ヘイズさん、結婚してください!   作:ねをんゆう

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02.母親の嘆き

 アイズ・ヴァレンシュタインにとって、その少年との関係はなんとも微妙なものである。

 幼馴染と言われればそうのかもしれないが、そこまで仲が良いのかと言われると首を捻る。会話も必要最低限しかしないし、けれど決して喋らないということもない。年齢は近いけど親近感がないというか、多分噛み合っていない。そういうことなのだろうと今は思っている。

 

 まあ元より、アイズはリヴェリアに半分育てて貰ったようなもので、幼い頃はそれはもう今以上にダンジョンに狂っていたのだから、気が合わないというのは当然と言えば当然。

 

 反面、彼は基本的にはロキが面倒を見ていたし、アイズのようにダンジョンに頻繁に潜っていた訳でもない。時々、他の団員に連れられて潜ったりはしていたが、勉強も嫌いではなさそうだったし、問題も起こさなかったし、如何にも優等生といった姿。あまり自分から何かをしようという気を見せなかったので、ロキがそこら中に連れ回していたのを覚えている。

 

 ……ただ、それでも。

 

 

 

 

 

 

――【告死】――

 

 

 

 

「っ」

 

 

 

 その凶悪とも言える戦闘技術にだけは、いつもどうしても目を離すことが出来なかった。

 

 

 

「あー、団長?またアイズさんがハサに張り合い始めたんすけど……」

 

「あれはもう昔からだからね、暴走しない限りは見逃そう。それよりハサだ、いつも通りあのペースは長くは続かない。今のうちに前衛を詰めよう、ラウルは左翼の指示と彼の後退の補助を頼むよ」

 

「了解っす。……なんか毎回思うんすけど、敵軍に投げ込んだ爆弾を回収してる気分になるんすよね」

 

「それも強ち間違ってはいないかな、僕もかなり雑に彼のことを扱っている自覚はあるからね」

 

 

 あと3分もすれば体力が尽きて途端にパフォーマンスが低下するのは見えている、いい加減に慣れているラウルは一部の団員を引き連れて彼の回収の準備にかかる。

 

 凄まじい勢いで吹き飛んでいくフォモールの集団と、凄まじい勢いで首が飛んでいくフォモールの集団。

 片方は竜巻とも言える凶悪な風によって問答無用で破壊しているのだが、もう片方はそんな力技とは完全な真逆。空間を犇くフォモール達の間を駆け抜けながら八裂きにしている変態がいる。気付けば首や腕が飛んでいるモンスター達は混乱し、それがまた新たな犠牲を生む。ただその繰り返し。

 

 

「いつ見ても気持ち悪い動きしてるわね、あいつ……新種の猿?」

 

「あれ、ティオネさん」

 

「あれ回収するんでしょ?あたしが行ってくるから、援護頼める?気を抜くと見失うのよね」

 

「了解っす!頼みます!」

 

 

 こうして見る度にモンスターの大群をアスレチックか何かと勘違いしているのではないかと思うのだが、それが長時間続かないというのが彼の最大の弱点。どれだけ抑えても基本的に10分以上の継続戦闘は確実に無理という、冒険者としては致命的なのではないかと言えるようなその弱点は、こうして周りが補ってやるしかない。

 

 しかし逆にその短期間だけであれば、彼は自分よりレベルが1つ上のアイズが不機嫌になるほどの殲滅力を見せる。

 

 ナイフ1本で行う殺戮、腕も角も頭も一振りでまとめて切り飛ばす。それがもし自分に向けられたらと思うとゾッとするような洗練された殺害技術。すれ違った直後には確実に首が落ちているという確信は見ている者さえ理解できるし、そのような殺気に当てられて敵の動きが鈍くなるのもまた当然。決して見失ってはならない存在が、集団の中に侵入したという恐怖感が分かるだろうか。満員の部屋の中に好戦的な蜂が侵入したようなものだ。

 

 

 ……まあ、簡単に言えば。

 

 取り敢えず敵陣に放り込むには便利である。

 

 ぶっちゃけ爆弾という表現は適当だ。

 

 投げとけば敵は死ぬし、敵陣を乱せるし。

 

