火拳のエースは魔神王を志す   作:みるちー

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其ノ八 ~毒蛇と偉大なる航路~

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前スカルが話していたように、偉大なる航路(グランドライン)は一味も二味も違う海だった。

 

 比較的天候が安定していて気候が読みやすかった東の海(イーストブルー)と違い、偉大なる航路(グランドライン)では天気が目まぐるしく変わる。からっと晴れていたと思ったら急に雨が降り出し、と思いきや今度は雪。その次は強風、雷雨、嵐とコロコロ変わる。

 天気によって波の状態も変化するため、船の上は常に大忙しだ。航海士のミハールの指示に従って舵を切り、帆を畳んだり広げたりしている。

 

 加えてこの海では羅針盤(コンパス)すら使い物にならない。何でも偉大なる航路(グランドライン)に点在する島々は特殊な鉱物を含んでいる影響で磁気が強く、記録指針(ログポース)という特殊な羅針盤を用いなければ海の上でまともに方向すら知ることができないのだとか。

 

 …こうして特徴を挙げてみるとつくづくでたらめな海である。魔界や煉獄ならともかく、現世にこんなふざけた環境の海があったとは…。何もかも変わってしまった未来の世界というのは恐ろしい。

 …いや、もしかしたら私の時代でもすでに海はこんな感じだったのかもしれない。十戒としてあちこち駆け回る日々を送っていて、ブリタニアの外のことなんてほとんど考えたことがなかったから知らないだけで。一回くらい皆を誘って海水浴でも行けば良かったかなと今更ながら後悔する。

 

 

神火(しんか)不知火(しらぬい)っ!!」

 

 しかし、そんな海でもエースの勢いはとどまることを知らなかった。下る炎はこの世にはない。それを体現するかのようにスペード海賊団の船は荒波を意気揚々と越えていく。

 そして戦闘においても負けなしだ。今日もまた海賊(どうぎょう)の船と海で出くわし、海戦が勃発したのだがエースの炎が勢いよく敵を燃やしていく。手から撃ち出された槍状の炎が複数の敵を貫通、そのまま敵船の甲板に突き刺さって大炎上していた。

 

「ぐああぁぁっ!?」

「くそっ、自然系(ロギア)かよ! やっぱ強ぇ…!」

「怯むなっ! 6000万の首だぞ! 討ち取れば大きく名が上がるっ!」

 

「へへっ、船長だけを見てていいのか?」

「ふっ、無粋な客人にはさっさとお帰りいただきましょう」

 

 偉大なる航路(グランドライン)の海賊は厳しい環境を乗り越えているだけあって、東の海(イーストブルー)の海賊より数段強い。精神力も上だ。だがそんな海賊達と比較しても、スペード海賊団の実力は一歩先をいっている。エースだけではなくスカルやミハールも己の武器を持ち、戦闘。奮起して立ち上がってくる敵を次々倒し、海に放り込んでいた。

 

「……」

「そうよ、デュース。その調子。静かに、そして正確に魔力を練り込んで」

 

 そんな中、この男も最近力をつけ始めていた。デュースである。

 戦いの喧騒から少し離れた場所にデュースは立っていて、目を閉じていた。私の助言を受けながら自分の中の魔力をゆっくり充実させていく。その額と右目付近には闇の魔力を得た者の証である漆黒の痣が浮かんでいた。

 

「見ろっ、女だ!」

「ちょうどいい! あいつを人質に取るぞ!」

 

 そこへ私達の存在に気づいた海賊が二人近づいてきた。身なりや性別を見てエースよりは実力が劣ると判断したのだろう。少し錆びついた剣を構え、じりじりとこちらへ歩み寄ってくる。

 

「…”傀儡縛り(ジャック)”」

 

 そこでデュースが目を開き、指先から光を発射した。淡く桃色に輝くその光は敵の一人の頭に命中する。

 

「…っ! 何だ、今何を…?」

「お前、大丈_ぶがぁ!?」

 

 刺さった光は傷も痛みも齎さず、敵の男は困惑していた。しかし次の瞬間、持っていた剣で隣にいた仲間の男を斬り倒してしまう。突然仲間から攻撃を受けたその男は反応することができず、腹を斬られて倒れ込んだ。

 

「な、何だこりゃ!? か、身体が勝手に…っ!?」

「…いけ」

「う、うわあぁぁっ!!?」

 

 デュースの口から発せられた命令に従い、”傀儡縛り(ジャック)”の光を受けた男は戦場の中心へ全力で駆けていった。スペード海賊団と戦っている男の味方を背後から次々に斬っていく。デュースが奴の身体を操って仲間割れさせているのだ。

 

「さすがね、デュース。かなり様になっているじゃない」

「ああ、ようやく感覚が掴めてきたところだ」

 

 私の予想通り、デュースはあれからかなり早い段階で『無欲』の戒禁をものにした。あれだけ拒絶反応で苦しんでいたのはどこへやら、今は完全に適合して自分の力の一部としている。

