男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
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林間学校の喧騒も冷めやらぬ中、聖マリアンヌ学園に衝撃が走った。
俺の住んでいる国から遠く西に行った場所にある、厳格な宗教国からやってきた交換留学生――「現代に舞い降りた聖女」と称えられる、クラリス・フォン・ベルンシュタインが編入してきたのだ。
プラチナブロンドの髪に、深い慈愛を湛えた蒼い瞳。彼女が教室に入った瞬間、誰かがほう、とため息を漏らすほどの存在感と容貌。
「交換留学生としてマチカという国から来ました、クラリス・フォン・ベルンシュタインと申します。気軽にクラリス、と呼んでください」
超然とした雰囲気を持ちながら、人好きのする笑みを浮かべるクラリス。龍也に至ってはもうすっかり鼻の下を伸ばして彼女を見つめている。
しかし彼女自身は龍也や俺を見ても他の女性のように心を大きく動かした様子はない。俺は妙な感覚を覚え、しばらくは見に徹することにした。
この世界の女性は、希少価値の高い男を前にすると通常、脳が「この男が欲しい」と切り替わる。麗華だって、サオリだって、表面上のタイドがどうあれ、その根底には常に俺を手に入れようと行動している。
だが、このクラリスという女の瞳には、それがない。
「欲しい」という感情が感じないのだ。
こういう場合のパターンは二つ。一つは男性に興味がないパターン。この世界でも一定数存在する、同性が恋愛対象であるパターンである。そしてもう一つ。その対象を「すでに持っているものである」と自覚しているパターン。こうなると厄介だ。すべてを達観したかのように冷め切ったその蒼い相貌の奥に一体何を経験してきたのか。俺は口元に当てた手の裏で舌なめずりをした。
そんな俺の懸念を余所に、学園は「マチカの聖女」の到来に文字通り狂乱した。 彼女が廊下を歩けば自然とモーセの十戒のように道が開き、中には熱狂のあまり十字を切る生徒まで現れる始末。まさに歩く偶像だ。
麗華、梓たち生徒会も対応に追われ、サオリも新参者の動向を警戒してか、ここ数日は俺の監視が心なしか緩んでいた。
「クラリスさんってすごく男性への対応が淑女的だよね。もう男子生徒がメロメロだよ」
「いえ、そんな。私はあくまで普通に対応したまでですよ。きっと淑女である皆様も同じようにすれば私など……」
「謙遜しなくていいよー。私たちも見習わないとね!」
教室で女子たちと戯れるクラリスを、俺はスマホを流し見するふりをして様子をうかがっていた。
見られている。ちらちらと視界の端で彼女がこちらを見ているのがわかったが、あえて俺は気づかないふりをしていた。
「よ、よう。お前クラリスっつたか? 次の社交学の授業、俺の班に入れてやってもいいぜ」
「あら、それは光栄ですわ。他の班員の方々と一緒に私も学ばせていただきます」
龍也が高慢に誘ってもあくまで自然に、かつ一歩距離を置いて受け入れる。
「お兄様……」
「……ふふ、ああそうだね」
俺は立ち上がってサオリと一緒に屋上へ向かった。
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