1時間に1回頭にナイフが刺さる職場ですが俺は元気です。   作:=|ニフ(゚∀゚)

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紅魔郷がリメイクされると聞いて。
時系列的には幻想入り前から。


自分不器用っすから。

 

「……来栖。貴方にこれを言うのは何度目かしら?掃除のやり残しには細心の注意を払いなさい……ってね。」

「あの……ならせめて口で説明してからナイフ投げてくれませんか?」

「あら?貴方には口で説明するよりも手っ取り早いと思うのだけれど?」

 

 そう言って冷たい目で見下ろしてくるのは、俺の先輩……いや、大先輩か。俺の務める職場——紅魔館のメイド長、十六夜咲夜さん。

 

 そしてそんな彼女に見下されている俺は、この紅魔館の新人執事……名前は来栖直史。……今俺の頭には銀のナイフが刺さっているが、断じてファッションではない。

 

 目の前の先輩のパワハラによってぶっ刺されたナイフだ。俺は恐る恐る頭に刺さったナイフへ手をやって……思いっきり引き抜く。

 

 すると血の数滴が出るまでもなく傷はふさがり、あっという間に何事もなかったかのように再生してしまう。便利な身体だが、便利すぎるのも考えものだ。なんたっておかげで毎日頭にナイフが突き刺さる生活を送っている。しかもちゃんと毎回痛い。

 

「やっぱり便利な体ね。」

「そりゃあどーも……便利って言わないでくださいよ。こっちは普通に痛いんですから。」

「便利じゃない、加減せずとも貴方の体に仕事を覚えさせられるのだから。」

「口頭での説明を!口頭での説明を願います!!」

 

 ……確かに俺はまだ執事として未熟だし不器用だし要領は悪い。最初の頃は十六夜さんもなんとか言葉で仕事を覚えさせようとしてくれていた。

 

 けどある日を境に俺の要領の悪さに見切りをつけたのか、言葉よりナイフで指導されることが多くなった。ナイフで指導って何だよ!! 幻想郷に労働基準局があれば今すぐ駆け込んでいるところだ。

 

 おまけに俺が()()()()()を持っているせいで先輩のナイフ投げは日に日に歯止めが効かなくなり、もはや一時間に一回はナイフが飛んでくる始末。居眠り門番の紅美鈴さんでも三時間に一回くらいなのに!

 

「まぁ、でも……本当に便利じゃない。どんな怪我をしてもすぐに治るんですもの。」

「だからってナイフ投げないでくださいよぉ……」

 

 そう、俺にはとある能力がある。

 『自分を保ち続けられる程度の能力』……早い話が超再生だ。

 さっきみたいに頭にナイフが刺さっても抜けばすぐに傷が癒える。貫かれても、殴られても、燃やされても、凍らされても、食われても——どれだけ壊されても身体を元通りにすることができる。

 

 痛いけどな!!痛いけどな!!!(二回目)

 お陰様で人間様からの扱いは散々なものだったが……それが今はこうして派手な屋敷で愚鈍なりに働けてるのは幸運なことだろう。

 

 さて。そんな俺に今日も咲夜さんからノルマが言い渡された。

 

「今日中に館内東棟の廊下を全て磨き上げて、来客用食器の洗浄と棚への収納、夕食の下準備の補佐、それと——」

「ちょ、ちょっと待ってください! 多くないですか!?」

「多い?」

 

 すぅ、と細められた銀色の瞳。俺は即座に口を噤んだ。言葉を飲み込む速度なら誰にも負けない自信がある。

 

「……いえ。承りました。」

「よろしい。」

 

 咲夜さんはそれだけ言って、時を止めたように静かに廊下の角を曲がって消えた。……いや実際止めてるかもしれないけどさ。

 

 俺は手元のメモ帳を見下ろす。びっしりと書き連ねたタスクの列。どう計算しても通常の人間が一人でこなせる量じゃない。

 

 でもまぁ……俺は「通常の人間」でもないか。

 それに……こんな量を任せてもらえるようになっただけ、最初よりはましになったと思うことにしよう。思うことにするだけで実際どうかは知らないけど。

 

「……よし。」

 

 誰に言うでもなく呟いて、俺はモップを手に取った。

 

―――――――

 

 

 東棟の廊下はやたらと長い。

 紅魔館というのは外観から想像するよりもずっと広い。というか空間がおかしい。廊下が増えてたり部屋の位置が変わってたりする。妖精メイドたちはそれに慣れた顔をしているが俺はまだ慣れない。

