男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
週末の大型ショッピングモール、そして併設された映画館。 休日特有の喧騒の中、俺はサオリ、麗華、梓の三人を連れて、これ見よがしにデートを楽しんでいた。
「お兄様、このお洋服なんてどうかしら? サオリ、お兄様に可愛いって言っていただけるなら、何でも着てしまいますわ」
サオリがブティックの中を行ったり来たりして様々な服を体に当ててこれでもない、あれでもないと悩んでいる。目の前にあるのは鏡ではなく俺だが。
「サオリは身体のラインがすごく綺麗だからどの服も似合っちゃうね」
「もう、お兄様! そんなこと言われると、困ってしまいます」
久々に羽を伸ばしたショッピングは押さえつけられていた欲求を開放するのに十分な場のようだ。
「ちょっとサオリさん、湊さんを独占するのはやめなさい。湊さん、次の映画の時間までまだ少しあるわ。私の知っている静かなブックカフェで、少し二人でお茶でもしない?」
「む、貴女こそ、どさくさに紛れて二人きりになろうとしてるではありませんか」
二人で火花を散らすのを横目に梓に近づいていく。
「梓、今日はみんなで決めたデートなんだから、ちょっとくらいはいつもみたいに甘えさせてあげる」
「なぁっ⁉ わ、私が一度でもあなたにそんなことをした覚えはないわ!」
「あれ、そうだったかな? 子猫みたいにじゃれ付いてるのかと思った」
「そんなんじゃないし!」
三人は、今回の目的が「クラリスをおびき寄せるための公開デート」だと理解している。だが、同時に「湊と堂々と休日を過ごせる正当な機会」でもあるため、普段の鬱憤を晴らすかのように熱烈に俺に詰め寄ってきていた。
「この映画の監督は、私が昔から贔屓にしている方なの。演出もとても上手で男性役の女優に演技指導をすることもあるほど、男性の造詣が深い方ですわ」
「すごいね、麗華は勉強だけじゃない、いろいろなことを知ってるな。一緒にいるとすごく楽しい」
「そ、そうですか? わ、私も湊にそう思っていただけると嬉しい……ですよ?」
暗がりでこっそり、そして「誰か」に見せつけるように手をつなぐ。そして「視点によっては」にキスに見えてしまうほど顔を近づけた。
そんな三人の過剰なスキンシップを、俺は王子様の微笑みで受け流しながら、周囲の「死角」へと薄く視線を走らせる。
(ショッピングモールの、背の高い商品棚の隙間。映画館の薄暗い通路の影。……やっぱり、ネズミが紛れ込んでるね)
気配は複数。
マチカの紋章を隠した、クラリスお抱えの隠密護衛官たちだ。
映画館の暗がりや商品棚の死角は、一見すれば追跡する側にとって好都合な場所に思える。だが、それは「こちらが意図した通りの『過激な絵』だけを、部分的に切り取って見せるための最高のカメラ」だった。
すれ違いざま、梓が俺の耳元で小さく、だけど確かな足取りを崩さないまま囁いてきた。
「一ノ瀬、四方から視線を感じるわ。マチカの護衛官ね。……配置は三人。ヤワな尾行だけど、このまま泳がせておいていいのね?」
「うん、ありがとう梓さん。予定通り、今回は泳がせるのがメインだから、気づいていないフリをしてあげて」
「……不本意だけど、あなたの作戦なら合わせてあげるわ。……その代わり、後でちゃんと私だけにも特別な時間、頂戴よね」
「もちろんだよ」
ツンと顔を背けながらも、梓は見事な索敵能力を証明してみせた。麗華もサオリも、尾行の存在を完全に察知しながら、あえて俺とのイチャつきを大袈裟に演出してくれている。
長年、この世界で男を守るために鍛え上げられてきた彼女たちの実力は本物だ。ただ、今回は俺の手のひらの上で、その牙を隠して楽しそうに笑っているに過ぎない。
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