男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
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「――というわけですの。ですから湊さん、今日から私は貴方の『第一専属臨時護衛官』として、この学園での身の回りのお世話をさせていただきますわ」
朝の登校風景。校門前で待ち構えていたクラリスは、周囲の生徒たちが呆気に取られる中、これ以上ないほど気高き微笑みを浮かべてそう宣言した。
当然、事前に何の相談もない、完全なる事後報告である。
「ちょっと、クラリスさん⁉ 何を勝手なことを仰っていますの!湊さんの護衛は、我が生徒会とご家族であるサオリさんが統括しているはずですわ!」
「そうですわ、聖女様。現地校の規律を乱すような真似は看過できません」
血相を変えて割り込んできた麗華とサオリ。俺の背後を守る体で背中にこれ以上ないほどぴったり張り付いた梓。それに対し、クラリスは掌で口元を隠しながら、ウフフと優雅に、けれど確かに見下すような目を向けた。
「あら、これは冷泉院さんにサオリさん。誤解しないでいただきたいのだけれど、これは我がマチカの最高評議会(と私の独断)が、現地における最も紳士的な男性の安全を保証するために決定した『公式な国際協力』ですの。文句があるなら、我が国の外交部を通してくださる?」
(フフ……。放課後のあの神聖な礼拝堂で、私はすでに湊さんの所有物(奴隷)になりましたの。ならば、誰よりも近くで彼に傅くのは、所有物としての私の義務。生徒会ごときの規律など、知ったことではありませんわ)
どうせそのあたりのくだらないことを考えているのだろう。自分としては、このタイプは距離をとれないのなら放っておいた方が面倒なので、適度に餌を上げられる場所にいてもらった方が都合がいい。
「一ノ瀬。いやなんだったらいやって言いなさいな。調子に乗らせないんじゃないの?」
「うーん、確かにそうなんだけど、先日の作戦後の乱れっぷり。あれを見た後だとどうにも距離をとりにくいんだ」
「まったく、甘ちゃんなんだから」
朝から火花を散らす女たち。当の一ノ瀬湊は、彼女たちの視線の中心にいながらも、どこか他人事のように「へえ、国際協力か。大袈裟だなぁ」と困ったように微笑むだけで、その実、全ての女たちが自分の一挙手一投足に飢えている状況を冷徹に楽しんでいた。
朝の喧騒を引きずったまま始まったホームルームが終わり、一息ついたところで、湊と龍也の「護衛官」たち――サオリ、麗華、梓、そして何故か早くも手続きを済ませたクラリス達が、担任の教師に呼び出された。
教官室の奥、重苦しい空気の中で、担任は書類をトントンと机に叩きつけながら言った。
「お前たちに連絡だ。……来週の今日、『護衛対象の自宅訪問』を行うことが決定した」
「っ――⁉」
その瞬間、四人の身体が同時に硬直した。
「自宅……訪問、ですか……?」
「そうだ。男子生徒は学園においても極めて重要な『保護対象』であり、その生活環境の確認は義務だからな。今回は、クラスに男子生徒が二人いるということで龍也の護衛官側の視察と同時に行う。各自、一週間後までに男子生徒の家に失礼のないよう、完璧な準備をしておくように。以上だ」
教官室を出た瞬間、四人の少女たちの間には、先ほどのキャットファイトとは比べ物にならないほどの、刺すような緊迫感が走っていた。 自宅訪問。それはすなわち、一ノ瀬湊という「神聖なる領域」の本拠地へ、合法的に足を踏み入れる権利。否が応でもほおが緩んでしまうというもの。
(湊のプライベート空間……! 私が未来の伴侶として、彼の家庭環境を査定する絶好の機会ですわ……!)
(一ノ瀬の家……。外では見せない、彼の無防備な生活臭を、この目で拝めるというの……っ。サオリさんが流したパジャマ姿みたいな……えへへ……じゃなくて!)
(魔王の玉座……。彼が普段どんなベッドで眠り、どんな日常を過ごしているのか、その全てを私の網膜に焼き付けるチャンスですわ……! あわよくば私の自室の横に同じものを……素晴らしい)
(……この方々、ろくなこと考えていませんね。早々に始末したいです。梓さんに少々てこずっても十秒で制圧できそうですね)
それぞれが狂おしいほどの妄想とプレッシャーを抱え、三人は一週間後の決戦に向けて、動き出すのだった。
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