男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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 礼拝堂での一件以来、学園内の空気は目に見えて変わっていた。 というか、俺の周りの治安が著しく悪化していた。

 

「……お兄様。ここ一週間ほど、あのマチカの泥棒猫のせいで、お兄様とまともに朝の御挨拶もできていませんでしたわ。サオリ、深く反省いたしました。……ですので、今日からはこのお弁当を、毎日お兄様の口に直接運ばせていただきますね? はい、あーん」

「ちょっとサオリさん、何破廉恥なことを言っているのよ! 湊、そんな偽妹の歪んだ甘やかしに毒されてはダメだわ! ここ最近、貴方が私との放課後の『特別講義』をクラリスさんのせいで休まざるを得なかったこと、私はとても遺憾に思っているの。遅れた分を取り戻すために、今週末は我が家でじっくり、マンツーマンで指導を行いましょう?」

「一ノ瀬……私も勉強教えてあげるから。きゅ、休日だって私の家に来ていいのよ? あの不審な女のことも気になるし、私としてもちゃんと一ノ瀬の安全を守らないとだから……」

 

 昼休みの学園の屋上。 サオリ、麗華、梓の三人が、俺を囲んで凄まじい圧をかけていた。 ここしばらく、クラリスが仕掛けてきた「勘違い脅迫」への対応や、聖女という存在の騒動の処理に追われ、俺との時間を削ってしまった故の件の契約だと思っているようだ。

 三人は並々ならぬ危機感を抱いたらしく、これまでの「待ち」の姿勢を捨てて、驚くほどの積極性で俺との距離を繋ぎとめようと猛攻を仕掛けてきている。

 人前だというのに二人きりの秘密を忘れて話しかけてしまうほどだ。

 俺が困ったような王子様の微笑みを浮かべながら、内心うっとうしがっている、その時だった。

 

「あら、一ノ瀬さんの護衛官の皆様。相変わらず不躾で、淑女としてなっておりませんね」

 

 プラチナブロンドの髪を揺らし、完璧な聖女の微笑みを浮かべたクラリスが、優雅な足取りでこちらの輪に割って入ってきた。

 

「クラリスさん……! また貴女ですか。湊さんの護衛官として彼に用があるなら、私が対応しますが」

 

 俺へまっすぐ歩いてくるクラリスの前に立ち仁王立ちする麗華とすぐ後ろに控える梓。長年の付き合いからか、その連携は見事なものだった。

 しかしそれを意に介さず、真正面から堂々と通り抜けたクラリスは、すました顔で俺の隣を陣取り、当然のように俺の腕に自身の細い腕を絡ませてきた。

 

「用? 用ですか……私は一ノ瀬さん……いえ、湊さんの所有物。ですので主が他の有象無象に汚されたり、傷つけられないよう、一番近くで見守るのは自明の理。湊さん、そうでしょう?」

 

クラリスは俺の腕をきゅっと抱きしめながら、上目遣いで俺を見てくる。 だが、その蒼い瞳の奥には、明らかな焦りと対抗心がバチバチと燃え盛っていた。

 

(……何ですの、この学園の女たちは⁉ 私が少し目を離した隙に、これほど破廉恥に彼に詰め寄るなんて……! この男の『魔性』は、私が暴き、私が管理すると決めたのです! こんな狂った女たちに彼を奪われたら、私の計画が破綻してしまいますわ!)

 

 苦し紛れに持ち出した古い悪法を、今や俺を独占するための完璧な盾として愛用している聖女様。

彼女は、サオリたちの中の「独占欲」のスイッチを完全に押し間違えたらしい。聖女としてのプライドをかなぐり捨てて、泥沼のレースに自ら飛び込んできたのだ。もちろん、その自覚はないだろうが。

 

「その手を離しなさい、泥棒猫。お兄様が管理されるべきなのは、私だけですわ」

「いいえ、私の心が、湊さんを一番優しく、確実に庇護できるわ!」

「そ、そうよ! 私だって……私だって、一ノ瀬との特別な時間を一番持ってるんだから、離れなさいよ!」

 

 サオリ、麗華、梓の三人の視線が、クラリスの絡める腕に集中し、中庭の気温が数度下がったかのような凄まじい殺気が渦巻く。

 

俺は、クラリスの柔らかい体温を腕に感じながら、四人の美少女たちが自分を奪い合ってバチバチに火花を散らす地獄絵図を見つめ、心の中でひどく冷静に分析する。

 

(クラリス、君は気づいていないだろうが、「学校中の男子を支配したい」という欲望が「一ノ瀬湊を支配したい」に変わった時点で、もう俺の沼に落ちているんだよ)

 

 俺は屋上で四人に囲まれながら、小さく笑みを浮かべるのだった。

 




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