慈恵の国、ものぐさの牧師
―−ランシア国カント村。とある教会
「牧師様、私はどのようにすれば良かったのでしょう?」
板一つ隔てた先に罪を告白する男の声。それを聴きながら大きな本を丁重に捲る。
「……聖書には、なんと?」
厳かな雰囲気を纏わせ、一語一句逃さまいと耳を傾ける男。
「……えー? あー、そうですねぇ」
板の先でこほんと小さく咳払いの音が聞こえる。
「カトリア様は……、そう、慈雨のようなものです。等しく民に恵みを下さる。それはつまり……えーと、つまり……そう、いつも見守ってくださるし、いつも救いを下さるんです」
牧師がそう言い切ると、男は涙を流し、手を合わせる。
「ありがとうございます、牧師様。私の罪はきっと赦されるのですね?」
「え? ……まあ、そう信じることが大切ですね」
「重ね重ねありがとうございます。私のこの、幼女の下着を盗んだのもきっと何かの間違いだったのでしょう」
「そうかもしれませんねー」
「ここまで丁寧に聞いてくださり、ありがとうございました」
彼は懺悔室から立ち去った。
「そうして彼はまた同じように人生を歩む。彼を止めることができるのは、もう誰もいないのかも、しれない――」
牧師はそう独り言ちる。
「ばか、そんな適当なのでみんなが納得するわけないじゃない」
そう言いながら、突然懺悔室に入ってきた、修道服に身をつつんだ人物が、牧師の後頭部を叩く。
掃除の途中だったのか、ブロンドの髪を丁寧に後ろでまとめ上げ、三角巾を被っている。
「全く、この村の人たちは頭が硬いなぁ。ああいう犯罪はある意味仕方ないと思わない? 必要悪だよ、必要悪」
そういって牧師は手をひらひらとふる。
「いい? エディ。私たちは村のみんなの為に、ひいては彼のために更生させてあげないとダメなの。それなのに何よ、それ。懺悔室に聖書以外の書物を持ち込まないって、約束したよね?」
「ありゃ? そうだったかな」
牧師が小脇に抱えているのは、有名なテレシア先生の書籍。最近の彼の愛読書だ。
「とりあえずそこから出なさい」
牧師は不服そうな顔を称えながら外にでる。
「そもそもねぇ……」
さあ説教が始まるといった瞬間、教会の扉が叩かれる。
「あら、もう遅くだというのに誰かしら?」
「誰でもいいよ、この時間が終わるなら。とりあえず、チーナが出てくれないか?」
牧師は早々に撤退の準備を始め、シスターはそれを横目に呆れつつも「はーい」と返事し、扉を開ける。
そこにいたのは大きなボストンバッグを抱えた彼女と同年代――二十代くらいの美しい金色の髪を持った美女だった。