ヘイズさん、結婚してください!   作:ねをんゆう

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10.噛み合う2人

「はあ、殺人事件ですか」

 

「どうせいつものイザコザじゃないんです?」

 

 

「どうにも男女の諍いらしい、2人で入って行った宿屋で起きたことだよ」

 

 

「いつものことですね」

 

「また命知らずの素行不良者が召されたんですね、半分犯罪者みたいな人がこの町には多過ぎますよ」

 

 

「………」

 

 

 18階層のリヴィラの街。モンスターの出現しない階層に造られたこの町は、言うまでもなく治安が悪い。着いた途端に騒がしい気配を感じ取ったが、どうやらそれも人が殺されたからだという。

 ……まあ最近は無かったとはいえ、そもそもこういう町なのだし。どうせ実力のある女性を怒らせたりしたのだろう。

 

 殺人事件なんか気にすることなく露店を回っていた2人に、いつのまにか調査を終えていたフィン達は、取り敢えずそんな簡単な報告をしておく。――それ以上のことは特に教える必要もない。これは優しさだ。それに粗方の処理方針も既に決めてある。

 

 

 

「僕達はこのまま事件解明まで付き合うつもりだけど、君達はどうするんだい?君達の潔白なら別に疑う必要もないほどハッキリとしているし、このまま先へ行ってしまっても構わないけど」

 

 

「……まあ、フィンさん達が居るなら別に問題はなさそうですし。というかオレ達が居ても意味ないくらいでしょうし」

 

「先に行きましょう、探偵ごっこを見に来たわけではないので」

 

「そうしますか、皆さんの分まで稼いできます」

 

 

 だから、まさか殺されたのがLv.4の冒険者だとか。そういう余計な情報を話す必要もない。それも首からへし折られて頭部が完全に破壊されていたとか。そういうことも言わなくて良い。

 せっかくの空気に水を差して血生臭い世界へ引き込む必要もないだろう。どうやったって面白い話にはならないのだから。

 

 

 

 

 

「やれやれ……闇派閥やセクメト様関係じゃないと良いんですけどね、面倒なので」

 

「まだ神セクメトに狙われてるんですか?貴方」

 

「まあ普通に裏切者なので。……ほら、神々って面子を潰されると鬱陶しいじゃないですか。寝返ったどころか味方を殲滅してますからね、オレ」

 

「追手は今でも?」

 

「Lv.4になってから一気に減ったので、流石に諦めたんじゃないかとロキは言ってました。……とは言え、周りを巻き込まれても困るので。そろそろオレの方から殲滅しに行こうかとは思ってますけど」

 

「本気です?大陸の闇セクメト・ファミリア、居場所さえ分からないでしょうに。そうでなくとも危険過ぎます」

 

「――未然に潰しましたけど、明らかにヘイズさん狙いの時もあったので。確実に潰すと決めてるんです」

 

「……そうですか」

 

「大丈夫ですよ、別に無謀なことをしようとしてる訳ではないですから」

 

 

 19階層へ繋がるルートへ向けて町を出る。

 

 話している内容は少々物騒であるが、まあこればかりは彼という人生に付き纏うどうしようもない問題なので仕方がない。なんならそれについてはヘイズも決して無関係ではないのだし、彼女が挟める言葉は少ない。

 

 あの時の選択が間違っていると思ったことはないが、むしろあの選択があったからこそ誰にとってもマシな今になったと確信さえしているが、それでも確実にあの選択によって生じた問題でもある。

 

 

「……必要ないとは思いますけど、手伝えることがあれば言ってください。フレイヤ様に頭を下げて助力を嘆願することさえも厭いません。何度も言いますが、その件に関しては私に責任のあることですから」

 

「むしろヘイズさんのおかげでオレはここに居るんですよ?」

 

「だとしても、それは私が貴方に助けを求めたからこそ生じた問題。そうして助けてもらった以上、私にはその解決に努力する責務がありますから。そこを曖昧にして誤魔化すようなことは絶対にしません」

 

「……頑固すね、そういうところがまた好きなんすけど」

 

 

 そう。彼は自分を助けるために、共に行動していた仲間を"惨殺"した。

 

 当時まだ10近い子供が、それまで共に過ごしてきた上司や先達を背後から奇襲し殺害した。

 