 

 磨いても磨いても廊下が続く。腕が痛い。腰も痛い。

 俺の身体は傷を癒やすことはできても疲れは普通に溜まる。超再生能力というのは万能ではなく、致命傷をなかったことにできるだけで、筋肉痛はちゃんと筋肉痛だし、眠れなければ眠れないなりに目が霞む。当たり前と言えば当たり前だ。傷が癒えるだけで体力が戻るわけじゃない。

 

「んぐぐぐ……」

 

 廊下の隅、モップの届かない角をブラシでこする。床の石材の目に入り込んだ汚れというのは中々しつこい。さっきここで一回ナイフが飛んできたのはその所為だ。

 

 ……飛んできた勢いで壁に刺さったナイフがまだそこにある。証拠品として持ち帰るべきか。いや誰に訴えるんだ。

 

 ……ていうかこういう細かい汚れって普段の掃除で誰がどうやって取ってるんだろう。妖精メイドたちはあまり細かいことを気にしない節があるし……もしかして咲夜さんが時を止めて全部一人でやってたのか? それを俺に任せようとしている?

 

「…………。」

 

 考えたら余計しんどくなってきた。気にしないことにしよう。

 でも——もしそうなら、やってやらないといけない理由が一個増えた、ということでもある。

 俺はブラシを握り直して、また石材の目を擦り始めた。

 

 

 

 

 

 食器洗浄と言うのはは地獄だった。

 来客用というのは普段使いとは別で、要するに普段使いの食器と比べ物にならないくらい繊細で高価で、扱いを一歩間違えば俺の一生分の給料が消し飛ぶやつだ。

 

 妖精メイドに聞いたら「あ、それ割ると咲夜さんが怖いやつ」と教えてくれたりもする、割る前に教えてほしかった事も何度かあった気がする……いやうん、普通に俺が悪いな。

 

 俺は一枚一枚、息を止めながら洗った。

 落とすな。割るな。傷をつけるな。

 

 ……俺こと、来栖直史というのは元々不器用な人間だ。

 それは自他ともに認めるところで、かつてはそれを指摘されるたびに苦笑いでごまかしてきた。

 でも今はごまかせない。誤魔化したくない。

 

 あるのは銀のナイフと、無言の期待と……たぶん、見極め。

 まだ使い物になるかどうかの、見極め。

 

 俺はそれが分かっている。分かった上で、ここにいる。不器用でも要領が悪くても、ここに居ることが許される限り、辞めるという選択肢は最初から持ち合わせていなかった。

 

 毎日仕事はしんどいが……居心地は今まで暮らしてきた中で一番良い場所だしな。

 

 最後の皿を棚に収めた。カチン、と小さな音がして——割れていないことを確認してから、ようやく息を吐いた。

 

 

 

 

 夕食の下準備の補佐に入った頃には腕がぷるぷるしていた。

 厨房に立つ妖精メイドたちに混じって野菜を刻む。

 

 サイズを揃えろと言われたが俺の包丁の腕前は壊滅的だ。揃わない。全然揃わない。バラバラな断面を見ながら俺は小さく舌打ちした。

 

「……もう一個……!!」

 

 刻んだものを脇に寄せて、新しい一本を手に取る。

 見本を見ながら、ゆっくりやる。雑にやって失敗するよりはましだ。

 

 妖精メイドたちはそのくらいでいいよと言ってくれるが、咲夜さんに見せたらナイフが飛んでくる。だからなんとか、丁寧完璧にやり遂げてみせる。

 

 腕は痛い。目も疲れた。それでも手は動く。

 不器用なりに、せめて手数だけは誰にも負けないようにと——それだけを頭に置きながら、俺は今日も包丁を握り続けた。

 

 こんな感じで毎日毎日不器用に必死に生きている駄目執事の話だが……

 

 それでも他人からすぐに傷の治るこの体を化け物呼ばわりされ蔑まれていたところを拾われたからには、この館の、お嬢様の、咲夜さんのお役に立てるように。

 

 俺は今日もお仕事を我武者羅に続けるのだった。




名前:来栖直史(クルス ナオシ)

未熟、不器用、要領悪いの三拍子揃った愚鈍。紅魔館の使用人の中では新人であり、よくメイド長のナイフが頭に刺さっている姿が目撃されている。

『自分を保ち続ける程度の能力』を持っており、一先ず早い話が超再生能力の持ち主である。ただし痛みは普通に残るし、どこぞの蓬莱とは違って不死ではあっても不老ではない。
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