牧師エドワードのありふれた日常   作:晴口 丸

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*「塩をふれ、塩を」

 

 

 

「さて、ボクは少し出かけてくるよ」

 

料理にいそしむ二人を眺めてお茶をすすっていた牧師が立ち上がる。

 

「エディ、おさぼりはダメよ」

「違うよ。おばばに聖女を合わせないといけないだろ? 土産として山でいくつか薬草をとってくる」

「ああ……よろしくね」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべたシスターに見送られ、牧師は麻袋に準備をして出かけて行った。

 

「おばばさま、ですか?」

「この町の薬剤師様よ。調合する薬は素晴らしいのだけど、ちょーっとクセが強い人でね」

「そうなんですかー」

「ちょっと! 焦げてる、焦げてる!」

 

 シスターは慌てて火から離したが、鮭の切り身は焼き目が真っ黒になっていた。

 

「……エディのリクエストは毒だったわよね?」

「そんなことないと思いますが?」

「ちょっと味付け濃くすればばれないわよね?」

「見てわかっちゃいます」

「あいつ色々と鈍感だから大丈夫よ」

「……そう、ですね! はい!」

 

 

「あ、裏面焦げてる。チーナにしては珍しい」

「いらんことには気づくのねー」

「そう? ありがとう」

「ばかって直接言えばいいかしら?」

「あわわ、私がやってしまいました、テッド、ごめんなさい」

「違うわ。監督として、彼女から目を離してしまった私が……」

 

 互いに慰めあう二人を前に、牧師は焦げた部分をナイフで器用に削ぎ落とし、パクリと口に運ぶ。

 

「うん、おいしいよ。ちょっと塩気が強いけど、これなら十分ごちそうだ。シルヴィ、初めての料理は大成功だよ」

「ほんとですか! やった!」

「ほんとですかぁ? 牧師様?」

「嘘はつかないさ。ほら、チーナも」

 

 シスターの前にずいと突き付けられた料理に、内心どぎまぎしつつも彼女は素知らぬ顔でフォークごと味わうように口に入れる。

 

「まあ、悪くないんじゃない?」

 

 味なんて全く分からないが、おかしい味がしないことだけはわかった。

 

 

 

*「煙の色は見なかったことにした」

 

 

 カント村の北の最果て。うっそうとした森の入り口に、その風変わりな薬局はある。

 軒先にはトカゲや怪しげな感想植物がぶら下がり、煙突からは奇妙な色の煙が立ち上がる。

 

「ねえ、エディ。私おなかが痛くなってきたかも。帰っていいかしら?」

 

 後ずさりするシスターの後ろから牧師はその両肩をつかむ。

 

「おいおい、僕一人を生贄にするつもりかい? 残念ながらそうは問屋が卸さないよ。生贄はシルヴィだけで十分さ」

「わ、私ですか⁉」

 

 逃げ出そうとする牧師をシスターが逆に捕まえる形になり、一見のぼろ屋の前で人目もはばからず本気で押し付け合いをしている。  

困惑しながらもその様子を眺める聖女の後ろで、すさまじい音を立てて扉が開いた。

 

「おい、入り口で痴話喧嘩とはいいご身分だねぇ! 結婚なら回れ右して教会の方だよ!」

 

 そこに立っていたのは背中こそ丸まっているものの、年のころなら優に八十は超えているであろう老婆だった。

 派手な色のスカーフを頭に巻き、耳には大きなイヤリング。その鋭い眼光は少しも衰えていない。

 

「げ、おばば……。やあ、元気そうだね。ほら、頼まれていた薬草だよ」

「ふん、相変わらずサボり腐ったツラしてやがるね、エド坊。親父の爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか?」

「気持ちの悪いこと言うなよ。そんなことしたら僕が完璧人間になってしまうだろう?」

「寝てるようなら気付け薬でも飲ませてやろうかい?」

「勘弁してくれ……ほら、この子が新しく村にきた聖女のシルヴィアだよ。挨拶に来たんだ」

 

 薬師のギラリとした視線が、牧師から聖女へと移る。

 聖女は王都での癖で、反射的に居住まいを正し、左手を胸に置き、右手でスカートの裾を少し上げる、王都流の挨拶をした。

 

「は、初めまして! 聖女のシルヴィア・セール・フィリップスと申します。カトリア様の御名において、この村に加護を――」

「おい、聖女」

 

 薬師は聖女の挨拶を容赦なく遮ると、その細い手首をガシッとつかみ、驚く彼女をそのまま家の中へ引きずり込んでいった。

 

 

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