 皆殺しにした。

 

 それこそ最初の邂逅の時に行われたそれは、彼が自主的に行なったものだ。ヘイズとどうしても話をしたくなった彼が、彼女に刃を向けそうになった仲間を殺害した。ヘイズが生き残ったのは、彼が味方を殺し尽くしたからだ。

 

 しかし、それは決してヘイズのせいではないだろう。

 

 だが、その後のことは別だ。

 

 ヘイズの願いを叶えるために、彼はヘイズが逃走中に出会してしまった全ての暗殺者達を、闇派閥達を、あらゆる手段を用いて殺し尽くした。それこそ加勢に来たフリをしたり、死者として偽ったり、可能な限りあらゆる手段を用いて、ステイタスだけならば確実に格上の仲間達を鏖殺したのだ。

 

 

「……なに笑ってるんですか」

 

「いえ、ヘイズさんがあの時からあんまりにも変わらないので。それが少し嬉しくて」

 

「はいはい」

 

 

 闇派閥であろうと暗殺者であろうと、仮に彼自身はそれほど気にしていなかったとしても、彼に家族同然の相手を殺させたのは自分だ。それは絶対に言い訳をしてはならない部分であり、言い訳をしたくない部分でもある。

 

 そもそもセクメト・ファミリアの者達は生まれた時からまともな倫理観の育たない環境で暗殺者に仕立て上げられる。それでも多少の仲間意識はあるというのだから、仲間を手にかけたことに本当に何も思わなかった訳がない。

 

 後からそれに気付いた時には『知ったことか』と思おうともしたが、彼の顔を見る度にその罪悪感は強まった。

 

 彼を救い出したなどと考えたことは一度もない、救われたのは間違いなく自分の方だ。自分は奪った側の人間だ。だから自分の幸福は彼の幸福より先にあってはならない。他者にどう言われようとも、どう思われようとも、ヘイズはそう決めている。

 

 

 ……………………はずなのだが。

 

 

 

 

 

「っ、ヘイズさん」

 

 

「わふっ!?な、なんですか?」

 

 

「…………オレの後ろに、どうも面倒なのと出会したっぽいです」

 

 

「面倒なの?」

 

 

 

 考え事をしていたヘイズはいきなり立ち止まった彼の背中に顔から衝突してしまうが、そんな珍しい姿を見せた彼女をハサは自身の影に隠すようにして立ち振る舞う。

 

 声だけで分かる、それは恐らく笑い事では済まない類のモノと出会してしまったのだと。そしてその正体はヘイズだって一目見れば分かってしまった。それほどに奇怪な存在だったから。

 

 

「…………なんですか、あれ」

 

「さて、普通じゃないことだけは確かです。ヘイズさんは何が分かりました?」

 

「中に"入っている"のは別人でしょうね、体格から考えられる人体の動きとは明らかにかけ離れた歩き方をしているので。鎧の音も身体に合っていないために不自然に大きい。貴方は?」

 

「……まあ、上級冒険者特有の重い足音がするってところですかね。オッタルさん辺りと雰囲気は近いです」

 

「それは……」

 

 

 リヴィラの集積場へ向けて歩みを進めていた、全身を鎧に包んだ男の姿。こちらがそれを視認したことを相手も気付いているらしく、既にその足は止まっており、男もまたこちらをジッと見つめている。

 

 ……それはなるほど、確かに一眼見ただけであれば少し様子がおかしい男性冒険者くらいにしか見えまい。ここまで顔や身体を隠す必要があるのかという不信感はあっても、まあ何かしら事情があるのだろうと誤魔化されてしまうだろう。

 

 しかし、ここにいるのは医療師と元暗殺者だ。ほんの僅かな違和感からも多くの情報を読み取り、その姿が変装であるということを見抜く。アレの全ては被り物だ。――それこそ、表に見せている顔面の"表皮"でさえも。

 

 

「……どうします?」

 

「まあ不審どころか警戒してることもバレてますし、向こうの出方次第ですね。基本こういう場合は2パターンです。直後に急ぎの仕事や役割があるのなら何事もなく無視。そうでなければ……」

 

 

 

 

『――――フッ!!!』

 

 

 

 

「っ、ハサ!!」

 

 

「口封じですねっ!!」

 

 

