男女比1:10の世界で、俺は「私だけ」を作ることにした   作:晴口 丸

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 麗華は飽きさせまいと必死に色々なことを話してくれる。慌てふためくように次から次へと話題を変える様子は意中の相手を引き留めようと必死な感じが伝わってきて少し笑えて来る。

 

「麗華」

「はい! なんでしょう? あ、お茶のおかわりですか? スイーツもたくさん用意しているので、いつでも申し付けてくださいね」

「そうじゃなくてさ」

 

 そう言って、向かい合わせの椅子を動かし、麗華のすぐ隣に座る。

 

「ふふ、また赤くなってる」

「そんな、だって湊の前ですもの。こんなにドキドキするのはあなたが初めてです……」

「嬉しいな、俺もだよ。こんなに大切で、ずっとそばにいたいと思えるのは麗華だけ」

「そ、そんなこと言って、いつもはサオリさんとべたべたなさっているではありませんか」

「でも、本当の俺を知ってるのは麗華だけ。違う?」

 

 顔を赤らめ、恥ずかしそうに、また不機嫌気味に顔を背ける彼女の頬にそっと手を添え、こちらに顔を向ける。親指で形のいい唇をなぞると、彼女は肩を硬直させた。そのまま、押し付けるように、制圧するように、あるいは甘えるように口づけをする。

 

「……ぷはぁ……もう、湊はずるい……です」

「そう? お褒めにあずかり、光栄です、お嬢様」

 

 少しからかってやると彼女は呆れたように笑った。

 

「もう、調子がいいんだから」

 

 俺は体を離し、テラスの外を眺め伸びをする。

 

「本当に素晴らしい島だよ、麗華。……君に連れてきてもらえて、本当に良かった」

「湊……っ!」

 

俺の言葉に、麗華は胸がいっぱいになったように瞳を潤ませる。

 

 

 

ひとしきり二人だけの甘い時間を過ごし、太陽がオレンジ色に傾き始める頃、俺たちはようやく皆の下へと戻ってきた。

 

「おかえりなさいませ、お兄様。……ずいぶんと遅かったのですね。その泥棒猫に何か妙な魔法でもかけられたのではないかと心配いたしましたわ」

 

砂浜のパラソルの下で待っていたサオリが、俺たちがテラスから戻るなり、立ち上がりざまに俺の腰に抱きついてくる。その瞳の奥には、俺の唇や服の乱れを値踏みするような、じっとりとした嫉妬の炎が揺らめいていた。

その隣では、すっかり熱中症のようになっていた梓が、未だにバツの悪そうな顔でそっぽを向いている。

 

「ただいま、サオリ。とても素敵な案内と、美味しいお茶をご馳走になっていたんだ」

「ふん、当然ですわ。冷泉院のおもてなしに抜かりはありませんもの」

 

麗華はすっかり熱気を取り戻し、いつもの堂々とした令嬢の態度で胸を張る。梓たちの前だからか、さっきまで「湊」と呼んでいた愛らしい唇は、すんなりと「いつもの仮面」へと戻っていた。

 

「でも、一ノ瀬。少し疲れてるんじゃない? 顔が少し赤い気がするけど……」

 

その言葉に梓が、俺の顔を盗み見るようにして、心配そうに、けれどどこか恨みがましい視線を向けてくる。間接キスの一件を未だに引きずっているらしい彼女の様子に、俺はただ「大丈夫だよ、ありがとう」と優しく微笑み返してやった。

 

「――ところで、麗華様」

 

護衛官としての本能か、周囲の影が長くなってきたことに気づいた梓が、ふと表情を険しくして高台を見上げた。

 

「クラリスさんの姿が見えませんが……」

「あら? そういえば……お昼過ぎに礼拝堂へ行くと言ってから、もう何時間も経ちますわね。まだ戻られていないのかしら?」

 

麗華が首を傾げる。 西日が島を赤黒く染め上げ、高台の崖の上にそびえ立つ古い礼拝堂の影が、巨大な生き物のように長く砂浜へと伸びてきていた。昼間のまばゆい楽園の空気は急速に霧散し、潮騒の音がどこか不気味なざわめきに聞こえ始めていた。

 

「聖女モドキのことですから、神様とおしゃべりでもして悦に浸っているのでしょう。放っておけばよろしいかと思いますが」

 

サオリが興味なさげに吐き捨てるが、梓の視線は真剣そのものだった。

 

「いえ、いくらなんでも長すぎます。もうすぐ日が沈みますし、この島は冷泉院が買い取る前……明治期の古い華族の時代から、色々と妙な噂がある場所です。地理に不慣れな外国の方が一人で残るには危険すぎますわ。私が様子を見てきます」

「そうね。それじゃあ梓、お願いするわ」

 

麗華の許可を得て、梓が足早に礼拝堂へと続く石段を上り始める。 俺はその背中を見送りながら、ラッシュガードのジッパーを喉元まで上げ、静かに微笑んだ。

 

「俺も一緒に行こう。女の子を一人で行かせるのは心配だからね」

「お兄様⁉」

「な、貴方まで来る必要はないわよ! 私は護衛官だし、一人で十分……」

 

驚くサオリと、石段の途中で足を止めて慌てる梓を余所に、俺はすたすたと梓の隣に並ぶ。

 

「はは、いいじゃない。それに、俺もあの古い建物には少し興味があるんだ」

 

梓は不満げに、けれど俺が隣に来てくれたことにどこか救われたような、複雑に頬を染めた表情で唇を尖らせた。

こうして、夕闇が迫る中、俺と梓の二人は高台の礼拝堂へと向かうことになった――。

 




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