ヘイズさん、結婚してください!   作:ねをんゆう

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14.いつでもどこでも

 なんか色々と大変だったらしい。

 

 

「あなたは……このっ、またこういうことをする!」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い………」

 

「今回は側で手伝うって言いましたよね?なに勝手に私を外に出す計画を実行してるんですか?その上で自分は何をやってたんですか?正直に言いなさい」

 

「モ、モンスター倒してただけですって、ほんと」

 

「へぇ、不壊武器の切れ味がこんなになるまでですか?いくつ魔石を破壊したらこんなことになるんでしょうね?」

 

「あー、いや、硬い魔石だったなぁ……」

 

「えい」

 

「痛たたたたたた………!!」

 

 

 なんか色々と大変だったらしい。疲労困憊しているこの場にいるすべての者達の顔色がそれを物語っている。

 

 どうやらハサが大量のモンスターを一方的に殺しまくっていた間に、ベートとアイズ達は突然に強くなった"赤髪の怪人"と必死に戦っていたのだとか。レフィーヤとフィルヴィスはヘルメス・ファミリアの撤退を懸命に支援していて、結果的に大魔法をぶち込んで壁ごと焼き払う羽目になり。

 

 

 まあ確かに、よくよく考えたら殺したオリヴァス・アクトは首を刎ねても普通に生きていた。もしかすれば彼も怪人で、魔石が身体の方に残っていたのかもしれない。それを他の怪人の元に運んで行ったモンスターが居たとしても、なんら不思議ではあるまい。

 

 それとあれだけ一方的に鏖殺していたのだから、中には逃げ出して別の場所に向かったモンスターが居ても不思議ではあるまい。

 

 ……あれ、もしかして多少の原因はこっちにもあるか?

 

 などと一瞬考えもしたが、まあ無事に帰って来れたので忘れることにする。幸いにも追加の死者は出なかった、レフィーヤ達も頑張ったものである。まあ何よりここにヘイズが居たという事実が1番大きかったのだろうが。彼女が居るなら腹を貫かれても死ぬことはない。死者など出るはずもない。作戦通りだ。

 

 

「それで?実際には何体倒したんですか?怒らないので言ってください」

 

「………100から先は数えてないです」

 

「なにやってんですか……」

 

「コツ掴んだら簡単になっちゃって…… あ、これなら結構いけるなぁって」

 

 

「本当は?」

 

 

「……」

 

 

「言いなさい」

 

 

「……外に溢れ出したら、まあ、その」

 

 

「私を襲い始めると考えて、私が患者を守ると考えて、自分にモンスターを集中させたんでしょう」

 

 

「……はい」

 

 

「そういう時は私と一緒に戦うくらい言って欲しいところですが、まあ今回は剣姫の方にモンスターを向かわせない思惑もあったのでしょう。許してはあげます」

 

 

「やった」

 

 

「まあ私が1番ムカッと来たのは、まるで足手纏いかのような扱いをされたことについてですから。それはそれとして痛みは与えます」

 

 

「痛っっっっったぁぁあ!?!?!!?!?なにそれ新技!?」

 

 

「新技です、健康になりますよー」

 

 

「そんなもの発明しなくても……ったぁぁああああいいい!!!!!」

 

 

 ヘルメス・ファミリアの団員達と、ズタボロになっていたアイズ達の治療はいつもの広域回復魔法で一瞬で終わらせた彼女。しかしその範囲内に居たにも関わらず何故か全く回復することが出来なかった彼は、今こうして馬乗りにされながら新技の実験台にされている。

 そんな2人の様子を周囲の者達は微妙な目で見ているが、まあ当然だろう。1人とは言え、こちらは死者が出ているのだ。まあそれは完全に自分達の責任であり、むしろ彼等には助けられた側なのだが。

 

 

「折れた……絶対これ折れた、何かわからないけど身体の中の何かが確実に折れた……」

 

「折れてないですし、折ってないです」

 

「これはもう帰りはヘイズさんの肩を借りないと帰れない……」

 

「はぁ、まあ別にいいですけど……その場合は辻褄合わせのために治療は地上までしないので」

 

「なんの辻褄……?」

 

「あなたまだ恩恵の昇華の調整が完全になってないですよね、そのせいで疲労と負担の蓄積が酷いことになってますから。今日は念の為に入院です」

 

「なんか最近ほぼ毎日入院してる気がする……」

 

「何回入院してもポイントとか付きませんし、リピート割とかありませんからね」

 