 その重々しい鎧姿からは考えられないほどの超高速移動、恐らくLv.3程度の眷属であればそれは瞬間的に消失したとしか見えない程の動き。しかしLv.5に至ったこともあり完全な目視に成功したハサは、それに対して自身も突っ込む。ヘイズへの被害を最小限に抑えるために、そして敵の力量を計るために。進んで前へと飛び出した。

 

 

 ……だが今回の場合、それは明確な失敗だった。

 

 

 

「がっ、ぁ……!?」

 

 

 振り下ろされた大剣、それを直接受け止めることなど当然にしない。当てるようにして捌き、その流れで敵の懐に潜り込む。そんな慣れた動きは、けれど"捌く"という初動が成功しなければ成立しない。

 

 接触した瞬間にへし折れる右腕、尋常ではない怪力。そして間髪入れずに突き込まれる次点の蹴撃。想定外の破壊に一瞬混乱した脳では完璧に回避することなど敵わず、それは右の脇腹に容赦なく突き刺さった。

 

 

 

――――――ッ!!!

 

 

 

 ほんの数秒、ほんの数手。

 

 ただそれだけのやり取りで、敗北は決定付けられた。

 

 彼の身体は凶悪な速度と血飛沫を纏って吹き飛び、数秒前までただ平穏に歩いていたはずの空間に巻き戻るようにして叩き込まれる。爆破のような轟音、衝撃、風圧。彼の唯一の武装であったナイフは宙へと舞い、持ち主の身体は瓦礫の山の中へと沈み込む。

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 女は、ヘイズは、その全くの想定外の展開に少しだって反応することができなかった。できるはずもなかった。

 

 彼が負けるという展開は当然に、これほどあっさりと一撃で終わってしまうという展開は更になく、目の前で起きた現実離れした光景はより受け入れ難く。

 

 

 

『遅い』

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

 鎧の中から聞こえてきた女の声に反応を示す余裕さえ与えられることなく、彼を屠った大剣が再び振り下ろされる。

 

 それを防ぐことは出来ない。

 

 それを防げる能力が自分にはない。

 

 ただの一撃で確実に敵の命を奪うそれから、頭部を完全破壊するように振るわれたそれから、いくら黄金と言えども生還する方法など絶対にない。

 

 

 

 ――だからそう、これは死神の一撃。

 

 自分と彼を同じ場所へと送り届ける、略奪の破壊。

 

 致命。

 

 避けることさえ叶わぬ砕撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

【告死(サバフ)】

 

 

 

 

 

【心想停止(ザバリ・ア)】

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

 

 

 振り下ろされる筈であった大剣が宙を舞う。

 

 

 先ほどまで浮かんでいたナイフの代わりに。

 

 

 落ちたのは右腕、纏っていた鎧ごとそれは地に墜ちた。

 

 

 反射的に後退する、それは本能的なものだった。

 

 

 

『……なんだ、今のは』

 

 

 

 死神の一撃。岩壁さえ破砕するような大剣に込められた怪力を見て、ヘイズはそう思感した。

 

 しかし鎧の"女"にしてみれば、今まさに自身の腕を切断した一撃こそが死神の一撃である。鎧の下から思わず警戒と困惑の声を漏らす。

 

 明確な死の予感、死の気配。

 

 それは今もこの空間に漂っている。

 

 いつの間にかそこに立っていた、既に負けたはずの男の姿。腕をへし折られ、腹部を完全に破壊され、叩き付けられた衝撃で肉体の大半が損傷し、最早生きている方がおかしいくらいの半死体のようなその姿。

 

 ……しかし間違いなく、今も自身の喉に刃を突き付けているような殺気を向けているのはこの男。アレほど肉体的に破壊されているにも関わらず、間違いなくこの男は自力でここに舞い戻った。

 

 1秒さえ気を失うこともなく、痛みに己を失うこともなく、人間なら絶対に有り得ない速度で反撃を仕掛けてきた。

 

 まるでその有様で何の苦痛も感じていないとでもいうかのような、大凡完璧な戦闘技術で。

 

 

 

 

【ゼオ・グルヴェイグ】

 

 

 

『なに……?』

 

 

 

