男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

34 / 34
33

週末のデートの夜。

一ノ瀬湊と龍也という、クラスの二大男子(※一人は本物の王子、もう一人は都合のいいマスコット)を意図的に排除した『2年A組・女子だけ秘密部屋』というトークグループは、かつてないほどの激震に見舞われていた。

 

『【写真】【写真】【写真】』

 

突如として、麗華のアカウントから投下された数枚の高画質画像。 そこには、薄暗い映画館のロビーで、少し困ったように微笑む湊の腕にしがみつく麗華。ショッピングモールの商品棚の死角で、湊にポップコーンをあーんと食べさせてもらっている梓(顔を真っ赤にしている)。そして、お洒落なカフェで湊の胸元にぴったりと寄り添い、勝ち誇ったような笑みを浮かべるサオリの姿が写っていた。

もちろん、これらはすべて、撮影係を代わる代わる交代しながら、マチカの死角を意識して、最も過激に見えるアングルを計算し尽くして撮られた「戦略的兵器」だ。

直後、クラスの女子たちのタイムラインが猛烈な勢いで流れ始める。

 

『きゃあああ⁉ 麗華様ずるい!!!』

『え、待って、湊くんの私服センス良すぎない!? 骨格ストレート大優勝なんだけど!』

『梓ちゃん顔赤すぎ可愛すぎでしょwww 湊くん完全に王子様じゃん……』

『っていうかサオリちゃん距離近くない⁉ いいなー! 私たちも護衛官の特権で一ノ瀬くんとデートしたい!』

 

通知の嵐が鳴り響く中、スマホの画面を見つめる麗華、梓、サオリの三人は、それぞれ自室のベッドの上で、これまでにない極上の優越感に浸っていた。

「ふふ、ふふふ……! 見たかしら、あの生意気な留学生。男の扱いが簡単ですって? 湊さんの隣が誰に相応しいか、これで少しは身の程を知るといいわ」

「不本意だけど……一ノ瀬と並んでる私、結構お似合いなんじゃない? ……クラスの有象無象に一ノ瀬のカッコよさを見せつけるのも、悪くないわね」

 

普段は冷静な彼女たちが、聖女へのマウンティングという名目で、湊の「特別」を周囲に誇示する快感に完全に脳を焼かれていた。

 

 

だが、この弾幕を浴びて、最も致命的な一撃を喰らったのは――言うまでもなくクラリスだった。

 

「な……ななな、何ですの、この破廉恥な空間は……⁉)

 

自室で、クラリスはスマホを握りしめたまま、蒼い瞳を限界まで見開いて震えていた。 護衛官たちの盛られた文字の報告だけでも狂いそうだったのに、今、目の前にはクラスの女子全員から「羨ましい」「お似合い」と大絶賛され、三人の女たちに完全に『所有』されている湊の決定的な証拠が突きつけられている。

 

(私が、マエストロであるこの私が、一番近くで管理して差し上げていたはずなのに……! 一ノ瀬さんは私に懐いていたはずなのに……! どうしてあんな、あんな蕩けそうな甘い顔で、他の女たちを見つめていらっしゃいますの……!?)

 

タイムラインで盛り上がるクラスの女子たちの言葉、一つ一つが、クラリスのプライドと、無自覚な独占欲をズタズタに切り裂いていく。 焦りと、嫉妬と、敗北感。 聖女の仮面は完全に粉砕され、彼女の心は「大好きな男を他の女にかっさらわれた、ただの哀れで惨めな負けヒロイン」のそれへと急速に転落していった。

 

 

 

――そして、翌日の夜。一ノ瀬家のリビング。

 

「お兄様、見てください。あの泥棒猫、この写真が上がってから一言も喋らなくなっちゃったんですよ? 必死に既読無視をキープして、今頃お部屋で枕でも涙で濡らしてるんじゃないかしら。本当に滑稽ですわ」

 

サオリがクスクスと愉しそうに笑いながら、俺にその『女子限定』のトーク画面を見せてきた。 俺は「ええ、いつの間にこんな写真撮ってたの? 恥ずかしいな……」と、いかにも自分の知らないところで勝手に巻き込まれた無害な男子高校生のリアクションを取ってみせる。

