航した私は晴れて海賊の仲間入り。東の海(イーストブルー)のあちこちを巡る旅をしている。

 

 その過程で新しく二人、仲間も増えた。ミハールとスカルという男だ。

 ミハールはシルクハットによく磨かれた眼鏡という紳士的な風貌の男。話し方が丁寧で知識も豊富な彼は、元教師という海賊としては異色の肩書きを持っている。銃の扱いに長けている狙撃手で、私達の後ろを守る頼もしい存在である。

 もう一人のスカルの方も変わり者で、全身にやり過ぎなくらい髑髏のアクセサリーをぶら下げた大柄な男だ。何でも彼は無類の海賊好きであり、これまで数々の海賊船に雑用係として乗り込んではいくつもの海を渡って来たらしい。腕っぷしは悪くなく、業界について明るい。彼もまた、私達の助けになってくれている。

 

 そんな私達は、この3週間で船も新調した。

 エースとデュースが使っていた小舟、ストライカーは優れた舟ではあるのだが、さすがに5人も乗って旅をするには小さ過ぎる。

 

 そこで、ミハールの知り合いだという船乗りの男から大型の船を譲ってもらったのだ。名前は”ピース・オブ・スパディル号”。

 昔探検家だったというその男が当時使っていた船だ。少々年季が入っているが探検用途で製造された船。様々な環境や荒波を越えていける強さと速度を兼ね備えている。

 

 私達はその船に海賊旗を掲げ、本格的に旗揚げをした。

 マークは船長であるエースの顔を象った炎をモチーフにした髑髏。そのシンボルを帆に掲げ、私達は”スペード海賊団”を名乗り航海を続けている。自惚れでなければその名は少しずつ知られているはずだ。

 

 

 

「……ふあぁ、平和ね」

 

 船の甲板で私はあくびをした。

 東の海(イーストブルー)の旅は極めて順調であり、暇なくらいである。スカル曰く、”偉大なる航路(グランドライン)”というところに入ればそうも言ってられなくなるとのことだが、今が退屈であることに変わりはない。

 

「いたぞっ! 女だ!」

「やっちまえっ!」

「覚悟しろっ!」

 

 と、そこへ招かれざる客が三名、無粋にもこの船に乗り込んできた。斧やナイフといった武器を持った男達だ。

 

_ばちんっ_

 

「「「ぐへぇっ!?」」」

 

 私はいつも身体に纏っている闇を大きな手の形に変化させ、その男達を引っぱたいた。男達はボールのように軽々と吹き飛んで海の中にダイブしていく。私はそれに一瞥することもなく、腕を上げて思い切り伸びをした。

 

「平和ではないでしょう、メラスキュラさん。我々は今、敵の襲撃を受けている真っ最中ですよ」

「襲撃といっても吹けば飛ぶような雑魚ばかりじゃない。こんなのをカウントしてたらキリがないわよ、先生」

 

 その姿をちょうど船室から出てきたミハールに見られ、注意された。真面目な性格の彼のことだ。どんな戦いでも気を抜いてはいけないということを言いたいのだろう。

 でも仕方ないのだ。最弱の海なんて揶揄されているらしい東の海(イーストブルー)では、闘級で言えば100や200程度の敵としか交戦にならない。十戒として戦ってきた経験のある私からしたら、比喩抜きで息を吹きかけるだけで倒せてしまうような相手だ。あくびの一つや二つ、出てしまう。

 

「”火拳”!!」

 

「「「ぐぎゃあぁっ!!」」」

 

「おいっ、気を付けろエース! 俺達まで燃やす気か!」

「勘弁してくださいよ、船長!」

 

 そう考えると、同じ東の海(イーストブルー)出身でありながらエースは破格の強さを持っていると思う。しかもまだまだ伸びしろがありそうだ。

 ちょうどエースは敵の船の上で巨大な炎の拳を繰り出し、敵諸共船を焼き尽くしたところだ。轟々と赤く燃え盛る炎が船を瓦礫へと変えていく。あまりの広範囲の攻撃に一緒に乗り込んでいたデュースとスカルも巻き込まれかけ、抗議していた。

 

 メラメラの実…。エースはその悪魔の実と呼ばれる代物を食べて炎を扱えるようになった、能力者という存在らしい。あの炎から感じる波動は、魔力を行使した際に生じるものと非常に酷似している。恐らく長い年月の中で環境と共に魔力の在り方も変化し、限られた者しか扱えないような形になっていったのだろう。

