▼
私達スペード海賊団は少々特殊な
世は大海賊時代。海賊なら誰しも、海賊王ゴールド・ロジャーが残したという”
だが、
この戒禁探しが結構骨が折れる作業だ。戒禁の存在と方向程度は私が感じることができるのだが、その正確な位置までは分からない。そのため、存在が予想される地点の周辺の島々で聞き込みを行い、それらしい場所を絞っていく必要がある。欠片とはいえ魔神王様の力が存在する周辺には何らかの変化が起きている可能性が高いため、それをヒントにするのだ。
そんな地道な
「…ふぅ、大分情報が集まってきたな」
「ええ。ようやく次の戒禁の在りかを突き止めたわ」
船の甲板。私達はテーブルに海図やメモを広げ、次に向かう島について話し合っていた。
ここ数日、様々な島で調査を行い情報を集めていった結果、次の戒禁は”エルモア島”というところにあることが分かった。私が感じている方向にも合致する。恐らく間違いないだろう。
「…エルモア島ですか。確かにその島は昔から不穏な噂を耳にします」
「船乗りの間でも有名な島ですぜ、船長。何でもその危険性から10年前、海軍支部が立ち入り禁止区域に指定したとかで…」
ミハールが眼鏡の位置を直しながら語り、スカルもまたこの数日で得た情報を口にする。
エルモア島…。植生が豊かに発展した島であり、かつてはその土地を活かして農耕が盛んに行われていた島だったそうだ。しかし、穏やかだったその島の様子はある時を境に一変。まるで地獄がこの世に顕現したかのような恐ろしい場所に変わってしまったらしい。
曰く、島全体がいつも夜のように暗い、島が生き物のように動く、血を流す樹や不気味な鳴き声をあげる苔、人の肉を貪り喰らう虫がいる…等々。どこまでが本当かは分からないが、以前のエルモア島とは違う環境になってしまったことは確かなようだ。
恐らく戒禁が放つ呪いや瘴気の影響だろう。私やエースのように相応しい器の所有者がいる場合、戒禁は安定した状態になってその力も制御可能なのだが、そうではない場合、例えば島の住人が偶然戒禁を発見して何かの間違いで取り込んでしまった場合は話が別だ。中途半端に器を与えられた戒禁は宿主を吞み込み、無差別に闇を振り撒く厄災となることが考えられる。
加えてこのエルモア島にはもう一つ噂があった。島に近づく者の”心”を奪い去ってしまうというものだ。
いつの世にも命知らずな奴はいるもので、変わり果てたエルモア島を調べようとこれまで何人もの冒険家や海賊が足を踏み入れたらしい。しかし、その大部分は二度と帰ることがなく、奇跡的に生還した者も廃人になり果ててしまったという。以前の自分のことを何も覚えておらず、周囲が何をしても反応を示さない。空腹になっても、病に伏しても、死の直前でさえ無感情。まるで”人形”のように何も感じない生きる屍となったそうだ。
「…なるほど、十中八九それは『無欲』の戒禁の呪いね」
その現象に私は覚えがある。戒禁の呪いの中でもとりわけ無情かつ厄介な代物。私が何十年もかけて戒禁の呪いを制御する術を編み出すまで、その所有者は呪いを振り撒くことがないように牢に監禁されていたという曰く付きのものだ。
「メラの姉御、その『無欲』の呪いってのはどんなものなんです?」
「”欲”を抱く者のすべての記憶と感情を奪い去ってしまうの。物欲はもちろん、情欲、食欲、睡眠欲、承認欲…、ありとあらゆる欲が対象となるわ」
「……なるほど、恐ろしい呪いですね」
私が話した『無欲』の呪いの内容に、スカルはひっと息を呑んだ。ミハールも冷静さを保っているが、冷や汗を流している様子。
エルモア島の現状を解決しようと過去何度も海兵が派遣されたらしいがどれも失敗に終わり、ついに立ち入り禁止区域に指定されたという話だが、『無欲』の戒禁が原因なのであれば納得である。どんなに屈強な人間であっても呪いにかかってしまってはどうしようもない。対処法も解呪の方法も知らないのであれば尚更だ。
「…どうする? エース。初っ端からでけぇヤマのようだが」
これまでの話を聞き、腕組みをしたデュースがエースに尋ねた。スカルもミハールも船長である彼の方を向く。
「へへっ、行くに決まってんだろ! 野郎ども、出航だ!」
だが、聞くまでもなかったようだ。エースはトレードマークのテンガロンハットを被り直し、ニッと快活な笑みを浮かべた。恐怖と瘴気に満ちた島も恐ろしい呪いも、この男にとっては冒険の楽しみをより高めるスパイスにしかならないらしい。