「あ、お金取られるんだ……」

 

 

 そうして本当に治療は実行されず、そのまま肩を貸されて持ち上げられる。しかし彼とて男、疲れていても自身の全てを彼女に委ねるようなことは気恥ずかしさと申し訳なさがあるというもの。

 ……なお、そんなこともお見通しな彼女は、彼が身体に力を入れようとした瞬間に自身の魔力をツボに流し込んだ。

 

 

「はぐっ!?」

 

「なんか最近これのせいなのか妙に魔力のステイタスの伸びがいいんですよね。普段使わない細かい魔力の動かし方とかしてるので、魔法への理解も深まって来ましたし」

 

「な、なんすか今の……ちからが、急に抜けて……」

 

「筋肉を強制的に鎮静状態にしました」

 

「い、いつの間にそんな……」

 

「無駄な抵抗はしないことです。まあ別にいいですけどね?あなたの影響で人体構造の知識まで最近は頭の中に入って来ているので、試したいことが沢山生まれて実験体に困っていたので」

 

「……………………他の誰かにさせるくらいなら自分がヘイズさんの実験体になりたいという欲がある」

 

「はいはい、いつもどおりお馬鹿ですね」

 

 

 完全に身体から力が抜けてしまい、もうされるがままにズルズルと引き摺られ始める彼。ベートはもう何かを言及することは諦めてその前を歩き始めるし、アイズとレフィーヤは後ろから興味深そうに見つめている。しかしそんな視線ももう気にしない。慣れてしまったものである。それが良いことかどうかはさておいて。

 

 

「あー……"女神の黄金"、それと"首狩骸"。今回はありがとうございました。あなた方のおかげで最低限の被害で済んだと思っています」

 

 

 どんな空気であろうとも、ここで感謝の言葉だけは伝えておかなければならないと声をかけたアスフィは生真面目であり、まあ勇気を出した方であろう。もちろんここを逃すと以降の方が難しそうであるという判断でもあるかもしれないが。

 

 

「あー……まあ私はこの人に着いてきただけなので。結局やったことは魔法を1回使っただけですからね」

 

「何を言うんすか!これも全部ヘイズさんのおかげですから!オレへの感謝の言葉は全てヘイズさんに投げるくらいにですね……!」

 

 

「ぐさっ」

 

 

「ぉごぇっ!?」

 

 

 

 

「………ええと」

 

 

「ああ、礼なら金銭とかが良いんじゃないですか?なんかこの人のファミリアお金に困ってるらしいので」

 

「そ、そうですか。ではその方向で……」

 

 

「内臓が……内臓が、消えた……?」

 

 

「え、大丈夫なんですか?」

 

 

「大丈夫ですよ、痛覚を一瞬バグらせただけなので」

 

 

「本当に大丈夫なんですかそれ!?」

 

 

「これ本当に大丈夫なんですよねヘイズさん!?」

 

 

「へーきへーき」

 

 

 次々とシャットダウンされていく身体の機能に流石に不安になってきた彼から明確な焦りが見えてくるが、ヘイズは変わらず素知らぬ顔で、今度はお姫様のように彼を抱き抱えはじめる。

 なぜ男がされる側なのか、普通は逆なのではないか。そんな抗議の言葉が届くことはない。それに下手に文句を言えば、次に消えるのは発声機能かもしれないのだし。

 

 

「はい、質問」

 

 

「?珍しいですね剣姫、あなたが私に話しかけるなんて」

 

 

「2人は恋人どうしなの?」

 

 

「「「ぶふっ」」」

 

 

 突然ぶっ込まれたそんな質問にハサを含めた数人が、なんなら目の前を歩いていたベートまで一瞬吹き出した。

 

 

「い、いえ、付き合ってませんけど……」

 

「じゃあ結婚するの?」

 

「別に、その予定もないですけど……え、デリカシーとかないんですかこの人」

 

「恋をすると人は強くなるの?」

 

「知りません、私は恋してないので」

 

「私も強くなりたい」

 

「それを私に言われたところで」

 

 

 おうもう黙ってろや、と言いたくなるようなアイズの問答に対して、ヘイズも困ったように適当な答えを返す。やはりアイズ・ヴァレンシュタインに愛だの恋だのはまだ早かったのだ、彼女はその辺りのことについて知識でさえも未熟なのだから。

 

