男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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 ほかの家族のように俺の異常な行動に対して何かを嗅ぎ取ろうとするしぐさに、内心笑みがこぼれる。

 

「……お兄様、体調はどうですか? 何か、私にできることはありますか?」

 

その瞳には、男を「希少な種付け用資源」としてしか見ていない、この世界特有の強欲さが宿っていた。

 

(おもしろい。サオリ、君が最初の『私だけ女子』だ)

 

俺は彼女の手をとり、耳元に顔を寄せた。

他の人間には聞こえない、微かな、けれど確かな共犯者の声で。

 

「サオリ。……後で、二人きりになったら、少し話をしよう。他の人には言えないことなんだ。……いいかな?」

 

サオリの喉が、こくりと鳴った。

彼女の「資源への欲望」が、一瞬で「自分だけが秘密を共有されているという特権意識」へと変質する。彼女は眼を大きく見開かせながらも、ゆっくりと首肯する。俺はそれに満足して、彼女のもみあげを軽くさらった。

 

「っ……はい、お兄様。喜んで……」

 

上気した頬を隠すように、サオリが深く頭を垂れる。 その背後では、キッチンから「湊、ハンバーグでいいわよね!?」と、この世界の厳格な家長とは思えないほど浮き足立った母の嬉しそうな声が響いていた。

 

(……完璧だ)

 

俺の、二度目の人生が始まった。 前世で俺を殺した優子の、あの泥のように昏く、星のように純粋だった執着の眼。 この歪んだ世界なら、あの時以上の「最高傑作」を、それこそ数え切れないほど量産できる。

周りの傲慢な男どもがただふんぞり返っている間に、俺は彼女たちを一人ずつ、俺の愛という名の毒で、もっと美味しく歪ませてやろう。 そして、世界中を「私だけがあの人の良さを知っている」という熱病に侵された信者たちで埋め尽くすんだ。

 

「――さあ、まずはこの家から始めようか」

 

俺はリビングのソファーに深く腰掛け、誰にも気づかれないように、深く、昏い笑みを浮かべた。

 

 

「お兄様、入ってよろしいでしょうか?」

 

 控えめなノックに返事をしてサオリを中に招き入れてやる。

 

「失礼します……いったい何の話……ええ⁉」

「ああ、ちょっとお目汚し失礼」

「お兄様、男性が下着姿で女性を部屋に招き入れるなど……いけません!」

 

 今の俺はクローゼットから取り出した服を鏡の前で一着一着あてがって具合を確認しているのだ。

 

「まあまあ、そういわずに。ほら、この服とこの服、どっちが俺に似合ってる?」

「えっと……そっちの淡い色の方が、今の季節に合っているかと」

「そう? じゃあこれを着ていこうか。他の服は、冬用にしかならないね」

 

 クローゼットにある服はどれも肌の露出面積を少なくすることばかりを考えたような、季節感のない服ばかりだった。もちろんこの世界の男性の服装としては当然のものなのだろうが、この世界の男じゃない俺にとっては、もうすぐ春だというのにただ暑苦しいだけ。

 

「じゃあ、明日一緒に俺の服買いに行かない?」

「お兄様の、ですか?」

「うん。クローゼットの服はどれも好みじゃなくてさ。サオリ、俺に似合う服を一緒に選んでくれない?」

 

 少し上目遣いに、目にほんの少し涙を浮かべ、挑発するように体を寄せる。前世で鍛えた、堕とし方の一つ。今は下着姿だから、より相手の判断を鈍らせられる。

 サオリはわかりやすく頬を赤らめ、少し悩むふりをしてから俺の提案に乗った。

 一部のホストも使うやり口。頼れる存在が自分ひとりであると錯覚させることで、より自分に入れこませる。

 

(鍛えてないのか、頬が緩んでいるのがバレバレだよ)

 

 サオリがうなづいたのを確認して、急速に口を耳元に寄せる。

 

「じゃあ、明日はデートだね」

「え、で、デート……やった……」

「ふふ、じゃあこれは内緒だから、今日はこれで解散。おやすみ、サオリ」

「は、はい。おやすみなさい、お兄様」

 

 とりあえず、俺の技術がここでも通用することに満足し、ベッドに飛び込んだ。

 

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