ヘイズさん、結婚してください!   作:ねをんゆう

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この作品は全ての要素がヘイズさんとイチャイチャするためにあります。
最新のファミリア・クロニクルは読んできましたが、その上で多少の設定抜けと捏造についてはご承知ください。
よろしくお願いします。


01.陽気な日

「ヘイズさん、オレと結婚してください……!」

 

 

 

「……やーです」

 

 

 

「くぅっ……!」

 

 

 

 384戦0勝384敗。

 今日も順調に伸びていく敗北記録、そんな見慣れた光景に周囲に散らばるフレイヤ・ファミリアの団員達も呆れたような顔をするばかり。そして今日という今日もバッチリと敗北した男は、ズルズルと引き摺り出されて門の外へと追い出されていく。告白された女はその様子をジトッとした目で見つめるだけ。

 

 悲しいかな、これはいつものことだ。

 

 特に何も変わらない日常の光景だった。

 

 

 

「あのなぁ、お前もいい加減に諦めらたらどうだ……」

 

「あんたは『フレイヤ様を諦めろ』って言われて素直に頷けるのか……?」

 

「いやそりゃ無理だが……よりにもよってヘイズさんはキツいだろうよ、あの人はあれで一番狂ってんだ。もちろんフレイヤ様を相手にな。お前も分かってんだろ」

 

「オレだって同じくらいヘイズさんに狂ってる、負けてない以上は諦める理由にはならない」

 

「まあ、それはそうかもだが……否定出来ねぇのが怖ぇよ、もう。他から見たオレ達ってこんな感じなのか」

 

 

 すっかり顔馴染みになってしまった門番とそんな軽い会話をするのもまたいつものこと。

 今日は荷物配送のバイトという名目でこの館に入り込んだが、そろそろネタも尽きて来たか。それでもこの心に灯った炎が尽きることはない。あの桃色の天使に心奪われたあの日から、一瞬たりともその炎が曇ったことなどない。

 

 故に男は今日も当然のようにフレイヤ・ファミリアの館の中に入って、その美しい姿を一目見て、流れるような勢いで想いを吐露して普通に断られたのだ。しかもたった一言で。会話などは特にない、そこにあるのは勢いと熱情だ。

 

 

「というか、あんたこんなことしてていいのか?明日からロキ・ファミリアは遠征なんだろ?流石に怒られるだろ、前日にこんなことしてたら」

 

「2軍だからなぁ……まあ怒られはするだろうけど、だからこそ出発前にヘイズさんの顔が見たかった。可能なら笑顔を見たかったけど、あの頬を膨らませながら軽く睨むような表情だけでもオレには十分過ぎる。何をやっても世界一可愛い人の顔を見ることより優先すべきことなんてない!」

 

「それ俺じゃなくて直接言ってこいよ」

 

「いつも直接言ってる!」

 

「あぁそうだったな……」

 

「それでも心の本音の1/100も伝えきれていないのはアンタの言うとおりだよ……」

 

「そんなこと欠片も言った覚えはねぇよ」

 

 

 まあとにかく遠征頑張ってこいよ、なんて敵対派閥であるはずの人間から軽い応援を受けつつ見送られる。それに対してこちらも軽く手を振りながら、肩をすくむように溜息を一つ。

 

 目を閉じれば焼き付いた彼女の顔が思い浮かぶが、これも数日も経てば薄れてしまうのだから悲しい。出来れば遠征など行かずに毎日彼女のところに通い詰めたいが、それも過ぎれば迷惑だ。この感情を無責任にぶつけられたらいいのだが、それがしてしまえるほどに肝は据わっていない。明日この命を失うより、明日彼女と会えなくなる方がよっぽど恐ろしい。それが恋心というものだろう。

 

 ……もう十分に迷惑だと?そんなことは分かっている。けれど止められない、辞められない、それをするにはちょっと好き過ぎる。何度砕け散っても砕け散り足りないくらいに。

 

 

 

「ゴルァァァア!!どこ行っとったんやボケェ!!明日は遠征ゆうたやろがい!!」

 

 

「痛ぁっ!?」

 

 

 ――などとキメ顔をしていたら、突然に横道から現れた赤髪の女神による全力疾走ドロップキックが凄まじい勢いで脇腹に突き刺さる。

 

 吹き飛ぶ身体、ゴミの山に突っ込む。なんとも容赦のない主神の一蹴り、いくらなんでもそれは普通に痛い。

 

 

「何回言うたら分かんねん!懲りもせず毎日毎日フレイヤの館に出入りしとんちゃうぞボケカスコラァ!!」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い……!!頭が砕ける!!」

 

「砕け散れ!」

 

「眷属への容赦が微塵もない……!」

 

「そもそもなんで自由に出入りしとんねん!仮にも敵対ファミリアやろがい!!なんで抗争にならんねん!!」

 