「もう、サオリ。麗華さんも梓さんも、悪ノリが過ぎるよ。クラリスさんが困っちゃうじゃないか」

「もう、お兄様。知っているくせに。やはり、あの女にはこれくらいのお灸が必要だったんです」

サオリは満足そうに俺の膝に頭を乗せて甘えてくる。俺はその柔らかな髪を優しく撫でながら、彼女のスマホに映る、クラスの女子たちの羨望のコメントと、クラリスの「完全な沈黙」を、ひどく冷徹な目で見下ろした。

 

(クラスの女子たちの『一ノ瀬くんカッコいい』という無邪気な憧れ。護衛官たちの『聖女に勝った』という歪んだ優越感。そして、クラリスの『すべてを奪われた』という絶望的な焦燥……。うん、全ての駒が、俺の計算通りに配置されたね)

 

他人の携帯の画面越しに、クラスの人間関係と女の嫉妬を完全にコントロールする調律師。

俺は、獲物が完全に罠にかかったことを確信し、誰にも見せない冷酷な微笑みを暗闇の中に浮かべるのだった。

 




お読みいただきありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~(作者:やっくん。)(オリジナルファンタジー/コメディ)

目が覚めたら、美少年になっていた。▼しかも転生先は、世界征服を企む謎の組織。▼記憶はない。素性もわからない。▼それでもどうやら俺は——「リク」という、組織のメンバーから溺愛されている美少年らしい。▼「お前が一番可愛い。だから行け」▼ロリ見た目のくせに底知れない組織のボス・エルミアの一声で、▼俺は女装して男子禁制の名門魔法女学園に潜入することになった。▼この世…


総合評価:398/評価:7.07/連載:12話/更新日時:2026年07月02日(木) 10:11 小説情報

鬼畜陵辱エロゲの世界に転生したけど男女比がバグってるせいで竿役が俺しかいない(作者:乳と地位が比例する世界)(オリジナルファンタジー/コメディ)

——なら俺が竿役全員やるしかねえっ!!▼カクヨムにも投稿してます


総合評価:969/評価:7.42/連載:9話/更新日時:2026年06月29日(月) 07:21 小説情報

あべこべ貞操逆転世界のミステリアス清楚系お兄さんの性癖がやばかった話(作者:フェルナンデス)(オリジナル現代/コメディ)

大学進学のため憧れの東京に上京した山本蒼空は、アパートの契約トラブルで住む場所を失い、十歳年上の親戚、陣内楓の家に居候することになる。▼清楚で美しく、どこかミステリアスな楓との共同生活の中で、蒼空は彼に惹かれていく。だが楓には、人には言えない特殊な秘密があったーー。▼貞操逆転ものです。誰も転生していません。▼男女比は1対1です。偏っていません。▼美醜は逆転し…


総合評価:430/評価:8.69/連載:5話/更新日時:2026年06月20日(土) 17:00 小説情報

その飲みかけ致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果(作者:やっくん。)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 男女比1:4。▼ 男性の人口は女性の4分の1ほど。▼ また、この世界の約9割の女性がパートナーを持てていない。▼ そして、男女の行為は、現実と比べ何倍も刺激的なものになっている。▼ 日常にあった些細な接触――袖が触れた、視線が合った――それだけのことで、この世界の女性の心臓はものすごい速さで跳ね上がる。▼ 女性たちは、恋に飢えている。いや、正確には――恋を…


総合評価:2019/評価:7.95/連載:13話/更新日時:2026年07月10日(金) 09:54 小説情報

貞操逆転した戦乙女学園の一般男子は、エロい目で見られていると気づかない(作者:マテリ-AL)(オリジナルファンタジー/恋愛)

ラノベとかでよくある学園に男は自分一人ってシチュ、▼あれ、主人公が女の子とラッキースケベするより先に……女の子たちが主人公をエロい目で見るのでは?▼これは、そんな発想から生まれた作品。▼魔力を持つ少女たち――戦乙女が通う学園に編入した唯一の魔力持ち男子・羽坂蓮が、周囲からエロい目で見られていることにまったく気づかないまま頑張る、現代ファンタジー入り貞操逆転系…


総合評価:475/評価:8.47/短編:3話/更新日時:2026年06月16日(火) 20:18 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>