男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
「ふぅ……。最近は聖女様が来て、生徒会も学園も大忙しだったわね」
放課後。誰もいない生徒会室で、麗華はふぅと小さく息を吐きながら、俺をソファの隣へと手招きした。 机の上に綺麗に整えられた書類の束は、今回の騒動が無事に収束した何よりの証拠だ。麗華は少し気恥ずかしそうに頬を緩めながら、そっと俺の肩に自分の頭を預けてくる。
「貴方を十分に甘えさせてあげる時間も減っちゃって、本当に悪いことをしたわ……。でも、あの聖女様もどうしてかしら。最近はすっかり落ち着いていらっしゃるみたいだし、ようやく二人だけの時間が戻ってきたわね。……これからもよろしくね、湊」
そう言って俺を見上げる麗華の瞳には、包み込むような慈愛と、俺の特別であり続けたいという、ひどく甘やかな独占欲が灯っていた。
「そんなことないよ。麗華が会長として頑張っている姿、すごく格好良かった。……俺の方こそ、こうして麗華に甘えさせてもらえる時間が、一番落ち着くんだ」
俺が優しく微笑みながら彼女の細い腰を抱き寄せると、麗華は「ふふ……」と愛おしそうに吐息を漏らし、自ら俺の胸に身体を預けてきた。
「湊……」
お互いに求め合うように、自然と、だけど深く、互いの唇を塞ぐ。 サオリや梓、そして新しく檻に加わったクラリス。他の女たちがどれだけ外側で騒ごうとも、この生徒会室の静寂の中で、互いに甘え、甘えられるこの濃密な距離感だけは、誰にも譲らない。
麗華は必死に腕を俺の首に絡め、自分の存在を俺に刻み込むように、貪欲に俺の舌を求めてきた。
俺は、その熱い情動をどこまでも冷めた目で見下ろし、彼女から注がれる無上の愛を全て受け入れながら、また一つ、自分の世界が完璧に調律されたことを確信するのだった――。
マチカの聖女クラリスによる度重なる「視察」と「契約」を巡る騒動は、誰もが予想しなかった形で円満な解決を迎えた。
かつては傲慢に現地校を査定していたクラリスは、自らの視野の狭さを反省し、日本の学園文化を深く尊重するようになったのだ。
彼女は麗華率いる生徒会やクラスの女子たちとも積極的に親交を結び、今や誰もがその気高き優しさを称賛する「異国の愛すべき聖女様」として学園に溶け込んでいる。
マチカの護衛官たちも、一ノ瀬湊への警戒を解き、「彼こそ現地における最も紳士的で、治安維持に貢献する模範的な男性である」と本国へ極めて良好な報告書を送った。
学園の生徒たちは一意に胸を撫で下ろし、やっぱり冷泉院さんもクラリス様も素晴らしい、と彼女たちが紡いだ美しい友情を口々に叫んだ。
……いやー素敵。生徒会室の机に置かれた報告書を盗み見て、俺は内心笑い転げそうになった。
クラリスが周囲と健全な関係を築けるようになったのは、「自分はあの魔王の所有物になれた」という狂信的な精神安定剤を与えられたからであり、彼女が聖女として微笑んでいられるのは、放課後のあの教会で、湊に徹底的に調律され、支配される快感を知ってしまったからに他ならない。
それをこのように捻じ曲げ、ついでに俺の評価も勝手に上がる。これがおかしくなくて、何がおかしいのか。
護衛官たちも聖女のために団結したことが幸いして、良好な関係を築けているらしい。
表向きは、女たちの意地とプライドが交錯した激しい戦いが終わり、平和が戻ったように見える学園。
しかしその実は、この一件で、仕掛けた側の護衛官たちも、仕掛けられた側の聖女も、揃って一ノ瀬湊という底なしの沼に、さらに深く引きずり込まれていたのであった。
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