「いや、好きな相手に会いにいくだけで抗争になる訳ないだろ……」

 

「急にまともっぽいこと言わんでええわ!追加やボケ!!」

 

「あぁぁぁぁああぁぁあー!!」

 

 

 ゴリゴリと両拳で挟み込むように頭部を穿たれる。

 そして普通に怒られる。これもまたいつものことだ、そして当然に反省の色はない。あるはずもない。あったとしても何も変わりはしない。

 

 

「……まったく、ええか?明日から遠征なんやで?せめて自分の準備くらいするべきやろ」

 

「荷物の準備と武器の整備はおわってるけど」

 

「アホ!他の子等はその上で色々やっとんねん!女の尻を追っ掛けとんのは自分1人だけや!」

 

「あーはいはい、分かったから。もう彼女にも会えたし、これから準備するよ」

 

「ほんま手がかかるわ!」

 

「悪かったってば」

 

 

 プンスカと怒るロキに手を連れられて、ファミリア拠点までの道を歩く。まあ確かにこの時期、他の団員達は連携を確かめたり、新たな試みの仕上げをしたり、最後の休息を取ったりと、色々なことをしている筈だ。

 

 だが言いたい、自分にとってこれは同じくらいに必要なものだったのだと。モチベーションを維持するために不可欠な行いであったと。許されるなら映し絵をペンダントにして持ち歩きたいくらいだが、それは流石に許して貰えないのでこうするしかないのだと。自分にとって何より優先すべき彼女のことを網膜の裏側で見つめながら、そう確信している。

 

 

「……」

 

「うん?なんや」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 

 ……まあ鋭いロキなのだから、そんなことだって彼女は分かっているのだろうけど。分かっている上で、こうして世話を焼いてくれているのだろうけど。

 

 

 

 

 

「んで、その結果が時間ギリギリ、遅刻ギリギリまでの睡眠かい。あん?」

 

「休息は大事、湯浴びもしたし。今更になって付け焼き刃を増やす必要ない。それは技術じゃない、ただの事故の素なのだ」

 

「……まあええわ、好きにせぇ。フィン達はもうとっくに広場におるからな、急ぐんやで。ウチも戸締りしたら見送りに向かうわ」

 

「うん。ありがとう、行ってくる。帰って来た時の打ち上げ、楽しみにしてるから」

 

「ほいほい、準備しとくから楽しみにしとき」

 

 

 肩に背負う鞄1つを持って、大通りを掛けていく少年を女神ロキは見送る。初めて出会った時と比べたら随分と大きくなった背中、飄々としているようで頼り甲斐のある男性。自分のことながら上手く育て上げたものだと、忙しいフィンやリヴェリアに頼れず懸命に世話を焼いた過去を思い出して懐かしさを噛み締める。

 

 ……まあそんな息子とも言ってしまいたい子供が、何の因果か敵対派閥の狂人に恋心を抱いてしまったことにだけは、心からの溜息が漏れてしまうのだが。

 

 

「なんでよりにもよって"女神の黄金(ヴァナ・マルデル)"やねん……同じヒーラーならアミッドの方やろ、普通」

 

 

 それはそれで色々と問題にはなっていたかもしれないが、それでも少なくとも、現状よりはマシであった筈だ。ロキだって素直に応援しただろうとも。

 

 

「そらまあ確かに、見た目はええ。容姿は完璧な美少女やし、フレイヤの連中の中ではまだ常識はある……けどなぁ」

 

 

 うーんうーん、なんて頭を悩ませるのもここ最近のルーティーンの一環になって来てしまった。

 なぜ一緒に育ててきたアイズや同い年の団員達とはこれっぽっちもそういう雰囲気にならないのに、あの狂信者にだけこうまで入れ込むようになってしまったのか。その一点だけは教育を間違えたのかもしれない。

 

 

 

 

「というわけで遅れました、すみません」

 

「なるほど……って、なるほどじゃなーい!!っす!!」

 

「ラウルさん、今日は気合入ってますね」

 

「緊張感!緊張感を忘れ物してないっすか!?これから深層に行くっていうのに、ギリギリまで熟睡してるとか考えられないっすよ!!なんならちょっと羨ましい!!」

 

「寝不足ですか?危ないですよ?」

 

「くぅっ、言われなくても分かってるっすけど……どうしても、どうしても遠征の前だけは目が冴えて……」

 

「ほんと、ラウルは昔からいっつもそうよね。それから"ハサ"、遅れた罰として道中は頑張ること」

 

「……なんかオレ、いっつも頑張らされてませんか?アキさん」

 

「それくらい悪いことしてるからでしょ、まったく」

 

 

 さて。ロキ・ファミリアの2軍というのは、他のファミリアで言えば普通に主戦力となる冒険者達が揃っている集まりである。概ねLv.3〜4は前提であり、その上で十分以上の連携と思考能力、そして経験と努力が積み重なっているため、レベルだけでなく冒険者としても非常に優れた者達と言えるだろう。

