男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
一ノ瀬家への自宅訪問を翌日に控えた、放課後の図書室。 緊張で生きた心地がしない麗華と梓は、「テスト前の勉強会」という名目で湊を呼び出し、少しでも彼の「家の情報」を掴もうと必死に机に向かっていた。その隣には、当然のようにサオリも座っている。
麗華たちが明日を思ってガチガチになりながら参考書をめくる中、湊は自分のノートを眺めて、ふと思う。
(……うん。やっぱりテスト勉強、特にしなくても全部覚えてるな。まあ、数学とか化学、生物あたりは、前世の知識が頭の片隅に残ってるからなんだろうな)
とはいえ、形だけでも勉強しているポーズは取っておくべきか、と隣のサオリに声をかける。
「サオリも一緒に勉強する? ほら、次の範囲のプリント、わからないところは優しく教えてあげよう」
「……? お兄様も私も、勉強は必要ないと思いますが……。でも、お兄様が直々に私に教えてくださるというのでしたら、何時間でもお付き合いいたしますわ」
サオリは小首を傾げ、至極当然のようにそう返した。
「そう? じゃあ参考書の後ろの方の応用問題だけ軽く解いてみようか」
「はい! おままごとみたいで楽しいですね!」
「?」
そのまま二人そろってよどみなく解法を記述していく。俺はともかく、サオリもレベルが高い問題をこうもあっさり解いてしまうなんて、手放しに感心してしまう。
「あら、お兄様の方が先に終わりましたか。私は少し解法を思い出すのに時間がかかってしまって」
「そういいつつ、手を付け始めたのはほとんど同時じゃない。ただちょっと書くのが速かっただけさ」
「す、すごいですわね、二人とも……冷泉院の英才教育を受けてきた私ですらこの参考書のレベルは相当高いと思っていましたが……こうもあっさり解いてしまわれるとは」
「一度やったことのある問題なの? すごいスピードで解き始めてたけど」
「お兄様なら当然です。私は所詮お兄様の贋作。引き立て役にしかなりませんよ」
そんな中、少し離れた席にいた歴女系の女子生徒たちが、教科書を広げながらヒソヒソと楽しげに話している声が、静かな図書室に小さく響いた。
「ねえねえ、この古い時代の記述、知ってる? 私の推しなんだけど。昔、『一年(ひととせ)』っていう謎の天才一族がいて、和歌、漢文、算術、政治、武術、芸術……とにかく何でも一年で習得して皇族をずぶずぶに依存させてたらしいよ〜」
「へえー、そんな人がいるんだ。おとぎ話みたいね」
「ほら、
「え~わすれたよー。私歴史は全国試験で使わないしー」
女子生徒たちの軽い噂話を耳にしながら、湊は「へえ、そんな話もあるんだな」と、完全に他人事として聞き流し、手元のノートを閉じる。
そのすぐ隣で、サオリの瞳の奥に、一瞬だけ世界を冷笑するような昏い光が宿ったことなど、麗華たちはおろか、湊自身も気づくことはない。
お読みいただきありがとうございます