男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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 屋上には誰もいない、だれも見ていない。俺は教室での王子様の雰囲気を捨て、少し乱暴にふるまう。

 置かれたベンチに深く腰掛け、隣にサオリを座らせた。

 

「あの女、クラリスと言いましたか。少し面倒な女です」

「というと?」

 

 サオリはここ数日のクラリスの調査結果を話し始める。

 男子、女子関係なく優しく振舞い、男性に対して気後れする様子や特別視する様子がない。それでいて持ち前の優しさと距離感、聖女という神性が男子生徒の欲望を煽り、この学校の男子生徒を少しずつ支配していっているようだ。

 

「この国の女の共通認識である『男性は守り育てるべきもの』という前提が、あの女には一切通用しません。男を子供扱いせず、かと言って卑下もせず、ただ均等に『施し』を与えるように接している。……おかげで、お守りされることに退屈していた学園の男子たちが、こぞってあの女の『信者』になりかけています」

 

サオリはそう言いながら、俺のシャツの袖をきつく握りしめた。その瞳の奥には、自分の管理下にない未知のウイルスに対する、ドロドロとした強い不快感が渦巻いている。

 

「麗華様も生徒会長としてあの女の特別待遇に頭を悩ませています。お兄様……あの女には、絶対に近づかないでください。あれは、ただの珍しい留学生などではありません。人を盲信させる、別の意味での『化け物』ですわ」

「はは、サオリがそこまで言うなんて珍しいね。分かったよ、気をつける」

 

俺はいつもの「物分かりの良いお兄様」の笑顔でサオリの頭を優しく撫で、彼女の尖った警戒心を甘やかすように溶かしてやった。 サオリは「ん……っ」と嬉しそうに目を細め、俺の胸元に顔を埋めてくる。

だが、俺の冷め切った頭は、すでに別の計算を始めていた。

 

(なるほどな。あれは少なくとも普通の環境で育ったものじゃない。もっと特別な……例えば男女比に偏りがない特殊な環境で、ただの『偶像』として、男を特別視せずに育てられた結果。……面白いじゃん。狂った世界にやってきた、奇跡的にノーマル、いやアブノーマルな聖女様、ね)

 

 

 

 昼休み、俺は龍也と一緒に屋上でコーヒーを飲んでいた。

 

「いやークラリス、いいよなぁ。お前もそう思うだろ、湊」

「そうだね。男性への対応がうまい。いい育ちなんだろうな」

「まあ、あいつはキープだろうな。後は家がふさわしいか調べておくか」

 

 ……気持ち悪ー。この世界の男性ってやっぱり自分の一存ですべてうまくいくと思ってる人たちばっかりだから、こんな感じで女性を思い通りに動かせる駒としか思っていない。自分の実力じゃない、ただ自分が男だからという要素から来る自身。要するに何もできない無能がたった一つ得た幸運だけで世の中を乗りこなしているのだ。

 

「そうだね。まあ頑張れば?」

 

 俺は飲み干したコーヒー缶を握りつぶし、そばのゴミ箱に投げ捨てた。

カラン、と乾いた音を立ててゴミ箱に吸い込まれる空き缶。龍也はその音にすら気づかず、まだ「マチカの聖女」をどうやって自分のハーレムに加えるかの妄想に耽っている。

 




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