男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
ついに当日になった自宅訪問。湊の学校生活での動向、どのような護衛が行われているか、そして護衛官本人が湊にふさわしいか。
これは護衛官としての仕事じゃない、女としての一世一代の大勝負なのだ。
それなのに――。
「あら、皆様。わざわざご苦労様です。お兄様の『護衛官』としての任務、感服いたしますわ」
出迎えたのは、エプロン姿で、まるで「その家の若奥様」のような余裕を醸し出したサオリだった。
麗華、梓、クラリスの三人は一瞬、その光景に頬がひくひくと痙攣してしまう。自分たちが「特別なイベント」として、ガチガチに緊張しながら訪れたこの場所に、サオリは当たり前のように、家着で、スリッパで存在している。しかしここは我慢だ。こいつも曲りなりに湊の家族。一ノ瀬家としての発言権を持つ以上、今日のところは下手に出てやろう。
「お招きいただき、ありがとうございますわ。今日は先の連絡通り、一ノ瀬湊様の護衛官として報告回とさせていただきたく、まいりましたわ」
麗華が冷泉院の令嬢としての完璧な社交スマイルで挨拶を返す。しかし、サオリから帰ってきたのは慈悲深い魔王のような底冷えする微笑であった。
「ええ、知っております。よかったですね。こんな機会でなければお兄様のお家になんて一生敷居を跨げなかったでしょうに」
(こいつ、ぶん殴っていいかしら?)
サオリが優雅に微笑むのを、ただひたすらに我慢する。否、三人とも頭の中で「こいつをどう制圧してやろうか」というのを毎秒シミュレートしていた。特に実戦派の梓などは、サオリの頸椎に視線を固定している。
だが、ただで引き下がる彼女たちではない。手始めに、それぞれが用意してきた「挨拶の菓子折り」という名のブランド兵器を突きつけた。
「こちら、つまらないものですけれど。我が冷泉院家御用達の、一般には流通していない最高級の和菓子ですわ。お口に合うとよろしいのだけれど」
「私からはこれ。……湊が以前、甘すぎないものが好みだと言っていたから。老舗の銘茶と、それに合うお茶請けの特製の詰め合わせだ。……サオリさん、貴女の分も「一応」入ってるから」
「あら、皆様素晴らしいですわね。私からは、我がマチカの王室が愛用している、極上のハチミツを使った焼き菓子をお持ちしましたわ。もちろん、お義母様へのご挨拶も含めてですの」
どうだ、と言わんばかりに差し出される、財力と権力と湊への解像度を詰め込んだ菓子折りの山。しかしそれを涼しい顔で受け取る。
「まあ、ご丁寧にありがとうございます。お兄様は私の手作りが一番お好きなのですが、せっかくの頂き物ですし、お母様へのお土産として頂戴しておきますわね」
サオリはそれらを品定めするように受け取ると、くすくすと笑った。
「さあ、上がってくださいな。お兄様も、リビングでお待ちですわ」
三人の拳の力が緩まないままに湊の家へ足を踏み入れた。
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