男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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中間試験が終わり、教室内が独特の解放感に包まれていた、ある日のホームルーム。

 

「――というわけで、来週からは一泊二日の林間学校があります。各自、今日中に四人一組の班を決めて報告するように」

 

担任のその言葉が呼び水となった瞬間、俺の視界の端で、三つの異なる「視線」が同時にこちらを射抜いた。

 

「林間学校、か……」

 

わざとらしく、少し不安げに呟いてみせる。

この世界の「林間学校」が、前世のような牧歌的なキャンプであるはずがない。軟弱な男にとってはただの過酷な労働であり、女たちにとっては己の「男を守る力」や「甲斐甲斐しさ」を競い合うアピールの場。

そして何より――男と公然と寝食を共にするという、合法的な『密室劇』の舞台だった。

 

「湊さん、もしよろしければ、私と班を組んでいただけないかしら?」

 

真っ先に、しかし極めて優雅な足取りで俺の席へ近づいてきたのは、生徒会長である冷泉院麗華だった。

人前ならではの「名前+さん付け」。凛とした微笑みを浮かべる彼女の背後には、当然のように影のごとく桐生梓が控えている。

 

「私と梓、そして湊さん。あと一人、どなたか頼りになる方を募れば、実習の安全も確保できると思うのだけれど」

 

麗華の提案は、一見すると生徒会長としての義務感と親切心に基づいた、非の打ち所がないものだった。周囲の女子生徒たちも「さすが冷泉院さん、一ノ瀬の安全を考えて真っ先に声をかけるなんて」と感心している。若干名、嫉妬のまなざしを向けているが。

だが、俺の目には、麗華の耳たぶが微かに赤く染まっているのが見えていた。彼女の頭の中はおそらく、今頃こんなハッピーな聖母妄想で埋め尽くされているに違いない。

 

(湊さんと、一泊二日……! 夜の点呼の時、もし彼が慣れない環境で不安になってしまったら、私が一番近くで支えて、その可愛い弱音を受け止めてあげられる……!)

 

そうでなければ、凛とした仮面を被りながら、その指先がスカートの裾をそわそわと弄るはずがないのだ。彼女はすでに、俺にとっての「唯一無二の安心できる私」になる未来を妄想して暴走している。

 

「ちょっと待ってください、麗華様」

 

そこへ、鈴の鳴るような、しかし冷徹な声が割り込んできた。サオリだ。

サオリは俺の腕にさりげなく、しかし絶対に引き剥がせないような力加減で自らの体を寄せ、麗華を真っ向から見据えた。

 

「お兄様の体調や好みを一番把握しているのは、従妹であり、従者である私です。麗華様のお手を煩わせるまでもありません。最後の一枠には、当然私が責任を持って入らせていただきます」

「あら、サオリさん。身内の方の安心感も大切だけれど、大抵、林間学校の沢登りは険しいわ。生徒会として全体の統率を取りつつ、私が湊さんを護衛する方が合理的だと思わない?」

「ふふ、合理的、ですか。お兄様を『管理』する資格があるのは、公私ともに私だけだと思っていますけれど?」

 

微笑み合う二人の間で、パチパチと目に見えない火花が散る。

サオリの微笑みの裏で、彼女の脳内がいかに傲慢な独占欲で満たされているか、俺には手に取るように分かった。

 

(他の雌狐どもはお兄様の手のひらで踊るおもちゃ。全部を分かって管理してあげられるのは、世界で私だけ)

 

――そんな、優越感に脳汁を溢れさせている従妹の頭を、俺はさらに深く、甘やかすように撫でてやった。それだけでサオリのガードが一瞬でふにゃりと緩むのを計算通りに拘束を抜けながら、俺は麗華の背後に立つ梓に、すっと視線を向けた。

梓は、サオリと麗華の争いを一歩引いた位置で見つめながら、退屈そうに爪をいじっている――ように見せて、その実、俺と視線が合った瞬間に、びくりと肩を震わせた。 俺は麗華たちに気づかれない絶妙な角度で、梓にだけ、唇の端を小さく上げてみせる。生徒会室で見せた、あの「悪いオスの顔」だ。

 

「――っ」

 

それだけで、梓の呼吸が劇的に浅くなる。強気な従者の仮面を被りながらも、その瞳の奥で「特別扱いされる悦び」にドロドロとよだれを垂らしているのが、俺にははっきりと見えていた。

 

(また麗華様の目を盗んで、あんな風に乱暴に私を侵食してほしい……っ。あの男の、あの凶暴で意地悪な本当の姿に所有されているのは、私だけなのに……!)

 

麗華に見せる無垢な少年の顔をかなぐり捨て、自分だけに牙を剥いてくる俺の視線に、彼女の被支配欲がキュウキュウと悲鳴を上げている。たまらないね、この背徳の味。

 

「あはは……みんな、俺のためにそんなに言ってくれてありがとう。麗華さんも、サオリも、梓さんもいてくれたら、俺、安心して林間学校に臨めそうだよ。……この四人で、班をお願いしてもいいかな?」

 

俺がいつもの、守ってあげたい少年の無垢な笑顔で首を傾げると、三人の少女は同時に息を呑み、それぞれの歪んだ歓喜に胸を震わせた。

 

「ええ、もちろんよ、湊さん。私があなたを完璧に守ってあげるわ」 「はい、お兄様。現地でのケアはすべて私に任せてくださいね」 「……ふん。足手まといにならないように、大人しく私の後ろについていなさいよ、一ノ瀬」

 

こうして、一ノ瀬湊を檻の中心に据えた、最悪に歪んだ四人班が結成された。 一泊二日の閉鎖空間。彼女たちの脳内麻薬が限界を迎える舞台の幕が、静かに上がろうとしていた。

 




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