男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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あの放課後のカフェデート――じゃなくて生活実態の検分だっけ――の翌日から、クラリスの態度はさらに一段階、おかしな方向へと加速していた。

 

(ふふん、なるほど。やはり私の見立て通り、男の扱いなんて簡単なものですわ)

 

自室のベッドで、クラリスは思い出し笑いを浮かべそうになるのを必死に堪えていた。

あのカフェでの出来事――スマートに席を案内されたことも、優しくリップクリームを拭うように指先で触れられたことも、すべては一ノ瀬湊が「マチカの聖女である私に完全に魅了され、懐いてしまった証拠」だと、彼女の都合のいい脳内変換は結論づけていた。

 

(一ノ瀬さんもすっかり私を気に入ってくれたようですし……ええ、それなら『所有物』として、もっと頻繁に、公私ともに私が一番近くで管理して差し上げなくてはなりませんわね! 次はどこへ検分に行きましょうかしら?)

 

自分の胸の奥が、ただ彼にまた会いたい、もっと二人きりで話したいと激しく欲している「等身大の女の子の恋煩い」だとは、これっぽっちも気づかないまま。

 

 

そして翌日の学園。

クラリスは、もはや隠そうともしない「我が物顔」で、俺のパーソナルスペースへと堂々と侵入してきた。

 

「おはようございます、湊さん。今日の体調はいかがかしら? 所有者の健康管理も私の義務ですから、これからは毎朝、私がこうして確認して差し上げますわ」

 

登校するなり、クラリスは当然のように俺の隣の麗華に割り込むように自分の椅子と机を引っ張ってきて腰掛けた。麗華が顔を真っ赤にして怒るのを涼しい顔で無視して俺にしっぽを振ってくる。

さらに、授業中も休み時間も、少しでも隙があれば俺の袖をきゅっと掴んだり、上目遣いで「先日の検分の続きですが……」と二人だけの秘密を匂わせるように話しかけてくる。

その様子は、周囲から見ればどう見ても「一ノ瀬湊にベタ惚れで、片時も離れたくない重い女」そのものだった。

龍也なんか顔を真っ青にしている。

 

「ちょっと、クラリスさん。貴女、いくらマチカのお偉いさんだからって、授業中まで湊の隣を陣取るのは横暴が過ぎるんじゃないかしら⁉」

 

休み時間、ついに耐えかねた麗華が、教科書を机に叩きつけるようにして詰め寄ってきた。その後ろでは、梓がハリネズミのようにトゲを逆立てて、今にも剣道の竹刀を握り出しそうな勢いでクラリスを睨みつけている。

 

「横暴? 心外ですわ、麗華さん」

 

だが、今のクラリスは「一度デートに成功した」という謎の全能感に満ち溢れていた。彼女はふん、と美しい鼻を鳴らすと、胸を張って言い放った。

 

「私はただ、正当な権利に基づいて彼を見守っているだけですわ。それに……湊さんも、私のこの『管理』をとても喜んで受け入れてくださっていますの。ねえ、湊さん?」

 

クラリスはドヤ顔のまま、俺の腕に自身の柔らかい身体をぴったりと押し付けてきた。 完全に調子に乗っている。自分の主導権で俺を手懐けていると信じ込んで、マウントを取る聖女様。

サオリ、麗華、梓の三人の額に、青筋が浮かぶのが見えた。教室の温度が目に見えて氷点下まで急降下していく。周囲の女子生徒たちも「聖女様、完全に一ノ瀬くんに狂ってる……」「おいたわしや……」と引き気味にヒソヒソと囁き合っている。

俺は、腕に伝わるクラリスの心地よい体温と、隠しきれずにトクトクと早く脈打っている彼女の心臓の音を感じながら、困ったような王子様の微笑みをキープしつつ、心の中でひどく冷徹に笑った。

 




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