 

 私は欄干に頬杖をつき、ギャーギャーと騒ぐ三人の様子を眺める。

 

「ほら先生、あっちもちょうど終わったみたいよ」

「……いや、まだのようです」

 

 そう言うとミハールはキッと視線を強め、銃を構えた。すると敵の船上で、炎上する瓦礫の山が持ち上がったかと思うと、その下から大柄な男が出てきた。敵船の船長だった男である。手には大きな戦槌を持っていて、まだ勝負を諦めていないようだ。

 

「おのれっ…よくも…!」

「先に仕掛けてきたのはお前らだろ? 悪く思うな」

 

 傷だらけの身体でズシンと、重い一歩を踏みしめる敵の男。それに対してエースは不敵な笑みを浮かべると腕を引き、手のひらを上に向けた。この場で”あれ”を試すつもりらしい。意図を汲み取ったミハールも援護不要と察して、構えていた銃を下ろした。

 

「うおぉぉっ!!」

 

 戦槌を大きく振りかぶり、突進する敵の男。エースは目を閉じ、精神を集中させている。

 そして戦槌が頭に直撃する瞬間、エースは目をカッと見開いて腕を振るった。

 

 

「”獄炎(ヘルブレイズ)”」

 

_ズオォォッ!!!_

 

「ぐおぉぉっ…!?」

 

 その手から発せられたのはメラメラの実の能力由来のものとは違う、漆黒に染まった禍々しい炎。魔神族の闇の魔力によって生成した特別な炎である”獄炎(ヘルブレイズ)”だ。それに呑みこまれた敵の男は床板もマストも何もかも巻き込み、吹き飛ばされて海へ落下していく。黒い炎は落水しても消えることがなく、男と共に沈んでいった。

 

「……あれで何割なんです? メラスキュラさん」

「そうね…、2割といったところかしら」

「2割…。ふふ、魔神王への道のりはまだまだ長そうですね」

 

 エースの強さは破格であり、潜在能力も計り知れない。私がそう感じる大きな理由がこれだ。

 この男、人間でありながら『慈愛』の戒禁に適合してしまっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは3週間前、エースとデュースと出会ったあの島を出航する前のことだ。

 10の戒禁を集め、魔神王になることを決意したエース。『信仰』の戒禁は私が所有しており、『慈愛』の戒禁は手の中にあるため残りは8つである。

 

 そこで何を思ったか、エースは『慈愛』の戒禁を自分に取り込ませてほしいと言ってきた。

 エースを魔神王にする旅に同行することを承諾したとはいえ、やはり魔神王様の断片を人間が取り込むのは自殺行為だ。強大な闇の力に耐えきれず、内側から自壊してしまう。私はその危険性を訴え、反対したのだがエースはどうしてもと言ってきかなかった。曰く…

 

「お前が尊敬している魔神王ってやつを、この身で体感してぇんだ!」

 

 …とのことらしい。結局私はその押しに負け、エースに『慈愛』の戒禁を与えることにした。

 ただし、いきなりではない。まずは私が比較的弱い魔力を流し込んで、身体を闇の力に慣らしてからだ。これで合わないようだったらそれを口実に諦めてもらおうとしてたのだが…、想定外にもエースは闇の魔力に早々に順応した。

 

 少しずつ魔力を強めてみてもエースは問題なく順応する。時折苦しそうな様子を見せたりするものの、数秒後にはけろりとした顔になっていた。

 予想外過ぎる反応である。私が知っている人間なら、忽ち蝕まれて命を喰らい尽くされるような闇をその身に収めても、エースは平気な顔をして立っていた。

 

 

「…じゃあ、貴方に戒禁を与えるわ」

「おう、頼む」

「無理だと感じたらすぐに教えて」

「ああ、分かった」

 

「エース…」

 

 可能性がありそうだということが分かってしまったので、エースに『慈愛』の戒禁を取り込ませることになった。デュースがごくりと唾を飲んで見守る中、私は戒禁をエースの胸に押し当て、呪文を唱えた。

 

「イシメヨマ…シガイ・エニワ・コタ…ガラカチ・ワ・ナトレ…」

 

 『慈愛』の戒禁はエースの胸の中に吸い込まれていく。

 

「っ…!! ぐああぁぁあっ!!」

 

「エースっ!」

 

