とある夏の朝。
雲一つない青空の元、庭の木々を吹き抜ける風は心地よく、どこからか聞こえてくる蝉の声さえ夏の風情を感じさせた。
小鳥たちは楽しそうにさえずり、近所の子供たちの元気な声が住宅街に響いている。
実に平和な朝だった。
「貴様、お好み焼きにマヨネーズをかけるとはどういう了見だ。お好み焼きの完成された味にマヨネーズは蛇足であろうが。」
「アホか。マヨネーズがあってこそお好み焼きは完成するんだろうが。シベリアの寒さで頭おかしくなったんじゃないか?」
実に平和な朝だった。
第二話「東部戦線?」
「まったく、初日から喧嘩するのやめてくれない?お好み焼きにマヨネーズかけるかかけないかぐらいどうでもいいじゃない。」
朝っぱらからしょうもない争いに巻き込まれて不機嫌なウリエルは、目の前の逆さ吊りにしたバカ二人を前に、説法を行っていた。
「馬鹿物!お好み焼きにマヨネーズをかけるなど、言語道断だ!マヨネーズをかけるのは大阪焼きでしか行わない邪道!ソースの味を守るべきだ!」
マヨネーズを拒否するこの黒髪のオールバックの男の名前は星田陸。かつてスターリンと名乗っていた元独裁者である。
「お前頭の中脳みそじゃなくて赤色のウォッカでも詰めてんじゃないのか?本場大阪でのお好み焼きでは、戦後間もなくから伝統的な味付けとしてマヨネーズが用いられているんだぞ。お前、とうとう食事まで粛正を始めるつもりか?」
(そもそも今食べてるのはもんじゃなんですけどね)
陸のマヨネーズ批判と広のマヨネーズ信仰の両方の前提を崩す事実を律は理解していたが、言わぬが吉と口にしないでいた。
「この調子じゃ今後の生活不安しかないなあ。一応あんたたち三人、現世で更生生活を送っているってこと忘れないでよね。仕事だってあるんだから。」
大前提として、広、律、陸の三人が現世にいる理由は更生生活を行うためである。そこで、彼らには更生プログラムが組まれており、その中に「生前の所業を考慮した反省のための仕事」を組み込まれているのである。
安藤広こと元ヒトラーは、「異なる人種の否定に基づいた大罪」に対する反省のために
――語学学校でドイツ語を教える先生をしている。
星田陸こと元スターリンは、「粛正によって多くの命を奪った大罪」に対する反省のために
――保育園で保育士をしている。
村祖律ことムッソリーニは、「よくわかんないけど独裁者だった大罪」に対する反省のために
――アパレルショップの店員をしている。
「いや、僕だけなんか適当じゃないですか?」
「だってあんた影薄いんだもん。イタリアと言えばアパレルでしょ?」
「あんたの本拠地イタリアのど真ん中でしょうが。なんでイタリアに対する認識が浅いんだ」
「私の守備範囲は世界中でーす!!イタリアに引きこもってるわけではないんでーす!」
「なんのためにバチカン市国作ったと思ってるんですか。たまにはちゃんと家に帰りなさい」
「嫌でーす」
「何と罰当たりな会話をしとるんだこいつら。それはそうと、そろそろおろしてもらえませんかね?」
「うむ。早いところマヨネーズ談義を終わらせなければならぬのでな。」
律とウリエルの何とも低次元な言い争いにあきれた表情を見せた広は、いまだに吊り下げられた現状の改善を要求した。もっとも、陸は白黒はっきりしたいみたいだが。
「もとはと言えばあんたたちのせいでしょ。おとなしくぶら下がってなさい。あとあんたたち朝ごはん抜き」
「そんな殺生な!現世での体では普通に腹が減るんだぞ!」
「シベリアでも飯は食わせたぞ!大天使はその程度のこともできんのか!」
「もっかい地獄へ落とすぞ」
「「すいませんでした」」
と、このように史実通り、広と陸の仲は決していいものではなかった。そして当初の懸念通り、この二人の対立は数多く表れた。
――ケース1「右か左か」
かつては共産主義(左)嫌いとして有名だった広と共産主義のトップだった陸の対立は現代でも続いていた。
「エスカレーターは右側通行が基本だろ?」
「なにを言うか!エスカレーターは左側通行であるべきだ」
「そっちの左右かよ」
律は思わず突っ込んだ。
――ケース2「赤と黒」
かつての時代、それぞれの軍服の色のシンボルは黒と赤であった。
「やっぱ服は黒一択だな」
「いや!赤である。赤こそが至高!」
「パンツ一丁で言い争うな」
ウリエルは額を抑えた。
――ケース3「犬か猫か」
犬と猫、それぞれで持つ印象は大きく変わる。
「犬は忠実だ。俺もかつてドイツの山荘で犬を飼っていた」
「忠実さを求めるとは、実にナンセンスだな。猫は自由である。自由こそあるべき姿だ!」
「飼おうとしてるのがポメラニアンとマンチカンでなければかっこよかったのでござるが」
アーノルド・ヘイデン・イングリッド・健・シュミット五十四世は思わず突っ込んだ。