 しかも回収して再利用まで出来るのだから。

 

 

 

「はい、回収してきたわよ」

 

「あ、お疲れ様っす」

 

「……なんか最近オレの扱い雑じゃないっすかね、ティオネさん」

 

「趣味の悪い男なんてこの程度の扱いでいいのよ。同じヒーラーなら絶対アミッドの方が良いのに、なんでよりにもよってアレなのよ」

 

「別にヒーラーが好きな訳じゃないんすけど……」

 

「じゃあ女医?」

 

「女医が好きなんじゃなくて、たまたま好きになった相手が女医だっただけですから。順番が逆です、逆。それティオネさんに『金髪の小人族が好きなの?』って聞いてるようなもんですから」

 

「確かにそれはブン殴るわね……」

 

 

「取り敢えずこの状況で恋話するのやめて欲しいっす、ほんと余裕ないんで」

 

「あ、はい」

 

 

 そしてそのままポーイとティオネに投げられた哀れな男は、後方の後衛部隊の方にまで飛ばされて、なんとかヨタヨタと受け止められる。

 ……まあ確かにこれを見ると扱いが雑であることは否定出来ないのだが、どうせあと10分も休めばまた出て来るので問題あるまい。流石にラウルだって付き合いは長いのだし、その辺りの運用方法は弁えていた。

 

 

「――あんまりこういう言い方は好きじゃないんすけど、盤上遊戯の駒に例えると本当に使いやすいんすよね。ハサは取り敢えず投げとけば仕事するんで」

 

「だから団長もアイツのこと2軍に入れてるんでしょ。ラウルとかアタシみたいな指揮経験を積ませたい奴のパーティには必ず入れられてるし」

 

「とは言え、流石に49階層のフォモールの群れに単独突入は可哀想だと思ったんすけど……仕事はしてくれたんで、こっからはこっちの番っすね」

 

「そうね」

 

 

 それは彼の運用方法の1つ、撤退後にはパーティの勢いが増すというもの。奮起させられる、と言い換えることもできるかもしれないが。これだけの活躍を見せられては、同じ冒険者として負けられない。基本的に負けず嫌いが多いのだ、冒険者というものは。

 

 

「ハサが復帰する前に片をつけるっすよー!!」

 

「「「おぉー!!」」

 

「左翼前衛!押せー!!」

 

 

 ……なんてところが、このハサ・ファーティマのファミリア内での役割であったりした。

 稼働時間こそ非常に短いものの、その短時間で十分な成果を出すことを期待されている役割。活躍の機会は多く、色々な場所で酷使される役割。何か想定外のことが起きた時に、取り敢えず突っ込ませて時間稼ぎをさせる役割。

 

 

「いや流石に人を投げるのは雑過ぎるだろ……」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

 使い終わったらこうして雑に後方へと投げておけば良いというのも使いやすさの一部なのだから仕方あるまい。

 しかしなんとか受け止めたレフィーヤが居なければ、今頃は頭から地面に叩き付けられていたところである。こればかりは流石に怒らなければならないと、ハサ・ファーティマは決意した。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイズさんに会いたい……ヘイズさんに会いたい……ヘイズさんに会いたい……ヘイズさん、ヘイズさん、ヘイズさん、ヘイズさん……あわよくば頭撫でて欲しい……あわよくば抱きしめて欲しい……なんでオレはこんなところにいるんだろう……帰りたい、帰って食事に誘いたい……」

 

 

「なにあれ、禁断症状?」

 

「清々しいほど欲望たっぷりですね……」

 

「百万回言われてるとは思うのですが、何をどうしたら"女神の黄金"に求婚しようと思うのでしょう」

 

「中身を知らなければ可愛くて真面目な方に見えますし、男の人的には割とありなんじゃないです?ねぇクルス」

 

「いや流石にフレイヤ・ファミリアの団員を相手に口説きに行くのは考えられないだろ……そもそも敵対ファミリアの拠点に当然のように入って帰って来る時点で、割と向こうからは受け入れられてるんじゃないのか?"女神の黄金"じゃなくて、女神フレイヤと他の団員の方に」

 

 