 そんな2軍メンバーの一員である男性冒険者:ハサ・ファーティマは、実のところロキ・ファミリアに入ってからそこそこ長い。年齢自体はまだ15ではあるが、実力もあり、信頼もそれなりにされている。そして人間関係も良好だ。本当に素行の悪ささえ無ければ文句がないと言うのに。

 

 

「それで、今日はどうだったんすか?"ハサン"」

 

「ラウル、それ聞く?分かりきってるじゃない」

 

「分かりきってないですよ、まあ振られましたけど」

 

「ほら分かりきってるじゃない」

 

「もしかしてがあるかもしれないでしょう」

 

「もしかしてがないから300回も振られてるのよ」

 

「384回ですから」

 

「もう400が近い……」

 

 

 ちなみにハサ・ファーティマは時々こうして『ハサン』と呼ばれることがあるが、これは初対面の際に『ハサさん』と呼んできた相手に『せめてハサンで良いよ』と返していることが理由である。そちらの方が呼び易いし、馴染み易い。

 彼としてもそのニックネームは悪くないと思っていたりする。一部の神々はなんとなく背筋を振るわせる名前であるのだが、まあそれはさておき。

 

 

「そんなハサンに、1つ良いことがあるわ」

 

「良いこと?……ラウルさんに貸してたナース物のグラビア本がやっと返ってくるとか?」

 

「ハサ!?なんでここでそんなこと言うんすか!?そんなにあのこと怒ってたんすか!?ひぃっ!?」

 

「……その件に関しては後でじっくりラウルに話を聞かせてもらうとして。はい、これアンタに贈り物よ」

 

「贈り物……?」

 

 

 カチャカチャと取り出されたのは回復薬が何本か入った小さな籠。本数こそ多くはないが、開けてみれば直ぐに分かるほどに高品質な治療薬。

 しかし一方で効能自体は単純であり、解毒薬も流石にディアンケヒト・ファミリアで売られているポイズン・ウェルミスの猛毒を解毒が可能なほどの品質ではないだろう。その上で隠すこともせず生真面目に瓶や菅に刻印されたそれはすっかり見慣れたもので、そんなものを自分に送ってくれる可能性のある人間などこの世界にただの1人しか居なくて……!

 

 

 

 

「ヘイズさぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!!」

 

 

 

「アイズ」

 

「うん」

 

「はぐっぅ!?」

 

 

 凄まじい勢いで走り始めようとした男の首を、近くにいた剣姫アイズ・ヴァレンシュタインが引っ掴む。感謝を通り越して再び顔を見に行こうとした見慣れた愚か者をひっ捕えたのだ。当然首が絞まって呼吸が乱れる、しかしそんなことも彼女は気にしない。

 ステイタスの傾向の都合上、ハサはアイズに筋力では敵わなかった。出発の合図に従って動き出した隊列と共にズルズルとされるがままに引き摺られていく。

 

 これだけは渡してたまるものかと、受け取った治療薬の入った籠だけは胸の中で大切に抱き締めて。苦しげに息をしながら、あまりに哀れなその光景。

 

 こうして見ているだけでも溜息が出てしまいそうだ。なにせ彼はほんと、ずっとこんな感じで。それはまあ昔よりは幾分も人間らしくなって成長はしたが、だからこそな部分は間違いなくあって。

 

 

 

 

 

「……ほんと、お馬鹿なんですから〜」

 

 

 

 桃色の髪を風に靡かせながら、建物の屋上から彼を見送る。ナースのグラビアがどうこうの話だけは聞き流すことにしたのは、仮にも年上なりの優しさか。

 ……まあ別にあんな回復薬があっても無くても何も変わることはないだろうし、なんならアミッド・テアサナーレが作り出したもっと質の良い薬だってロキ・ファミリアは持っているのだから、本当に御守り程度にしかならないだろうが……

 

 

「帰りましょっと……」

 

 

 頭を横に振りながら帰路を辿る。休憩時間はここまで、戻ればまたゲンナリとしてしまうほどの仕事が襲い掛かってくるのだから。いい加減にあの猪に毒でも盛ってやろうかと思わなくもないが、まあそれも別にいい。

 

 

「そろそろ追い越されちゃいますかね〜」

 

 

 雲1つない青空、絶好の散歩日和。ダンジョンに潜る人間には関係のないことだろうが、その分こうして楽しんでやろう。それも館に帰るまでの短い時間ではあるが、それくらいの気分転換をしていないとやっていられない。

 今回の遠征は10日くらいか、それとも2週間を超えてくるのか。短く貴重な静かな日々、準備をしておかなければ。

 

 

 ――ただでプレゼントしたなんて、誰も言っていないのだし。

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