男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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深夜二時。 男子宿舎の見回りの目を完全に盗み、俺はあらかじめ指定されていた薄暗い食堂の裏口へと滑り込んだ。

パチ、と小さなライターの火が灯り、サオリの冷徹な美貌が闇の中に浮かび上がる。

彼女はパイプ椅子に深く腰掛け、腕を組んだまま、氷のような視線を俺に向けていた。

 

「お遅いですよ、お兄様。点呼が終わってから、もう一時間も経っています」

「ごめんごめん、男子部屋の連中がなかなか寝付けなくてさ」

 

俺が苦笑しながら近づくと、サオリは立ち上がり、俺の胸元にスッと音もなく擦り寄ってきた。その細い指先が、俺のシャツの襟を乱暴に掴む。

 

「昼間は麗華様と親密そうにし、夜は夜で、あの上品ぶった道明寺の男と楽しそうに肩を並べて……。お兄様、私がどれだけ不愉快だったか、お分かりですか?」

 

彼女の呼吸は荒く、瞳の奥には抑えきれない嫉妬と、独占欲の狂気がドロドロと渦巻いている。

サオリは「お兄様を完璧に管理し、すべての動向を把握している支配者」でありたいのだ。だからこそ、自分の目の届かない場所で俺が他の人間に「特別な顔」を見せることが、彼女のプライドを内側から掻き毟る。

 

(お兄様を本当に理解し、その手綱を握っているのは私だけのはずなのに……。どうして他の有象無象にそんな顔を見せるの……っ? 早く、私だけのものだって証明して……!)

 

焦燥に駆られ、今にも泣き出しそうなほどに歪んだ彼女の表情。 俺は冷めた頭でそれを愛おしく眺めながら、彼女の顎をクイと指先で持ち上げ、至近距離でその唇に指を当てた。

 

「静かに、サオリ。誰かに聞かれたらどうするんだ?」

「……っ」

「昼間の奴らは、俺の手のひらで踊っているただの観客だよ。麗華さんも、龍也も、俺がこの世界を都合よく生き抜くためのただのパーツだ」

 

俺は彼女の耳元に、熱く、そして世界で一番冷徹な本音の毒を注ぎ込む。

 

「こうして深夜に、誰もいない暗闇で、本当の俺をすべて曝け出せるのは……サオリ、世界中で君だけだよ」

「おに、ぃさま……」

 

その言葉が、サオリにとって最大の麻薬となる。

彼女の瞳からスッと険しさが消え、恍惚とした歪んだ悦びへと塗り替えられていく。

 

「ですから……お仕置きを、させてください。私が一番だと、お兄様の身体に刻ませてください」

 

サオリは限界を迎えたように俺の首筋に顔を埋めると、痛いほどの力で、激しくその白い肌に吸い付いた。 何度も、何度も、他の女への当てつけのように、消えない赤紫の痕を刻み込んでいく。

俺は天井の薄暗い電球を見つめながら、彼女の背中に手を回し、優しく撫でてやった。 なすがままにさせてやる。これだけで、彼女は「やっぱりお兄様を支配しているのは私だ」と誤認し、俺という底なしの檻から永遠に抜け出せなくなるのだから。

 

 




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