 このままでは良好に見える2人の関係にまで悪影響を齎してしまうのでないかと思えるその配慮のなさに、思わず黙ってみていたレフィーヤも割り込む。

 彼女は出来る女だ、少なくともこういう時には。それなりに頼りになる。

 

 

「そ、そうだ!お二人はそこそこ仲良いんですよね!?よくこうやってダンジョンに来たりするんですか!?」

 

 

 恋愛の話題から仲の良さに繋げ、そこから普段の生活の領域まで話の主題を下ろしてくるその手腕。アスフィとハサは思わず心の中で拍手を送る。

 よくぞ話をズラしてくれた、どうかそのまま世間話に転換してくれ。お前なら出来るとも、レフィーヤ・ウィリディス。きっと良い感じに逸らしてくれる。

 

 

「あー……まあ偶に行きますね。私は仕事柄ダンジョンに潜る機会も少なく、付いてきてくれる団員も"満たす煤者達"ばかりなので。あまり深くは潜れないんです。なので必要な時には彼に声をかけます」

 

「告白を断られたついでにかけられます」

 

 

「どんな関係なんですか……」

 

 

「あ、じゃあ私からも……あなた達の関係について、それぞれの主神はどういう感じなんです?普通に嫌がりそうな気もするんですけど」

 

 

「んー、ロキはもう諦めたって感じですね。拾われた頃からずっと言ってることなんで、お前の好きにしろと」

 

「フレイヤさまは……まあ、正直よくは分かりませんが、館の中にこの人がいても普通に話したり挨拶したりしてるので、気に入られているとは思いますよ。この人と出掛けた日とかには部屋に招かれて話を聞かれたりしますし」

 

 

「フレイヤ様、なんか楽しんでません……?」

 

「その事実からは目を背けているのでやめてください。この人と付き合いが長くなるほど部屋に招かれる頻度が増えていることについて非常に消化し難い感情を抱えているので」

 

 

「あれ、もしかしてそのためにオレに付き合ってくれてます?」

 

 

「別にそんなこと一度も言ってないですよね?私が言葉にしたこともないようなことを憶測で勝手に納得するのはやめてください、とても不快です」

 

 

「あ、はい……すみませんでした……」

 

「む……ここまで怒るつもりはありませんでした。ちょっと可哀想なので許してあげます」

 

「優しい……」 

 

 

 普通に怒られた。まあ確かに自分が言ってもいないようなことを、さも言われたかのように捉えられるのは普通に腹が立つだろう。今のは彼が悪い。

 

 まあそれはともかく。

 

 ファミリア間での確執というか、大きな問題はないらしい。あとは仮に本格的にお付き合いをすることになったとして、その後に生じる定番の『子供をどちらの眷属にするのか問題』についても思考を傾けるべきだろう。余裕があるのなら。

 

 これについては本当に戦争が起きかねない問題、あのフレイヤが易々と手放すとは思えない。かと言ってロキが引き下がるわけもない。尋常ではない闘争が予測される。子供の影響力というのは、かつての2大ファミリアさえも振り回されたものだ。いずれ必ず突き当たる。

 

 

 

「もうお付き合いはしてくれなくてもいいので結婚してくださいヘイズさん」

 

「……仮に私がここで『はい』と言ったとして、この姿勢のまま承諾されて嬉しいんですか?あなたは」

 

「いやまあオレのプライドとかはどうでもいいんで気にしないですね」

 

「あと妥協してる風に見せてますけど、別に言ってることは普段と何も変わってないですからね」

 

「つまり返事は……?」

 

「やーです」

 

「うぅ、今日も可愛い……」

 

「はいはい」

 

 

 こんなことばかりやっている2人に、流石のレフィーヤもフォローとか要らない気がしてきて黙る。

 まあ人間の関係なんて個人と個人が勝手に作っているものなのだし、盤石そうに見えても危うそうに見えても、なるようにしかならない。本人達でさえ何をどうしたらどうなるか分からないのだから、相談された時に口を出すくらいが丁度いいのだ。

 

 

「はい、質問」

 

「……またですか。今度はなんです、剣姫」

 

「ハサと貴女が揃えば強くなるって本当?どれくらい強くなるの?」

 

「また言い出した……」

 

「戦いたいとは言ってないもん」

 

 

「む、どれくらい強くなると言われると……うーん、この話を広めると普通に面倒事が増えそうなんですよねぇ」

 

「え、そんなに強くなるんですか……?」

 