 そして『慈愛』の戒禁を取り込んだエースがメリオダスの力を使えるようになったように、『無欲』の戒禁にもまた前宿主の力が宿っていた。魔界随一の魔術士と噂されたゴウセルの魔力、”創作(クリエイト)”および”侵入(インベイジョン)”だ。相手の精神や記憶に作用し、肉体をも操ることが可能な魔力。頭脳派であり、肉体的な強さはエースに劣るデュースの弱点を上手くカバーできる相性の良い力と言えるだろう。

 最初の適合こそ苦労したようだが、取り込みさえしてしまえば元々器用なデュースは魔力の扱いをすぐに覚え、エースにも負けない速度で成長している。

 

 仲間が強くなることは嬉しいのだが、やはりこうもあっさり戒禁を使いこなされると十戒としては微妙な気持ちになる。人間は魔神族から見ればひ弱で、ブリタニアに住む種族の中で最も脆弱で短命で惰弱なんて揶揄されることもあったのだが、もうそんな常識は通用しないのかもしれない。

 

 

「”火柱”っ!!」

 

 そうこうしている内に戦闘が終わったようだ。エースがとどめと言わんばかりに空中に飛び上がり、極太の炎を発射。敵船を焼き尽くし、押し潰していた。木造で少しレトロな雰囲気のあった帆船は木片へと変わり、海に沈んでいく。

 

「終わったか…。最近襲撃が多いな。これで3日続けてだ」

「嬉しい悲鳴というやつじゃない? これもエースの名が上がった影響なんでしょう?」

「まあな…」

 

 デュースは懐から一枚の紙を取り出し、眺めた。

 手配書だ。でかでかとエースの顔写真が貼られており、その下には"DEAD OR ALIVE"の文字がある。いよいよ私達スペード海賊団は海の治安と秩序を守る海軍に目を付けられてしまったということだ。

 加えてエースの首にかけられた6000万ベリーという懸賞金は、まだ旗揚げから1年も経っていないルーキーとしては極めて破格の額らしい。同時期に偉大なる航路(グランドライン)を果たした他の海賊と比較しても頭一つ抜けている。私達は戒禁探しのために様々な島を巡り、道に立ち塞がった海賊や山賊は片っ端から倒してきているため、それが脅威とみなされているのだろうか。

 ともあれこんな額をかけられたルーキーは他の海賊や賞金稼ぎからは良い獲物に見えるらしく、ここ最近は目に見えて襲撃を受ける頻度が上がっていた。

 

 

 

「デューの旦那! 前方にまた船です!」

 

 とそこへ、スカルの叫び声が響いた。戦闘を終えた後スカルは見張り台に登り、周りの様子を確認してくれていたらしい。そんな彼がスパディル号の前方を指差している。

 言っている側からまただ。たった今戦闘を終えたばかりだというのに、本日2度目の襲撃者が現れたようだ。

 

「人気になったもんだな、この船も。今度は何だ? 海賊か? 賞金稼ぎか?」

「いえ、海軍です! 軍艦が3隻、こっちに向かってます!」

 

 うんざりした顔のデュースが皮肉交じりに返事を返すと、スカルがその襲撃者の正体を口にした。スパディル号よりも数段大きい、旗にカモメのマークを掲げた軍艦がこちらに向かっているらしい。海賊の天敵である海軍の船だ。

 

「…なるほどな、奴か。そういやあいつにも追われていたな」

「ほんと、いい根性してるわよね、あの娘」

 

 そしてその船の持ち主に私達は心当たりがある。偉大なる航路(グランドライン)に入ってからというもの、私達はとある海兵に執拗に狙われ続けているのだ。船員の間に「またか…」というある種呆れのような雰囲気が広がっていく。

 そんな中エースは船首に立ち、向かってくる軍艦の方を見据えてにかっと快活な笑みを浮かべた。まだまだ闘気が溢れているといった様子で両拳を突き合わせ、その海兵の名を口にする。

 

「へへっ、来い! イスカ!」

 

 

 

 

 





・メラスキュラ
 十戒の一人、”信仰”のメラスキュラに成り代わり転生した人。
 スペード海賊団の船員。エースの魔神王への道の、案内役兼師匠的ポジ。
 エースやデュースなど、メキメキと力をつける仲間達に喜びと呆れが混じった感情を抱いている。

・エース
 海賊王を超えるため、”魔神王”になる男。『慈愛』の戒禁を所持している。
 あちこちの島を巡り、名のある海賊や山賊をいくつも潰してきた結果ついに賞金首となる。価格は6000万。ルーキーとしては極めて異例。
 その背景にはエースが戒禁を探し回っていることがあるとかないとか…。

・デュース
 エースの最初の仲間でスペード海賊団の副船長兼船医。
 『無欲』の戒禁を取り込み、その力をコントロールできるようになっている。ゴウセルの力は潜入や諜報にうってつけ。エースではできないことをカバーできそう。
 






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