「……私聞いたんだけど、普通に鍛錬に参加させられたり、喧嘩売られたりはしてるそうよ?」

 

 

「え、どうしてるんですかそれ」

 

「怪我すれば"女神の黄金"に治療して貰えるから……ね」

 

「あぁ、だからステイタスが……」

 

「段々と嫌な答え合わせが……」

 

「なにやってるんだ、アイツ……」

 

 

 50階層のセーフティゾーンにおける待機、しかし既にダンジョンに潜ってから随分と時間が経っている。薬物ではないが流石に成分が切れてきたのか、彼女から贈られた手付かずの回復薬を抱きながら怪しいことを呟きはじめた男を、2軍メンバー達が噂立てる。

 前から妙にコイツのステイタスの上がりが早いと思っていたのだが、どうやらそういう理由があったらしい。あの頭のイかれたフレイヤ・ファミリアの闘争に巻き込まれていたとは、可哀想ではある気がするが、本人が嬉々として参加しているなら言うことはもう何もないような……

 

 

「何をしている、お前達」

 

「リヴェリア様……」

 

「待機とはいえ拠点の留守を任されている身だ、あまり遊んでいるな」

 

「あ、いえ、そういうつもりはなかったんですけど……ハサンが」

 

「うん?」

 

 

 

「そもそもあの服装が天才的過ぎる。露出がほぼ無い上に体型が酷く分かりづらい医療服なのに、チラッと見える肘と絶対領域の悪魔的な破壊力……基本的にハイソックスなのに偶にタイツだったりロングスカートだったり、その日の少しの違いだけで頭が狂いそうになる。なんなら長手袋の長さがいつもより少し短いだけで何も手が付かなくなってしまう。あの服装で隠し切れない肉体美は言うまでもないが、隣を歩いているだけで視線を釘付けにされるのは普通に凶悪な武器。その上で顔が綺麗で笑った時の優しげな瞳なんかそれだけで人間を殺せるし、どれだけ近くで見ても絹かと思うような翳り1つない美しさに毎日のように一目惚れを繰り返しているのが……」

 

 

 

「コラ起きろ」

 

 

「ぶふっ!?」

 

 

 ゴンッと頭の上に落ちてきた杖、それを人を現実に戻すのに十分な威力を伴っている。

 

 

 なぜあの人間味の薄い機械のようだった少年がこんな残念な男になってしまったのか、何年も見てきたが故の悲しさというものもある。別にファミリア内にも同年代の常識的で可愛らしい少女達はいくらでもいるのに、何故よりにもよって他派閥の重要人物に目を付けた。

 

 こんなことになるくらいなら無理矢理にでも幼い頃からアイズとセットにして、2人の仲をもっと深めさせておけば良かった……そんなことを考えはじめている最近のリヴェリアである。

 

 しかし悲しいかな、どれだけアイズが美少女であってもこの馬鹿は精々が義妹か義姉くらいにしか見ていない。ヘイズ・ベルベットの何がそんなに彼の心に突き刺さったのかは知らないが、今はとにかくファミリアを変えるようなことが起きないことを祈るしかない状況である。

 

 

「常に気を引き締めろとは言わないがな、少し油断し過ぎだ。特にお前は59階層へのアタックにも連れて行く予定にもなっているだろう、少しはやる気を見せないか」

 

「痛ぅ……やる気なくても仕事はしますよ、リヴェリアさん」

 

「油断をするなと言っている、簡単に不意打ちをくらうな」

 

「いやなんていうか……リヴェリアさんに殴られることってあんまないんで、一回受けとくのも記念かなぁって」

 

「………」

 

 

 言われてみるとまあ確かに。

 彼の面倒を見ていたロキがしばき倒しているのは偶にみるが、リヴェリアから彼に対してする干渉はそれほどなかった。昔はアイズのことで手一杯で、基本的には仕事は真面目にこなすし、ぶっちゃけ"女神の黄金"が関わらければ模範的な少年である。叱ったこともないし、それ故に関係も表面的なものであったと言われれば、その通り。

 

 

「まさか子育てで私はロキに負けているのか……?」

 

「え、なんで急にそんな話になったんすか?」

 

