男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
週末のデートの夜。
一ノ瀬湊と龍也という、クラスの二大男子(※一人は本物の王子、もう一人は都合のいいマスコット)を意図的に排除した『2年A組・女子だけ秘密部屋』というトークグループは、かつてないほどの激震に見舞われていた。
『【写真】【写真】【写真】』
突如として、麗華のアカウントから投下された数枚の高画質画像。 そこには、薄暗い映画館のロビーで、少し困ったように微笑む湊の腕にしがみつく麗華。ショッピングモールの商品棚の死角で、湊にポップコーンをあーんと食べさせてもらっている梓(顔を真っ赤にしている)。そして、お洒落なカフェで湊の胸元にぴったりと寄り添い、勝ち誇ったような笑みを浮かべるサオリの姿が写っていた。
もちろん、これらはすべて、撮影係を代わる代わる交代しながら、マチカの死角を意識して、最も過激に見えるアングルを計算し尽くして撮られた「戦略的兵器」だ。
直後、クラスの女子たちのタイムラインが猛烈な勢いで流れ始める。
『きゃあああ⁉ 麗華様ずるい!!!』
『え、待って、湊くんの私服センス良すぎない!? 骨格ストレート大優勝なんだけど!』
『梓ちゃん顔赤すぎ可愛すぎでしょwww 湊くん完全に王子様じゃん……』
『っていうかサオリちゃん距離近くない⁉ いいなー! 私たちも護衛官の特権で一ノ瀬くんとデートしたい!』
通知の嵐が鳴り響く中、スマホの画面を見つめる麗華、梓、サオリの三人は、それぞれ自室のベッドの上で、これまでにない極上の優越感に浸っていた。
「ふふ、ふふふ……! 見たかしら、あの生意気な留学生。男の扱いが簡単ですって? 湊さんの隣が誰に相応しいか、これで少しは身の程を知るといいわ」
「不本意だけど……一ノ瀬と並んでる私、結構お似合いなんじゃない? ……クラスの有象無象に一ノ瀬のカッコよさを見せつけるのも、悪くないわね」
普段は冷静な彼女たちが、聖女へのマウンティングという名目で、湊の「特別」を周囲に誇示する快感に完全に脳を焼かれていた。
だが、この弾幕を浴びて、最も致命的な一撃を喰らったのは――言うまでもなくクラリスだった。
「な……ななな、何ですの、この破廉恥な空間は……⁉)
自室で、クラリスはスマホを握りしめたまま、蒼い瞳を限界まで見開いて震えていた。 護衛官たちの盛られた文字の報告だけでも狂いそうだったのに、今、目の前にはクラスの女子全員から「羨ましい」「お似合い」と大絶賛され、三人の女たちに完全に『所有』されている湊の決定的な証拠が突きつけられている。
(私が、マエストロであるこの私が、一番近くで管理して差し上げていたはずなのに……! 一ノ瀬さんは私に懐いていたはずなのに……! どうしてあんな、あんな蕩けそうな甘い顔で、他の女たちを見つめていらっしゃいますの……!?)
タイムラインで盛り上がるクラスの女子たちの言葉、一つ一つが、クラリスのプライドと、無自覚な独占欲をズタズタに切り裂いていく。 焦りと、嫉妬と、敗北感。 聖女の仮面は完全に粉砕され、彼女の心は「大好きな男を他の女にかっさらわれた、ただの哀れで惨めな負けヒロイン」のそれへと急速に転落していった。
――そして、翌日の夜。一ノ瀬家のリビング。
「お兄様、見てください。あの泥棒猫、この写真が上がってから一言も喋らなくなっちゃったんですよ? 必死に既読無視をキープして、今頃お部屋で枕でも涙で濡らしてるんじゃないかしら。本当に滑稽ですわ」
サオリがクスクスと愉しそうに笑いながら、俺にその『女子限定』のトーク画面を見せてきた。 俺は「ええ、いつの間にこんな写真撮ってたの? 恥ずかしいな……」と、いかにも自分の知らないところで勝手に巻き込まれた無害な男子高校生のリアクションを取ってみせる。
「もう、サオリ。麗華さんも梓さんも、悪ノリが過ぎるよ。クラリスさんが困っちゃうじゃないか」
「もう、お兄様。知っているくせに。やはり、あの女にはこれくらいのお灸が必要だったんです」
サオリは満足そうに俺の膝に頭を乗せて甘えてくる。俺はその柔らかな髪を優しく撫でながら、彼女のスマホに映る、クラスの女子たちの羨望のコメントと、クラリスの「完全な沈黙」を、ひどく冷徹な目で見下ろした。
(クラスの女子たちの『一ノ瀬くんカッコいい』という無邪気な憧れ。護衛官たちの『聖女に勝った』という歪んだ優越感。そして、クラリスの『すべてを奪われた』という絶望的な焦燥……。うん、全ての駒が、俺の計算通りに配置されたね)
他人の携帯の画面越しに、クラスの人間関係と女の嫉妬を完全にコントロールする調律師。
俺は、獲物が完全に罠にかかったことを確信し、誰にも見せない冷酷な微笑みを暗闇の中に浮かべるのだった。
お読みいただきありがとうございます