男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした 作:晴口 丸
サオリはわざとらしく、自分の部屋から持ってきたヘアピンやサオリが学校でよく使っている手鏡をリビングの目立つ場所に配置し、「私はここに住んでいる」という事実を、無言の暴力として彼女たちに突きつけていた。
リビングでは、湊が家での無防備な姿で彼女たちを迎えた。
「みんな、遠いところありがとう。……母さんは急な仕事で遅くなるみたいだけど、サオリが全部準備してくれたから。ゆっくりしていって」
湊が微笑み、サオリが甲斐甲斐しくお茶を淹れる。湊とサオリの前に置かれたとは恋人同士が使うようなペアのマグカップ。それに対して三人の前に置かれたカップは質素なもの。思わずテーブルをひっくり返しそうな衝動を必死に押し殺す。
「麗華さん、梓さん、クラリスさん。お兄様の好みにお茶を入れましたので、お口に合うかどうか……。あ、お兄様、私の愛情のこもったクッキー、お皿に移しておきましたよ」
「ありがとう、サオリ。これ美味しいから好きなんだ」
「そんな、勿体ない言葉です」
湊がサオリの頭を軽く撫でる。その光景を見た三人の脳内には、凄まじい衝撃波が走った。
(な……なによあの阿吽の呼吸……! 私が夢想していた「新婚生活」を、この子は毎日、現実として消化しているというの⁉ やはりサオリさんは最大級の危険因子。湊を守ってあげなくちゃ!)
(湊の「好き」……。私の知らない湊の日常が、この家にはこれほどまでに溢れているの……!)
(……聖域に不法占拠者がいますわ。即刻始末しなくては。今すぐここに空爆を要請しましょう)
サオリは、三人の顔が嫉妬と絶望で歪んでいくのを見逃さず、愉悦に瞳を細めた。
「皆様の班活動でのご報告、楽しみにしておりますわ。お兄様が学園でどんな風にふるまっているように見えるのか、身内としては気になりますもの。……お兄様、後でご褒美が欲しいです」
「もう、サオリは甘えん坊だからなぁ」
「ご褒美」という単語に、三人の理性が限界を迎える。俺もここぞとばかりに無自覚なふりをして油を注いでやると、場の空気が一気に温まってきた。
(フフ……。学園でどれだけお兄様に媚を売ろうとも、結局、一日の終わりにお兄様を迎え、彼の疲れを癒やし、同じ屋根の下で眠るのは私なのです。皆様は「訪問者」、私は「家族」。この越えられない壁、存分に味わってくださいな)
サオリは、俺の隣に座り、わざと肩に自分の肩を触れさせながら、三人に向けて慈悲深い魔王の笑みを浮かべた。
「さあ、遠慮なさらず。……お兄様の『家での顔』、たっぷり観察していってくださいね?」
必死に平静を装いながらメモを取る三人。しかし、手元が震えて字になっていない。勝ち誇るサオリを眺め、紅茶を一口流し込んだ。