 その瞬間、エースは大量の脂汗をかいて地面に蹲った。心配したデュースが駆け寄ろうとするも、私はそれを止める。

 今のエースは自身の中で膨れ上がる闇を制御しきれていない状態、人間が近づくのは危険だ。

 

 やがてエースの変化は肉体的にも目に見えて分かるようになる。何かが蠢くようにボコンッ、ボコンッと身体の様々な部位が膨らんでは縮み、身体からドロリとした闇が放出され、辺りに散らばる。やはり私の闇と魔神王様の闇とでは格が違うようだ。

 

「メラスキュラ! 今すぐ止めてくれっ! このままじゃエースがっ…!」

「いえ…恐らく大丈夫よ。信じられないことにね」

 

 慌てるデュースに対し、私は冷静だった。内心では目の前で起こる信じられないことに動揺しまくっていたけど。

 変化が激しかったのは最初だけで、エースは魔神王様の力をも徐々に吸収していたからだ。少しずつ呻き声が小さくなっていき、四方に放出される闇や身体の反応もなくなっていく。

 

 やがてエースは完全に『慈愛』の戒禁に適合してしまった。先ほどまで苦しんでいたのが嘘のように、けろりとした顔で立ち上がる。何でもないような顔で自分の手や腕を眺め、戒禁を取り込んだ自分の身体を確認している。

 

「…驚いたわね」

 

 思わず感想が口からこぼれていた。魔神族として生まれて300年以上。こんなに驚いたのは初めてかもしれない。

 私が知る人間の中にもそれなりの強者はいた。魔神族に匹敵する強さを持つと謳われていた、剣聖カルフェンや戦王タラテノスがその代表だ。だが魔神族の闇を、しかも”戒禁”を取り込みものにした人間など見たことがない。

 

「おめでとう。どう? 戒禁を取り込んだ感想は?」

「エース、大丈夫なのか?」

 

「…ん? あぁ、まぁな」

 

 私とデュースが声をかけるも、エースはどうやら実感が湧いていないようだ。おもむろに砂浜に落ちていた小枝を拾って手の中で弄ぶ。

 

 

 

 

 

「……ふっ!」

 

_ズッパアァァァンッ!! ゴゴゴゴゴッ…!!!_

 

 

 

 

 

 そして軽く、あくまで軽く手にした小枝を振ってみた。

 するとその直線状にあった砂浜も、草木も、地面も、山も…、何もかもがザックリ二つに割れてしまった。凄まじい地響きが起きて地形が変わる。デュースも、そして実行した張本人のエースも何が起きたか分からないようで、あんぐりと口を開けて固まっていた。

 

「エエエエ、エースッ! おまっ、いったい何したんだよっ!?」

「し、知らねぇよ! ちょっとこう、やってみてぇなって思ったら……!!」

 

 慌てふためく二人。でも私はその現象にどこか懐かしいものを感じていた。この膂力、太刀筋…。私達十戒を率いていた男の剣技そのものだ。

 

「それは十戒の一人、”メリオダス”の力よ」

「メリオダス…?」

「ええ。その『慈愛』の戒禁を所有していた男…。十戒の統率者として名を馳せ、次期魔神王の呼び声も高かった魔神族の天才戦士…。もっとも、今貴方が使った力はその1割程度だけど」

 

 戒禁は主の力を覚えていたらしい。それを取り込んだエースはメリオダスの力をも行使できるようになったようだ。さすがにまだ適合したばかりで器が育ち切っておらず、発揮できるのは本来のそれと比べて搾りカスのような力…。だがそれも、エースの成長次第ですべての力を引き出すことができるかもしれない。

 

 つくづく面白い男だ。大言壮語ではなく本当に魔神王になってしまうかもしれない。

 私は改めてエースという男の可能性を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・メラスキュラ
 十戒の一人、”信仰”のメラスキュラに成り代わり転生した人。
 スペード海賊団の船員となった。エースの魔神王への道の、案内役兼師匠的ポジ。エースの底知れない可能性を肌で体感し、身震いしている。
 ちなみにこの後エースに、戒禁の呪いを意識的にオフにする術を教えている。そうしないと仲間にも呪いを振り撒いてしまう可能性があるため。

・エース
 海賊王を超えるため、”魔神王”になる男。
 船を手に入れてスペード海賊団を結成。新たにスカルとミハールを仲間にした。
 『慈愛』の戒禁を取り込み、適合に成功。魔神族由来の魔力を扱えるようになる。今後の成長次第でメリオダスと同等か、それ以上の力を持てる可能性あり。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。