ヘイズさん、結婚してください!   作:ねをんゆう

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24.それそれの周り

「ということで、新婚旅行の計画がオレ達の知らないところで進み始めてまして。ヘイズさんもお腹の子も安定、オレも幸せいっぱいというところです」

 

 

「そうか、それは喜ばしい話だ。其方達の子となればさぞかし愛らしく生まれることだろう」

 

「うむ!俺としても楽しみだ!やはり子の誕生というのは素晴らしいな!少ないが祝儀くらいは出させてくれ!」

 

「ありがとうございます、御二方にはオレの数少ない男神の知り合いとして色々と相談に乗って貰いましたし。生まれた際には是非顔を見て頂ければ」

 

 

 武神タケミカヅチ、薬神ミアハ、彼等はオラリオで言えば非常に小規模なファミリアの主神と言える。しかしその善性故に色々と世話になっていた間柄でもあったりする。

 ハサ・ファーティマの妙に広い交友関係、そこにはロキ由来の神々に対する理解度というものが根底にあったりもする。まあ当然ながら、2柱が神々の中でもかなり人間に寄り添った感性を持っているという面もあるのだろうが。

 

 

「しかし良いのか?このような所で暇を潰していて。我等の相手をしているより、愛妻に寄り添っておくべきではないか?」

 

「オレもそのつもりだったんですけど……『暇があるなら挨拶回りをしてきてください、家の外のことは貴方の仕事ですよ。荷解きは私達がやります』なんて言われてしまいまして。今はこうしてお世話になった方々に報告をさせて貰っている次第でして」

 

「はっはっは!早速尻に敷かれているな!」

 

「其方の方が年が下だったか、典型的な姉さん女房というものだな」

 

「オレ貯金もそこまでしてた訳じゃないんすけど、ヘイズさんはなんかすごい額を溜め込んでましたし。頭が上がらないです。やっぱ女性は強いですね」

 

 

 どうせ貴方は交友広いんですし、今のうちに挨拶回りをしてきてください。こうなって来ると周りの人達との関係も馬鹿にできませんし、そういうのは私は得意じゃないのでー。

 

 ……なんてことを言われてしまったハサであるが、それについてはヘイズがよく理解している部分である。

 

 子供の将来のことを考えれば、親として周囲との関係は良好にしておきたいところ。けれど仮にもフレイヤ・ファミリアの一員として最低限の交友関係しか築いてこなかったヘイズでは、今更の努力にそこまでの意味はない。他派閥の主神とさえ仲良く食事をしている彼の方が適格だ。

 

 実際、子の誕生に多くの神々が祝福してくれている。

 

 これはとても光栄なことだ。

 

 

「セクメト様のこともひと段落しましたし、オレとしてはこれ以上のない結末です。——まあそれとは別に怪しい案件はいくつもあるんすけど、それについては任せておけとフィンさんには言われました」

 

「大陸の闇を取り潰したというだけで、十分過ぎる働きだ。其方の決断によって将来的にも多くの子供達が救われた、今は存分に幸福に浸るといい」

 

「そうだな、オレとしてはオラリオに留まらずとも良いとさえ思うが……流石に特殊な才能を持つLv.5を2人も排出する余裕が無いことが悲しい話か」

 

「とは言え、今後は指導役として生きていこうかと。タケミカヅチ様に教わった技術もステイタスが上がったことで少しずつ実現できてきたので、自分自身の研鑽ももちろん必要ですが」

 

 

「………え、アレができたのか?」

 

 

「え?」

 

 

「え?」

 

 

「……できましたけど」

 

 

「……それはセクメトも執着するだろう、冗談半分で教えた技術だぞ」

 

「冗談半分だったんすか!?」

 

「技術だけで空を蹴るなど普通はできるものか」

 

 

 凶悪なステイタスで強引に……というならまだしも、人間が技術だけで空気の面を捉えて蹴ることなんて出来る訳がないだろ。高位の眷属の過敏な五感を行使してもなお実現可能かどうかは才能次第な分野の話である。

 そして恐らく、女神セクメトはそんな光景を幾度も幾度も見せられたのだろう。自身の持つ殺戮の技を当然のように吸収していく運命を感じた眷属。それは夢中になっても仕方がない、持って帰りたくなっても仕方がない。きっと夢見てしまったのだ。その子が本身の自分にさえ手を掛けてしまう、そんな瞬間を。

 

 

「そういえば、タケミカヅチ様の子たちは最近どうなんすか?他のファミリアの有望株とかあんまり見れてないんですけど」

 

「ふむ、実はうちの命(みこと)がそろそろLv.2になりそうでな……」

 

「マジですか!それはめでたい!」

 

