男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
その後、湊による適切な、精神的ケアと助言によって、冷泉院麗華は無事、自らの行き過ぎたストイックさを反省した。彼女は周囲の生徒会メンバーや一般生徒の歩調に合わせることを覚え、誰もが羨む「優秀で、かつ慈悲深い理想のリーダー」として、みんなと仲良く円滑な生徒会活動を再開させたのであった。
学園の生徒たちは一様に胸を撫で下ろし、やっぱり冷泉院さんは素晴らしい、と彼女への賞賛を口々に叫んだ。
――めでたし、めでたし。
……などという、綺麗で無害なハッピーエンドは、この盤面の表面を撫でただけの、ただのまやかしに過ぎない。
実態はこうだ。
麗華が周囲に優しくなれたのは、「自分には湊という唯一の絶対的な理解者がいる」という精神的余裕を与えられたからであり、彼女が職務を完璧にこなせるのは、その成果を湊に褒めてもらい、二人きりの時間に「呼び捨て」で甘えるための供物に他ならない。
そして、その傍らで健気に主君を支える騎士であるはずの梓もまた、学校生活の裏で「麗華には決して見せない、湊の悪いオスの顔」を自分だけが貪っているという背徳的快感に脳を焼かれている。
周囲との関係を修復し、完璧な主従に戻ったように見える麗華と梓。
しかしその実は、この一件で、主君も、その従者も、揃って一ノ瀬湊という底なしの沼に完全に堕ちていたのであった。
((――私だけが、あの人の本当の姿を知っている))
お互いに同じ言葉を胸の中で反芻しながら、二人の少女は今日も、湊が用意した檻の中で、喜んで飼い慣らされていく。
「そうですね? お兄様」
誰もいない一ノ瀬家のリビング。
サオリが俺の前でそう語ると、俺は一つの面白いステージを見た後のようにパチパチと軽い拍手で応えた。
「流石、俺の一番の理解者だね。ちゃんと俯瞰して状況が見られている」
「えへへ……」
ほおが緩んでいるサオリの頭をなでてやると、もっととせがむように無遠慮にこちらに体を寄せてくる。だが、その瞳の奥にある「俺を完全に管理し、独占したい」という昏い光は消えていない。
「ですが、あの姫様気取りのお嬢様を甘やかしてばかりではいけませんよ? ちゃんと適切な距離感をわからせてあげなくては」
少し顔を赤らめて、抗議の視線を向けるサオリをなだめるように抱き寄せてやり、耳元に口を寄せる。
「大丈夫さ。どんな時でも、サオリが一番だよ。この先もずっと」
「っ……ぁ……」
すっかり魅了され、情けなく吐息を漏らす彼女に半ば強引に口づけをする。それだけで彼女の内にある独占欲と従属欲が悲鳴を上げるように昂る。
彼女は目の前にいる「本当の」湊の肩を力強く抱き寄せ、その首元に吸いついた。
俺はそれを冷めた目で受け入れ、なすが儘にされるばかりであった。