「言ってみろ、ハサ。お前はアイズのどこが不満なんだ。確かにトボけたところはあるが、最近はそれなりに人間性も身に付いてきて、少なくとも同年代の少女達の中ではそれなりの容姿をしているはずだぞ……!」

 

「マジで何の話なんですか。心配しなくてもアイズはそれなりにモテると思いますし、将来男に困ることもないですよ」

 

「そんな訳がないだろう!少しずつ人間性は身に付いているが世間常識が微妙にズレている上に恋愛感情なんてものが存在しているかどうかも怪しいんだ……!私にはアイツが男と仲睦まじくしている姿など想像出来ない!!」

 

「本当に何の話なんすかこれ!?乏したいのか褒めたいのかどっちなんすか!?」

 

 

 よくよく考えたら相手が誰であれ、恋愛感情を持てるというだけで真人間だ。ロキはそんな息子の恋愛に色々と悩んでいるそうだが、リヴェリアからしてみればそれさえ羨ましい。

 認めたくないけれど子供が心から望んでいるとなれば、親として渋々ではあっても応援する……そんなロキの悩みと苦しみに共感できる日がリヴェリアにもいつか来るのだろうか。

 

 

「そうか……そう考えると年頃らしく思い悩むお前はとても健全だったんだな。気にするな、お前はそのままでいい。私が間違っていた、だからアイズもああなのか?私のせいなのか?私の育て方が間違っていたのか?」

 

「情緒が不安定すぎる!?アリシアさん、これどうしたらいい!?」

 

「と、とにかく褒めましょう!大丈夫です、リヴェリア様!アイズはすくすくと健全に育っています!まだ運命の出会いを経ていないだけです!」

 

「そ、そうですよ!オレみたいな奴でも誰かを好きになれたんですし!……そもそもロキの子育ては普通に褒められたものじゃない!!子供に酒なめさせるし!!」

 

「それは普通に大問題!?」

 

 

 そう、当たり前の話だ。

 母親役としてロキとリヴェリアのどちらが優れているか?そんなもの考えるまでもない、当然リヴェリアである。子供を酒場に連れて行くだけでは飽き足らず、試しに1口舐めさせて嫌がる子供を楽しんでいる酒カス。そんなものが親として相応しいだろうか、そんな訳があるか。

 

 もちろんロキだって彼女なりに親代わりとして頑張っていたのだろうが、何事にも適正というものがある。ロキにそれがあったかと問われれば、無いのだ。そこを履き違えてはいけない。

 

 

「――そもそもアイズに好きな相手が出来たとして、ロキは許すのかな」

 

「……同じファミリアなら、どうでしょう」

 

「そんな雰囲気の奴、居るのか……?」

 

「……ベート、とか」

 

「100ないと思いますよ、アキさん」

 

「アイズと釣り合うような同年代の男……何処に居るんだ、そんな奴」

 

「お花屋さんの少年とかじゃ駄目なんです?」

 

「私はそれでも構わないというか、その方が良いとさえ思うが……アイズ自身がな」

 

「じゃあもう無理ですね」

 

「諦めが早くないか!?もっとこう他に、可能性が!!」

 

「ア、アイズさん並みに強い花屋の少年が……何処かに……」

 

「居る訳ないじゃないすか……」

 

 

 

「――やっぱりお前が引き取れ!お前しか居ないだろう!ハサ!!」

 

 

 

「嫌ですけど!?あんまり性格合わないの知ってますよね!?」

 

「生意気を言うな!!神にも見初められる美人だろう!どこに何の文句がある!!」

 

「オレ他に好きな人が居るんで!」

 

「考え直せ!」

 

「めちゃくちゃ言ってる!?」

 

 

 ……なんて会話を待機中にも関わらずしてしまう、結果的に緊張感のない人々。なにより注意しにきたリヴェリアが中心となってこうなってしまったのだから、本当に残念なところというか。それでもしっかりリヴェリアを慰めたり、無茶振りをされたりと、親しい関係を築けてはいるのだろう。

 

 

 

 悲しいところは、まあ……この直後に緑色のモンスター達による襲撃を受けて、拠点を粉々にされてしまうところなのだが。

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