男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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林間学校という名の課外学習は、軟弱な生活を送る「この世界の男」にとっての苦行であると同時に、女たちが己の有能さをアピールする絶好の機会でもあった。

大型バスから吐き出された生徒たちが、大自然の険しい山道を前にして一様に顔を青くしている。

特に道明寺龍也は、周囲の屈強な女子護衛たちに「龍也様、危ないですから!」「お足元を!」と過保護に囲まれ、プライドを痛めてイライラと周囲に当たり散らしていた。この世界の男にとって、女に子供扱いされて守られるのは、ステータスであると同時に、自尊心の強い男にとっては屈辱でもある。

そんな中、我が一ノ瀬班は、難所とされる最初の「沢登り」に挑んでいた。

ぬかるんだ斜面、水しぶきを上げる浮石。

ここで、消えた「盾」の役割を引き継ぐようにして、梓が圧倒的な存在感を発揮し始める。

 

「一ノ瀬、ここを。……石が浮いている、私の足跡をなぞって」

 

梓は麗華の護衛として、山仕事や地形に関する知識を叩き込まれていた。険しい岩場では、自らが踏み台に近い形で俺を導き、滑りやすい場所では俺の腰を力強く支える。

 

「あ、ありがとう、梓さん……。すごいね、かっこいいや」

 

俺が少し息を切らせながら、わざとらしく潤んだ瞳で彼女を見上げると、梓はフンと鼻を鳴らして視線を逸らした。だが、彼女の腰のサポーターを握る俺の指先に、彼女自身の体温が跳ね上がるのが伝わってくる。俺のホスト脳は、彼女のガチガチに緊張した背中から、その脳内を容易に透視できた。

 

(麗華様の前だからって、そんな可愛い声で呼ばないで……! 悔しいけど、この人が私を頼って、私の体に触れているだけで、頭の中が変になりそう……っ)

 

麗華が「知識」で班を先導し、サオリが「献身」として俺の荷物を半分持つ中、梓は文字通り「強さ」で俺を守り抜くことで、自らの所有価値を俺にアピールしている。

だが、その沢登りの最中、一瞬だけ麗華とサオリが先行し、俺と梓が岩陰で二人きりになる瞬間が訪れた。

 

「――っ」

 

梓が俺を引っ張り上げた拍子に、俺はわざとバランスを崩し、彼女の胸元に倒れ込むようにして、その華奢な体を岩壁に押し付けた。 周囲の喧騒にかき消されるほどの至近距離。俺は麗華に見せる無垢な顔をかなぐり捨て、生徒会室のあの「悪いオス」の目で、彼女の怯えたような瞳を見下ろす。

 

「頼りにしてるよ、梓。麗華さんには悪いけど……やっぱり、こういう泥臭い場所で俺を本当に支えてくれるのは、君だけだ」

「あ、は、一ノ瀬……っ」

 

俺が彼女の耳元でそう囁きながら、彼女の作業着のベルトを少し強めに引き寄せると、梓の瞳は一瞬で熱に浮かされたように潤んだ。

 

(ああ、またこれだ……! 麗華様のすぐ近くで、私をこんな風に男の力で組み伏せて……っ。私は、この人の所有物なんだ……!)

 

「ほら、置いていかれちゃうよ。行こうか、俺の可愛い騎士さん」

 

再びいつもの「一ノ瀬くん」の笑顔に戻って俺が手を離すと、梓は崩れ落ちそうになる膝を必死に堪えながら、狂おしいほどの背徳感と従属欲の沼へ、さらに深く沈んでいくのだった。

 




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