エースの高らかな声と共に、ピース・オブ・スパディル号はエルモア島に向けて出航した。
・
・
・
「おいおい、こりゃあ…」
「ひぇ~、想像以上ですねぇ。デューの旦那」
「ここがエルモア島…。かつて農耕で栄えたという島が影も形もありませんね…」
船を走らせて約1日、私達は目的地のエルモア島に到着した。その景観にデュース、スカル、ミハールの三人が三者三様の反応を見せる。
辿り着いたエルモア島はこれまで巡ってきた
昼間であるはずなのに島周辺が全体的に薄暗い。島自体が薄っすら闇を放っていて、それが光を遮断しているような様子だ。そして島の海岸沿いには停泊したまま何十年も放置され苔まみれになってしまった船や、波で破壊された船の残骸がいくつも見られる。これまでエルモア島に足を踏み入れ、そして帰らぬ者となっていた人間達の痕跡だろう。
そして船の上から見ただけでもその植生や生き物の様子は異様だ。
時折水面を跳ねる魚は突然変異でも起こしたように紫色の不気味な容貌になっていて、島の奥からこちらを睨みつける狼は目が3つもある。
植物もまた様子が違う。これまでの島では見られなかった樹皮が炭のような黒い樹が立ち並び、青白く発光する花も咲いている。その植物達が作り出す空気は澄んだものではなく、むしろあらゆる生物を腐敗に導くような不浄なものだ。
「へぇ…面白いわね。この島、私が生まれ育った魔界にそっくりよ」
その環境に私は懐かしさを覚えていた。戒禁から放出された魔力と瘴気が生み出したこの環境が、非常に魔界と酷似していたからである。
考えてみれば当然だ。戒禁は魔神王様の力の欠片。魔界はその魔神王様が生み出したものなのだから、同質の力を浴びれば自然とその環境は魔界に似てくる。しかし、その現象をこの目で見たのは初めてだったのでとても興味深く感じる。
「魔界ってこんな感じなのか…。とんでもねぇな」
「あら、住んでみれば意外と快適な場所よ。資源も豊富だしね」
例えばここからでも見える黒い樹。あれは”黒棘樹”といって、魔界ではよく見られるメジャーな植物だ。樹液は血のようにどろりとした赤い液体で、一見すると確かに不気味極まりない植物なのだが、その葉や種には強力な滋養強壮効果や治癒力向上の効果がある。適切に加工すれば人間にも有効な薬になって、不治の病や損傷した神経でさえも治すことができる。
カサカサと地面を這い回る白銀の蜘蛛。あれも魔界でよく見た生物で、体内で作り出す糸がとても便利な資材だった。強度が尋常ではないほど強靭で熱耐性もあるため、軍服などの素材によく用いられていた。船の補強にも使えるかもしれない。
思わぬ収穫だ。戒禁だけではなく、この島の資源も可能な限り採取していった方が良いだろう。手先が器用なスカルや、知識が豊富なデュースとミハールがいることだし、私が協力すれば魔界由来の薬や道具をいくつか再現できるかもしれない。
「じゃあデュースとスカル、手を出して」
「ん? ああ…」
「何ですかい?」
私は手を介して二人に魔力を伝達し、闇を分け与えた。二人の身体が一瞬黒い靄に包まれたかと思うと、すぐに消えて身体の中に吸収される。
「メラ、これは何だ…?」
「私の『信仰』の加護を少し分けてあげたのよ。戒禁の呪いは同じく戒禁を持つ者には効かないようになってるから、これで貴方達も『無欲』の呪いにかかることはないわ」
「本当ですかい! そいつはありがてぇ!」
島に上陸するのはエースと私、デュースとスカルの四人だ。インドア派のミハールはこういう時いつも船番を担当していて、今回も例に漏れずお留守番だ。
「よっしゃ! 行くぜお前ら!」
「あっ、おい待て! エース!」
猪突猛進なエースは一等先に島に上陸。未知なる場所に目を輝かせてどんどん奥へ進んでいく。デュースとスカルがその後を追って上陸した。
「…じゃあ先生、行ってくるわね」
「えぇ、メラスキュラさんもお気をつけて」
私も彼らに続き、ふわりとその島に降り立った。
・メラスキュラ
十戒の一人、”信仰”のメラスキュラに成り代わり転生した人。
スペード海賊団の船員となった。エースの魔神王への道の、案内役兼師匠的ポジ。
少しずつ海賊としての生活に慣れてきた。エースやデュースからは”メラ”という愛称で呼ばれるようになる。
・エース
海賊王を超えるため、”魔神王”になる男。
目的が戒禁を集めて魔神王になることなので、原作ほど急いで
漠然と高みを目指していた原作と違い、魔神王という明確な目標がある分心に余裕がある。そのため、ルフィのように冒険を楽しむ側面が出てきた。