「桜花達も実力を付け始めている、才能もある。ダンジョンでの経験を積んでいけば、大きく飛躍することが出来るだろうな」

 

「有望な冒険者ということであれば……ヘスティアのところのベルも近頃努力しているな」

 

「ヘスティア様……?」

 

「よく路店でじゃが丸くんを売っている女神だ、善性は保証できる。その最初の眷属であるベル・クラネルという少年なのだがな、目立った才能はないものの直向きで根性もある」

 

「ほう、それは好ましいな」

 

「いいすね、そういう話。そういう子が上がっていけるような環境にしていきたいっすね」

 

 

 15歳の少年がそんな隠居じみた話を神々としているという状況がもうおかしい気もするが、まあ実際にハサは冒険者としては半分引退するくらいの勢いなので仕方がない。

 なんならそのベル・クラネルという少年は14歳、あまりにも年齢が近い。けれどこれから冒険者として頑張ろうとする彼と、冒険者としては退こうとしている彼。立場は真逆。

 

 

「其方の子が育つまでには、オラリオも今よりマシな形になっているだろう。気にする必要はない、今は自分の未来を見据えるべきだ」

 

「そうだな、何か悩みとかないのか?俺達が聞いてやろう」

 

「悩みっすか……まあ強いて言うなら、最近アレンさんが延々と再戦を申し込んで来ることくらいですかね。ヘイズさんと一緒に一回だけ勝てたんですけど、どうもそのことをファミリア内でメチャメチャに煽られたらしくて」

 

「……それは俺達にはどうにもならないな」

 

「ふむ」

 

「新婚旅行に行くと言ったら、『逃げんじゃねぇ!』って今日もブチギレてました。なんならオッタルさんまで『行く前に一度手合わせしろ』みたいなこと言ってきました。全力で逃げたいです、祝福するとか少しはないんですかねホント」

 

「もう明日から新婚旅行に行ったらどうだ」

 

「その方が良いだろうな」

 

「ヘイズさんに相談します……」

 

 

 どうやってもメチャクチャ疲れる結果にしかならない案件、全力ダッシュで逃げ出したい。こんなことならわざと負けておいた方が良かったのかもしれないが、全ては手遅れな話である。

 

 アレン・フローメルは対人戦闘の技能はそこまで高いわけではなく、基本的に速度で擦り潰して生きている。速度はオラリオ1でも、純粋な戦闘技能はアイズに劣る。そしてオッタルのことを脳筋とよく馬鹿にしているが、当人もわりかし脳筋の部類である。基本戦法が突進なのだし、ほぼ猪と言っても過言。

 

 だからLv.5に昇格したことで視認が出来ていたにも関わらず、直前まで反応できないフリをしておいて、最高速で突っ込んで来たところに完璧なカウンターをブチ当てた。

 

 つまり完全な騙し討ちであったのだが、事前に昇格していたことは伝えていたので言い訳にはならない。そういうところで周囲から『脳筋2号』と呼ばれ始めているのだとか、どうとか……知るかっ!!

 

 

「ヘイズさんと一生イチャイチャしながら生きていたい……」

 

 

 これから少しだけそんな生活が続くのである。

 

 今はただそれだけを楽しみに生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、嫁の方はと言えば。

 

 

「ヘイズ、この服どこにしまえばいいの?」

 

「アンタ自分の荷物くらい自分で片付けなさいよ!なに旦那の荷物ばっかり漁ってんの!」

 

「いやー、なんか面白いのないかなと思いまして〜」

 

「あるわけないじゃん、そういうのは普通は持ち込まないって」

 

「わ、わわっ……男の人の服大きい……」

 

「ちょっと〜、うちの旦那の服を勝手に着ないでくださ〜い」

 

「はいはい、打って変わって妻面乙」

 

 

 新しい家へ運び込んだ私物の荷解き。

 それなりの量があるそれを、同じファミリアの女性陣に手伝って貰っているところであった。それこそ旦那の私物も含めて、これ幸いと漁りながら。

 

 

「にしても、彼の荷物ちょっと少な過ぎない?男の人ってこんなもんなのかしら?」

 

「趣味がない奴は大抵そうなるわよ、彼は趣味がヘイズだったんだからそりゃ少ないでしょ」

 

「箱の中の大半が服でした、なんだか部屋も寂しいですね。せっかく広い家なのに」

 

「……」

 

 

 趣味、趣味……そういえばと思い返せば、彼には趣味らしい趣味というものがなかったように記憶している。暇さえあればヘイズに会いに来ていて、強くなることやダンジョン探索に関しては別に好きでもなんでもなさそうだし、武器や防具にもあんまり興味がない。