「「「「いや、誰だお前?」」」」
「名乗るほどの物でもありません」
そして数日後、事件は起きた。
「で?何か言いたいことは?」
ウリエルは逆さ吊りになった二人を見下ろした。
「「あの部屋は俺(私)の物だ!」」
「部屋一つで戦争を始めるな」
「私が先に目を付けていた!」
「ふざけるな!あの広さなら俺の趣味部屋に最適だ!」
「知るか!」
どうやら二人は家の中央にある一室の所有権を巡って争っていたらしい。
広の部屋と陸の部屋のちょうど中間。
誰のものとも決まっていないその部屋を見つけた瞬間、両者の領土欲が刺激されたのである。
「一人一部屋あれば十分じゃない?なんで間の部屋まで欲しがるの?」
一人ずつに与えられている部屋は大体10畳くらいある。特に不自由する広さではないのだ。
「そこに土地があるなら支配するのが独裁者の務め!ほかに理由などいらん!」
「わが共産圏拡大のためには土地は必須!放置などありえん!」
「何のために現世で更生させられとるか忘れたんかこいつらは」
生前から一切変わっている気がしない二人の主張を聞いたウリエルの額には青筋が浮かんでいた。
「こういう時は話し合いで決めればいいじゃん。」
「そうだな。それもアリだな」
ダメもとで出した提案に対して広が乗り気の答えを見せ、更生も無駄ではなかったかとウリエルは安堵した。
――だが、それは間違いだった。
「おい陸、鼻死合(はなしあい)の時間だ」
「良かろう。身射血苦(ミーティング)だな」
「ちょっと待てい!」
明らかに血を流すことが確定しそうな単語が聞こえたため、ウリエルは二人を制止した。
しかし、ここで思わぬ助っ人が入った。ここまでセリフがほぼ皆無の律である。
「セリフが少ないのは作者の怠慢です。まあ、それはさておき。ウリエルさん、こういう時は話し合いは意味を成しませんよ。何しろこいつらは犬猿の仲かつ主義主張も相いれない不俱戴天の敵同士ですから。」
律の言うことももっともである。だがしかし、大天使としては無秩序な戦いは容認できないところがある。
――そう、あくまでも無秩序な戦いならば。
「よし、じゃあこうしよう」
「さあ、始まりました!まさかまさかの超有名独裁者同士のビッグマッチ!」
「実況及び解説は私村祖律がお送りいたします」
「『間の部屋の所有権を決める』という何ともくだらない目的のために行われる今回のビッグマッチ。地獄からやってきた悪魔たち200人ほどがこの世紀の戦いを見届けるために前楽園ホールに集まりました!」
瞬間、ホールの端に設置された二つのコーナーに人影が現れた。
「さあ、ついに両選手の入場です」
悪魔たちの大歓声の中、今回の当事者である二人がそれぞれのコーナーから姿を現した。
「お待たせしました!ウォッカコーナー、400ポンド!レッドアイアンジム所属!星田陸!」
ウォッカコーナーから赤いガウンを着た陸がシャドーボクシングをしながら現れた。
「いけ―!」
「赤色の意地を見せろー!」
「ワイン分けてくれー!」
悪魔たちの歓声が陸を歓迎する、だが、この場にはもう一人主役がいる。
「ウォッカコーナーに続き、ビールコーナーより入場するのは、410ポンド!鉄十字ジム所属!安藤広!」
ビールコーナーから黒いガウンを着た広が両手を高く上げながら現れた。
「ぶちかませー!」
「勝ったらファミコン買ってくれよー!」
「デンプシーロールみせろー!」
「ハートブレイクショット見せろー!」
陸の時に匹敵あるいは上回る歓声が広にかけられた。最も第四の壁を越えた歓声も多く聞こえたが。
「いやー、すごい歓声ですねー。一体どちらが勝つでしょうか?出番がここだけの『下位下位電気』さん?」
「どちらもありうる、、、、、、そんだけだ」
使い捨てキャラの予想をよそに、陸と広はリングに上がった。
リングの上には、珍しくスラックスを履いたウリエルが建っていた。蝶ネクタイ付きのシャツをつけ、革靴を履いていることから本格的な試合が始まると考え、陸と広の表情が険しくなった。
「二人とも、準備はいい?」
「もちろん」
「良いとも」
「OK。じゃあ、ルールをいくつか説明するね。」
「1. 正々堂々と戦うこと」
いたって当然のルールである。
「2. 版権を侵害しないこと」
もういまさらじゃね?
「3. 核兵器を用いないこと」
あってたまるか
「4. コントローラーを投げないこと」
・・・・・・ん?
「5. 既存のキャラじゃなく、自身をモチーフにしたキャラを用いること」
あれ?この対決って自分の体一つで戦うんじゃなかったっけ?
「6. 対戦にはゲーム〇ーイアドバンスを用いる」
古くね?
何かがおかしい。会場にいる全員が考えていた。
「7. 今回の対決の内容は
、、、、、、、、ス〇リートファイターとする!!」