 そして、驚くのはそればかりではない。

 そんな半分死んでいるようなその男の損傷が、隣に立つ女のたった1つの魔法が完全に癒す。それは当然に信じられない光景だ、アレほどの怪我をしていればエリクサーでもなければ治療は困難な筈だ。それどころか戦線復帰など出来るはずもない。少なくとも鎧の女の知っている常識の範疇ではそのはずだった。

 

 

 

「あっ………ぶない、今のはマジで間一髪でした。はぁあぁぁ、間に合った……」

 

 

「流石に私も焦りましたよ、多分レベル上がってなかったら助けられなかったです。まだ動けます?」

 

 

「動けますけど、普通にやったら勝てないですね。"アレ"やるしかないですよ、ヘイズさん」

 

 

「"アレ"ですか……正直あまり好きではないですけど、なりふり構ってもいられませんね」

 

 

 

『……』

 

 

 

 数秒前まで死にかけていたとは思えないような軽い会話を繰り広げる2人、まるでそこに恐怖なんて少しもないかのよう。それとも慣れているのか、当然のように戦闘続行の意思を見せる。

 再び彼女の前に立ち塞がる彼、そんな彼の背中に両手を当てて魔法を準備する彼女。そこには確かに互いの命を預けるに足る信頼関係が存在する。

 

 

 

【ゼオ・グルヴェイグ】

 

 

 

【心想停止(ザバリ・ア)】

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 その瞬間、着ていた鎧が真っ二つに切断された。

 

 またもやその動きを視認することはほぼ出来なかった。

 

 勘と反射を頼りに拳を振り下ろすが、それは容易く空を切る。

 

 

「ステイタス上昇系のスキル……!?なんだこの上昇幅は!?」

 

 

 鎧を断ち切られ、遂にその頭部を露わにした女が激昂する。剣を失ってもその怪力に少しの弱りはなく、振り下ろした拳は容易く床面を破壊した。一撃でも直撃すれば致命傷、そのまま二撃目を振り下ろされれば死に至る。Lv.6以上は確実だと思えるほどの圧倒的な基礎能力。

 

 

 ――それでもこの男の動きに目が追いつかない。

 

 

 

「……視線誘導、無意識的な動作癖の利用、人体構造を応用した死角の誘発」

 

 

「!」

 

 

「貴様、暗殺者の類か……!」

 

 

「っ、怪物かよ……」

 

 

 肉体の稼働領域の限界を完全に無視して、歪な破壊音を立てながら突き付けられた左腕による手刀。尋常ならざる適応能力、そしてその結論に至る卓越した思考能力に、決して取り乱すことのない冷静さ。実力に伴った内側の能力を、この女は確かに持っている。問題はそんな女が今まで何処に居たというのか、なぜ名が売れていないのか、そんなところ。

 

 ……それでも、その手刀による攻撃の可能性は予期していた。スレ違うようにして左腕にナイフを突き立てる。そのまま容赦なく縦に引き裂けば、吹き出す血飛沫が頬を濡らす。

 

 

 今この場でその首を取ることまでは不可能だ、もしそこまで手を伸ばしていたらこちらの頭部を消し飛ばされていた。その確信が互いにある。痛み分け、ここが手の打ちどころ。直後に互いに距離を取ったのは、それを悟った故か。

 

 

「……音が聞こえん、心臓を止めているな。対価を代償としたステイタスの瞬間的な大幅向上、であればその速度も理解は出来る」

 

「そこまで気付かれるとは思わなかったよ」

 

「だがそれでは保ってせいぜい10秒程度、なぜ顔色一つ変えずにいられる。恩恵によるスキルのデメリットが他の要素によって打ち消されるなど………いや、そうか。お前か、治療師」

 

「その通りです、それでも永久には保ちませんけど。分かっていればやりようはいくらでも有ります、所詮は延命処置の延長線上ですから」

 

 

 心想停止(ザバリ・ア)、それはハサ・ファーティマの持つ起動型のスキル。一時的に任意の身体機能を止める代わりに大幅なステイタスの向上が見込めるが、当然それは長時間維持可能な能力ではない。

 

 ……だがそこにヘイズ・ベルベットが特別に調整した回復魔法『ゼオ・グルヴェイグ』を使用すれば話は別だ。心臓や他臓器が停止することによって生じる数多の弊害を彼女は取り除く。

 