 しかしこうなると困ったことに、例えば彼に何かを贈るときに何を選べば喜んで貰えるのだろうという疑問も出てくる。いやまあ自分の贈った物なら彼はなんでも喜ぶのだろうが、その上での話である。

 

 

「んー、なんか適当に買ってきて部屋に詰め込んでおきますかね〜」

 

「それに何の意味が……」

 

「私は分かります、荷物が少ないとある日急に消えちゃいそうな感じしますし」

 

「自分の部屋に自分の物じゃない物が敷き詰められてる方がよっぽど嫌でしょ」

 

「首輪でも付けとけば」

 

「そんなだから結婚できないんですよ〜」

 

「こっの……!!自分ができたからって!!アンタなんて運が良かっただけでしょうが!!彼が居なかったら私達と同じだった癖に!」

 

「彼が居るのでその仮説に意味はありませ〜ん」

 

「ぐぅぅ……!!」

 

 

 コイツ調子に乗ってやがる……開き直ったというか、隠さなくなったというか、枷が外れたというか。『やーです』とか言って長々と焦らしていたにも関わらず、今ではもうこの有様。

 ついこの間までフレイヤ様の前でベソベソ泣いていたくせに。針の筵になって顔を真っ赤にしていたくせに。

 

 

「うう、私も私のことを他の何よりも愛してくれる強くてカッコいい年下彼氏が欲しい……もし現れてくれたら、もう強がらないし偉そうにもしない。ちゃんと好き好き大好きするから……」

 

「何言ってんの……」

 

「ヘイズへの殺意がおさまらない……」

 

「せめてお腹の子が生まれるまで待ってくれません?」

 

「へ、ヘイズさんが居なくなっても私がちゃんと後を継ぎますからね……!」

 

「ヘルン、なんだか知り合いのエルフが急に恐ろしいことを言い始めました。私は殺される上に旦那と子供まで取られるかもしれません」

 

「なんでこの空間の人間の大半が狂気に囚われてるのよ……」

 

 

 ヘルンもそれなりに狂信者呼ばわりされることはあるが、それでもこの場においては自分が一番まともな人間だという確信がある。なにせヘルンは別に羨ましいとも嫉ましいとも思っていない。

 むしろ『やっとか……』という思いばかりであり、同情さえしていた彼がようやく報われたことに安堵している。ヘイズの反応を見ていると、どうしても彼の方に同情してしまうのだ。

 

 友人としては調子に乗っているヘイズを一度殴っておくべきなのかもしれないが、まあ今ばかりは仕方ないだろう。彼女はそうして幸せになればいいのだ。フレイヤ様の隣には自分が居るのだから。ライバルが減って清々する。

 

 

「なんだか澄ました顔をしてますけど、ヘルンも恋愛をしたら間違いなくぶっ壊れるタイプですからね。他人事みたいにしていられるのは今のうちだけですよ」

 

「何言ってるの?私は恋愛するつもりなんてないけど」

 

「私もなかったですよ、奇跡的にこうなってしまっただけで。だからヘルンにも突然にとんでもない出会いができてしまって、頭がおかしくなることもあるかもしれません」

 

「おかしくなりたくないんだけど……」

 

「私はおかしくなりたいです……!」

 

「わたしもー」

 

「なりたい人がなれないのに、なりたくない人がなってしまうのが世の常ですよ〜」

 

「本当になりたくないんだけど……!」

 

 

 そんなこと本当の本当に望んでいないヘルン、けれどそんな言い方をされるとなんだか妙なフラグが立ちそうで顔が引き攣る。

 ヘルンは本当に今のままでいいのだ、フレイヤ以外の誰かを好きになりたいとも思わない。その上で恋におかしくなんてなりたくない。狂わされたくなんかない。ヘイズみたいなみっともない顔を晒したくないし、ヘイズみたいにフレイヤ様に痛いところを刺されたくない。

 

 

「私は絶対にフレイヤ様以外の誰にも恋なんてしないから!!」

 

「あー、はいはい」

 

「どうせヘルンもいつの間にか強くて良い男を見つけて私達を置いていくのよ、若くて可愛い女は良かったわね。ぺっ」

 

「ヘルンさん、要らなくなったら早く捨ててくださいね。私が拾いますから」

 

「だからしないってば!!」

 

 

 ヘルンは淑女、どこかのピンクの淫乱とは違う。

 決して既成事実を作るために男を拘束して襲おうとしたりなんてしないし、恋に狂ってドス黒い愛情を憎悪と共にぶつけたりしない。それはあり得ないことだ。具体的に言うと、あの神々さえも虜にする美の女神フレイヤがその辺の子供を見て恋に堕ちるくらいあり得ない。つまりそんな未来はあり得ないということに等しい。

