男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
一方その頃。 学園の近くに構えられたクラリスの滞在先の一室では、凄まじい事件が発生していた。
「――報告は、以上です。クラリス様」
跪いたマチカの護衛官から提出された週末の監視報告書、そして通信機越しの過激なライブレポート。それを聞いたクラリスは、端正な顔をこれ以上ないほどに引きつらせていた。
「な、何ですって……⁉ 一ノ瀬さんが、あの三人の女たちと、薄暗い映画館の密室で、お互いの身体を寄せ合いながら……⁉ さらに、商品棚の死角で、代わる代わる彼を貪るように、破廉恥な行為に及んでいた、と……⁉」
「はい。映画館の暗闇の中、彼は抵抗する素振りも見せず、女たちのなすがままに……。やはり、あの男性は危険です。我々が以前、彼を『世界を裏から操る魔王』と推測した通り、あの身の毛もよだつ魔性で、現地の女たちを完全に洗脳し、自分の肉体の虜にしているに違いありません。早急にマチカの本国へ情報を共有し、完全に幽閉してしまったほうが――」
「それはダメですわ‼」
クラリスは叫ぶように遮った。 マチカの護衛官たちも能力が低いわけではない。だが、この世界の常識に染まった彼女たちは、「男=無能で守られるべき存在」という強烈なバイアスがある。そのため、湊の「ホストとしての自然なエスコート」や「女を転がす立ち回り」の本当の意味を理解できず、「男のくせに女を完全に洗脳して肉体関係を強要している巨悪の魔性」だと、限界まで盛りまくった過激な解釈で報告してしまったのだ。
そして何より、クラリス自身が、湊という『本物の毒(刺激)』に魅了され、彼を自分だけのものにしたいという独占欲に囚われていた。
(嫌……! そんな情報、本国に共有されたら、湊さんは大罪人として一生幽閉されてしまいますわ! あの方の、あの狂った美しい魔性を暴き、所有していいのは、この私の【魂の対価】の契約だけですのに……!)
クラリスの天才的なマエストロの脳は、護衛官たちの盛られた報告によって完全にオーバーヒートを起こしていた。
(何が『男の扱いなんて簡単』ですの……! 私が少し目を離した隙に、あの男は他の女たちの毒にまみれて、あんなにもぐちゃぐちゃに貪られて……! ああ、もう我慢できませんわ! 私は彼の所有物! 資産が他の有象無象に汚されているのを、これ以上指をくわえて見ているなんて絶対に不可能ですわ‼)
自分が「ただ嫉妬で狂いそうになっている盲目な女の子」だという自覚は、やはり無い。
しかし、彼女の蒼い瞳には、聖女としての理性など微塵も残っていなかった。ただ、一ノ瀬湊をあの三人の女から力尽くで奪い返したいという、ドロドロとした飢餓感だけが激しく燃え盛っていた。
ショッピングモールのカフェの席で、俺は隠密たちの動きの乱れを確認し、心の中で最高に愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
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