 何故この2人だけで強化種の討伐に成功できたのか、それはこの能力の噛み合いがあったからに他ならない。レベルが1つ以上の差がある格上であっても容易く屠るこの組み合わせは、ハサの苦手な長期戦という弱点さえ克服させた。そこに加えて半不死とも評される回復能力まで備わっている。そうして生まれる彼という眷属は、今やLv.6と評するのも適切か疑わしい。

 

 

「そろそろアレンさんにも勝てるようになるんじゃないですか?その状態なら持久戦も負けませんし」

 

「いいんすかね、それ。実質的に2対1ですけど」

 

 

 

「チッ」

 

 

 頭の回る者であれば、この段階で直感する。これをまともに相手するのは得策ではない、むしろ負ける可能性が大いにあると。

 時間を浪費させられるだけでは済むまい、救援などが駆け付ければ最悪だ。

 

 

「そうでなくとも……」

 

 

 厄介なのはステイタス向上スキルなどでは断じてない。

 あれほどの損傷を一瞬で治癒して戦闘復帰させる回復能力と、こちらの鎧や皮膚さえ容易く引き裂く男の付与魔法の方だ。あれは生半可な武装では防御することさえ出来ない。

 

 こちらの勝利条件は敵を一撃で即死させること、相手側の勝利条件は一度でもナイフを首に突き立てること。条件不利にも程がある。

 

 

「……無理だな」

 

 

「「!」」

 

 

 女が懐から取り出したのは、通常モンスターが核として保有している魔石。本来であれば魔石製品のエネルギー源として使われるはずのそれ。

 しかし女は自身の切り落とされた右腕を拾い上げながら、それをなんと食し始める。

 

 魔石を喰らう、それはモンスターの中でも強化種になり得る極一部の存在しか行わない行動だ。仲間であるはずのモンスター達を襲い、魔石を喰らい始めることで強化種は生まれる。一方で人がそれを食べたところで何が起きる訳でもないというか、そもそも石など誰も食べる筈がない。

 

 更にその上で。

 

 

「まあなんとなくそんな気はしてましたけど……」

 

「人間ではありませんね、彼女」

 

 

「……切断面が綺麗過ぎたことが仇になったな」

 

 

 魔法を使った訳でもないというのに、その腕は元の位置で元のように動き始める。魔石を喰らったことによる回復、それはやはり強化種モンスターによく見られる特徴だ。

 

 そうなれば最早この時点で取り逃がすという選択肢は消え失せる。なにせ強化種と同じであるというのなら、魔石を喰らえば喰らうほどにその力量も増すということなのだから。ここで殺しておかなければ本当に手が付けられなくなる。

 

 

「こちらにも別件がある。これ以上、貴様等とまともにやり合うつもりはない」

 

 

「なにを……」

 

 

 

 

 ――――――――――――――!!!!!

 

 

 

「これはっ……!」

 

 

 

 鳴り響く指笛の音、言うまでもなくそれは合図だ。

 アレがモンスターに連なるモノであるとするなら、そうして生じる現象も想像が付く。強化種の中にも存在するのだから、他のモンスターを強制使役するような力を持つ存在が。目の前の女が数多のモンスターを仕込んでいて、今この瞬間にそれを起動させたというのなら、それはもう納得するしかない。

 

 

 

「ハサ!奴が逃げます……!」

 

 

「っ、流石にこの数は……!」

 

 

 

「……」

 

 

 まるで壁のように聳え立つ緑色のモンスター達、極太の蔦を思い起こさせるような見た目のそれは数に見合わずあまりに堅牢だ。

 そしてこのステイタス差と状況を加味すれば、逃走は容易いもの。一瞬でも視界を遮られてしまえば、もう追うことは叶わない。そうでなくとも、ヘイズを1人ここに置いていけるハサでもない。敵はそれさえも見抜いていたのだ。数による包囲というのは、この状況において間違いなく最善の手段に違いない。

 

 

「……仕方ありません、街へ戻ります!あの女は諦めますよ!」

 

「分かりました!」

 

 

 果たしてどれほどのモンスターをこの18階層に潜ませていたというのか。街の方にまで現れた大群に、ヘイズは顔を歪ませながらもそう判断する。

 

 少し潜っただけでこんなことに巻き込まれるのだから、やはり冒険者などさっさと辞めさせるに限るのかもしれない。

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