男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
過酷な実習が一段落し、山の帳が下りる頃。 広場の中央で爆ぜる大きなキャンプファイヤーの炎が、赤々と生徒たちの顔を照らしていた。
昼間の険しい沢登りで完全に疲れ果てた他クラスの男たちが、女子護衛たちに甲斐甲斐しくスプーンでスープを口に運んでもらったり、団扇で仰いでもらったりしている。 当然、俺の周りでも静かな、しかし苛烈な火花が散っていた。
「湊さん、この山の薬草を使ったハーブティーよ。お疲れでしょう?」
「お兄様、私が特別に用意させた冷たいタオルです。さあ、こちらへ」
麗華とサオリが左右から俺を挟み、至れり尽くせりの接待合戦を繰り広げている。俺は「あはは、ありがとう」といつもの無害な笑みを浮かべてそれを受け入れているが、正直、この過剰な女たちの『崇拝』には少々胃が焼けそうだ。
ふと視線を外すと、炎の明かりが届かない薄暗い丸太のベンチに、道明寺龍也がポツンと一人で座っているのが見えた。 過保護な女子護衛たちに「龍也様、夜風はお体に障ります!」「奥へお戻りください!」としつこく付きまとわれ、完全にブチ切れて彼女たちを追い払ったらしい。ふんぞり返りながら、忌々しそうに炎を睨みつけている。
「――ごめんね、二人とも。ちょっと風に当たってくるよ」
俺は麗華たちにそう言い残し、エサを求めて群がる女子生徒たちの視線を巧みに躱しながら、暗がりのベンチへと歩を進めた。
「よ。隣、いいか?」
「……一ノ瀬か。勝手にしろ」
ドサリと遠慮なく隣に腰を下ろすと、龍也は面倒そうに顔を背けた。だが、拒絶の言葉の割に、俺を突き放そうとはしない。
俺はふぅ、と深くため息をつき、丸太の背もたれに思い切り体を預けた。いつもの『可愛いお人形』の武装を解いた、ただの男子高校生の脱力感だ。
「……お前も、女どもに囲まれて疲れたツラしてんな」
龍也が、炎に照らされた横顔のまま、ボソリと呟く。
「ぶっちゃけ、死にそう。サオリも麗華さんも、優しくしてくれるのは嬉しいんだけどさ……。四六時中『王子様』みたいに扱われるの、男としては地味に胃にくるっていうか」
「はっ、全くだ。あいつら、俺たちがガラス細工か何かだと勘違いしてやがる。ズボンの泥を拭くだの、虫がいただの、過保護にも程があるぜ」
龍也が初めて、吐き出すような本音の笑みを見せた。 女が男を「庇護すべき愛玩物」としてしか見ないこの世界において、中途半端にプライドを持った龍也は常に孤独だったのだ。そんな彼にとって、同じ苦痛を共有し、対等な「男の愚痴」を言い合える存在がどれほど飢え渇いていたか。
俺はフッと笑い、龍也の肩に自分の肩をガツンと軽くぶつけた。男同士の、とりとめもない連帯の合図だ。
「ま、明日も過酷な実習が続くけどさ。お前が隣にいてくれるなら、女どものお守りも少しはマシに思えるわ。まあ一緒に乗り越えようぜ、龍也」
「――ッ」
名前を呼び捨てにされた瞬間、龍也が弾かれたようにこちらを見た。 暗がりの中でも、彼の耳元がカッと熱を帯びるように赤くなるのが分かる。彼の脳内は、今頃くだらない「バグ」を起こしているに違いない。
(こいつ……俺のことを、ただの『道明寺家の跡取り』じゃなく、一人の『男』として見てやがる……。本で読んだことがある。これが、女どもの安っぽい崇拝なんかとは違う、本物の……友情ってやつか……っ!)
女をすべて排除した、男だけの空気感。
「……ふん。お前がどうしてもって言うなら、少しは手を貸してやる」
龍也はそう言って、前髪を乱暴にかき上げた。
これで道明寺龍也の中に「湊は俺が男のプライドにかけて守るべき、唯一の戦友」という、歪んだ義務感を持たせた。せいぜい便利に使ってやるか。
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