 

 

「そう……あり得ない、あり得ないから……そうですよね、フレイヤ様」

 

 

「「「?」」」

 

 

 

 ……まあね。

 女神の御心を他の誰よりも理解していますから。

 

 最近になって現れたあの白い兎。

 正にヘルンの頭痛の種。

 

 ハサが生きて帰ってきた次の日に、ロキ・ファミリアの遠征と同時に決行された兎への試練。本当につい先日のこと。彼はそれを見事に突破してしまったが故に、ヘルンの心に伝わってくる並々ならぬ昂った感情。

 あり得ないと思っていたことが形になっていく感覚。

 

 

「嫌だぁ……恋なんて嫌いぃ……」

 

 

「えぇ、なんで急に泣き出したのこの子……」

 

「怖……」

 

 

 自分はあの兎のことなんて好きでもなんでもないのに、感情だけは流れ込んでくるのだから地獄なんてものではない。しかもその感情が敬愛する主人のものともなればいっそ首を括りたくなるくらいだ。

 

 こうしてヘイズの案件に首を突っ込んだりあれこれ世話を焼いて回っているのも現実逃避のため、1人になると鬱になる。ヘルンも大変なのだ、その立場は決して楽しいばかりのものではない。

 

 

「そういえばヘイズ、新婚旅行はいつから行くのよ」

 

「3日後です」

 

「早っ!?」

 

「なんでそんな急いでんのよ!」

 

「や、なんかフレイヤ様がロキ・ファミリアが遠征から戻る前に行った方がいいと。それに4〜5ヶ月くらいはオラリオに戻って来ない方がいいとも言われました」

 

「えぇ、なにそれ……」

 

「さあ?ですが"勇者"もこれから厄介な案件が起きるからオラリオを離れた方がいいと言っていたそうです」

 

「ちょっと待って!?それ私達は巻き込まれるってこと!?子供には見せられないような酷いことがこれから起きるってこと!?」

 

「まあそういうことなので、割と長めの新婚旅行になりそうと言いますか。私もこの際に色んなところに行ってみたいと言いますか。彼もついでに外でのお仕事を色々な神様に頼まれていると言いますか」

 

「あ、そう……」

 

「多少の長旅も私は問題ないですからね〜、別に医師のいない僻地に行くわけでもありませんし。のんびり美味しいもの食べたりしてきます。少なくともオラリオに居るよりは平和でしょうし」

 

 

 ということで、せっかく家をこうして整えているというのに早速長期の旅行に向かうというヘイズ達は、色々な神々からの思惑を背負わせられている気もしないでもない。

 

 それでもヘイズもハサも、旅行などこれまで楽しんだことさえなかった人間。それを2人で巡れるというのだから、楽しみ以外の感情もないのだろう。もちろん女神と少しの間会えなくなることは寂しくはあるが、これは女神フレイヤの外界における威光を知る機会でもある。眷属として必要なこと。

 

 

「けど……流石に5ヶ月は心配ですね、誰かに付き人をお願いした方がいいのでは?」

 

「仮にもLv.5の身ですよ?それに彼もアミッドから介助について学んでくれていますし、私はもう学び終えてます。問題なしなしで〜す」

 

「くっ、いい男すぎる……ヘイズには勿体無い」

 

「そういうことなのでヘルン?私が居ない間に暴走しちゃ駄目ですよ〜、助けてあげられませんからね〜」

 

「私がヘイズに助けられたことってあった……?危害を加えられた覚えならあるけど」

 

「あ!それは傷付きました!傷付きましたよヘルン!真実は時に人を傷つけます!」

 

「自覚してんじゃない……」

 

 

 けれどこれまでなんやかんや働き者のヘイズに頼ってきた側面はフレイヤ・ファミリア全体に言えること。これから先のフレイヤ・ファミリアがどうなっていくのか、それは誰にも分からぬこと。

 それにヘルンとしても、決して不安がない訳ではない。ヘイズ・ベルベットという献身的な治療師は、ただそこにいるだけで意味がある存在なのだから。それを彼女以外の誰もが分かっていたからこそ、まるで追い込むようにヘイズにそう在るよう求め続けていたのだから。

 

 

「……まぁ、こっちはやっておくから。あなたはこの際に存分に楽しんできなさい」

 

「!……お土産を楽しみにしていて良いですからね〜!」

 

「はいはい」

 

 

 不思議な話である。

 こうして満面の笑みをしている馴染みを見ていると、自然と自分まで嬉しく、そして同時に羨ましく思えてしまうのだから。

 

 

 

 そんな未来など間違いなく自分には存在しないと、分かっていても。

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