「ヘイズさんの魔法が普通にバグな上に、オレのスキルと噛み合い過ぎてるから……多分今のアイズにも最初の一回は確実に勝てる」

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン、今日1番の衝撃。そしてそんなアイズ・ヴァレンシュタインのイかれた魔法の出力を目の当たりにして普通にドン引きしたベートとレフィーヤも目を剥く。

 ……しかし悲しいかな、それは割と普通に事実だ。手の内を全て知られた後ならまだしも、最初の一回であれば確実に打倒することは出来る。

 

 

 

「まあこの人、この前初めてアレンさんに勝ちましたからね」

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

「いや普通に考えてみれば、体力無限の不死身状態ですし当たり前なんですけどね。オレ対人戦は得意ですし、防御とか関係ないですし」

 

「アレンさんに魔法をかけても同じことは出来ますけど、この人に使った方がよっぽどお得です。私の消耗も大したことありませんから」

 

「いつか2人揃えば都市最強!くらい言えると良いんですけどね」

 

「別に私はそこまで求めてませんよ」

 

「じゃあどこまで求めてくれてるんすか?」

 

「生きてればいいんじゃないですか?」

 

「期待のハードルが低い……」

 

 

 

 

「――そんな。せっかく、Lv.6になったのに」

 

 

「あ、あの、単独ならアイズさんの方が普通に強いって話だとおもうんですけど……」

 

「関係ないよ、レフィーヤ。私はハサにだけは負けられない……これだけ鍛錬してる私より恋愛一筋なハサの方が強いだなんて認めたら、頭がおかしくなる」

 

「思ったより切実だった……!」

 

 

 2対1なんて関係ない、その強さは彼の恋心によって生まれたもの。つまり間違いなく彼の強さの一部である。鍛錬一筋だった自分は、言い訳せずにその強さに打ち勝たなければならない。少なくともアイズはそう考えている。

 

 ……というか、アイズは未だに納得していない。

 

 自主的な鍛錬なんて最低限しかしないし、ステイタスの更新も偶にしかやらないくらいにやる気のない彼が、いつまで自分の真後ろを付いてくるのか。そろそろ2つくらいレベル差がついてもいい頃だと思うのだ。

 しかもLv.6に勝った?自分にだって勝てる?いい加減にして欲しい、そんなことは絶対に許されない。許してはならない。

 

 

「うん、今の私の風ならハサがどんなに速くても粉々にできるはず……」

 

「なんか幼馴染がすっげぇ恐いこと言い出した……」

 

「ほんとは仲悪いんですか?」

 

「普通の仲だと思ってましたけど、今の今まで」

 

「私とハサは仲良いよ。結婚式では司会もしてあげる」

 

「不安だから普通にロキか業者にお願いすると思う」

 

「なんで」

 

「むしろなんで自信満々?世界で1番向いてないだろ」

 

「それは言い過ぎ」

 

「強ちだよ」

 

 

 アイズとは仲良いとハッキリ言えるほどの仲ではないはずだが、まあこの程度の軽い言い合いは出来る程度の仲ではある。定期的に喧嘩を売られたり、突然に襲いかかって来たり、色々とあったけれど。

 だからこそ微妙に苦手意識があったり、それに合わせてくれる相手に多少扱いが雑になったり、それについても色々とあるのだけど。

 

 

「へぇ、誰と結婚するんです?」

 

「それをオレに聞くのは流石に意地が悪すぎませんかね、ヘイズさん」

 

「あなたが結婚するなんて知りませんでしたよ、そうならそうと言ってくれればよかったのに」

 

「え?なんなんですこれ、どう答えれば正解になるんです?オレはヘイズさん以外と結婚するつもりないですし、ヘイズさんと結婚出来ないなら一生独身でいいとさえ思ってますよ?」

 

「…………私から振っておいてなんですけど、色んな意味で振っておいてなんですけど、言ってて恥ずかしくないんですか?色んな人が聞いてますけど」

 

「別に、事実ですし。誰に聞かれても同じことを返すつもりなんで」

 

「…………はぁ」

 

 

 はいはい、言っても無駄、言っても無駄。いつものこと、いつものこと。ヘイズはそう溜め息を吐いて歩みを進める。

 

 

 ――それを隣で聞かされている者達からしてみれば、無理矢理に砂糖を口の中に詰め込まれているような気分になって非常に非常に苦い顔になるのだが。甘いはずなのに苦い顔になるのだが。

 人が1人死んでるんだから、もう少し空気を読めないのかと。そんなことを生死感の壊れている者達に望むことそのものが間違いであった。

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