*「盛るわよ!」
「ふう、いい天気ですねー」
「お、このお菓子おいしいね」
「ふふん、都会らしいお洒落なお菓子でしょう」
目の前にある出来立てのフィナンシェ。彼女自身の練習の成果もあり、形もよく、味も既製品のそれと遜色のないものとなっている。
「おいしいけど、王都ではその流行りはもう去ったかなー」
「そうなの⁉」
教会のすぐ横、都会のカフェにあこがれてシスターが作ったテラスで、三人は優雅なティータイムに洒落こんでいた。
「カールマン牧師ですか?」
そこに現れた見知らぬ顔。牧師は驚きつつも姿勢を正す。
「王都からの手紙でございます。ご確認ください」
教会正式の封筒。それをいやそうに受け取った牧師に気を配ることなく、配達員は早々に帰っていった。
「……ロテク商会を通さずに渡される手紙、ねえ」
シスターが怪訝な顔をしているのを横目に、彼は封筒をびりびりと開けた。
「何々……しょうもない挨拶なんて省けよ、紙がもったいない……えっと、事業報告を送れってことか」
「まずいわよ、エディ。いつもまともに活動してないあなたがまともな報告なんてできるわけないじゃない」
シスターが失礼なことを言うが、ぐうの音も出ないので黙って続きを待つ。
「クリス、それでどうすればいいのでしょう? 今からでもテッドに何かさせますか?」
「いえ、きっと間に合わないわ。……だから、私思ったのよ。ないなら作ればいいじゃない」
「ええ⁉ ウソをつく、ということですか?」
「ふふふ、そこが肝よ。嘘をつかない、かといって完全にほんとのことは書かない……。盛るわよ!」
「盛る、とは?」
聖女は要領を得ず、首をかしげる。
「例えばそうね……今、私たちは王都の……くっ、過去と現在を見て、教会の発展に貢献できないかを会議してるわ」
『過去』、という部分を苦々しげに語るが、妙に真剣な態度に聖女は姿勢を正す。さながら講師と生徒だ。牧師はフィナンシェを一つ口に放り込んだ。
「? でも、お茶を飲んでお菓子を食べているだけですよね?」
「そうともいうわね。でも、見方次第なのよ。エディ、貴方も何か考えなさい」
いきなり話を振られた牧師は慌てて口の中のものを紅茶で流し込む。
「そ、そうだね……。じゃあ先日僕が山で薬草を採ってきた件はどうだい?」
「あら、いいじゃない医療品調達による地域医療への貢献、とか書けそうね。それで、それはどの薬に使われるやつなの?」
「さぁ?」
「はぁ?」
「待って、そんなに怒らないで、チーナ。おばばの手にかかれば、死にかけたやつでも目が覚めるような良薬になるだろ? つまりボクは、奇跡の薬を命がけで採取してきた敬虔な牧師になるわけ」
実際牧師は多少薬学の知識があるといっても薬師にはかなわない。採ってきた薬草が最終的にどのように利用されるかを正確に知らないのも無理はないのだ。
「命がけって、いつも通り採ってきただけじゃない」
「はいはい! 私も思いつきました!」
「はいでは元気に手を挙げている、シルヴィ君!」
ノリノリで挙手する聖女を牧師が指名すると、さながら学校のように立ち上がって、意見を述べる。
「はい、テッドは私にジャムを買ってくれました! 大好きな木苺のジャムです! 美味しいです!」
「エディ? 私それ知らないわよ?」
「……いやー、このフィナンシェおいしいなぁ! 王都の最先端の流行を追ってるだけあるなぁ!」
「のどに詰めてあげようかしら?」
「それは勘弁。……そうだねぇ、書くとすれば、村に来て間もない聖女の不安を取り去るとともに、信頼関係を築いて、云々かんぬんって感じか」
「……はぁ、じゃあそれ採用で」
最終的に牧師の事業報告は以下のようになった。
『村のために悪天候(晴天)の中、命懸けで薬草を採ってくる英雄』
『聖女のことを常に気にかけ、彼女のためなら身を粉にして働く紳士』
『村のあちこちをパトロール(シスターに追い掛け回される)して、村人との信頼関係を構築』
『村にくる商人との信頼関係の構築と同時に、経済の動きを把握して研究する真摯な姿勢』
「……こいつ誰? 村にこんな人いたかなぁ?」
「私も知らないわ。ぜひとも教会にスカウトしたいわね」
「テッド、自信を持ってください! ちょっとはそういうところもあります!」
「『ちょっとは』ね。確かにそのちょっとを盛ってるわけだし」
牧師は、ははは、と乾いた笑い声をあげる。
「まあ、えっと……あはは、お代わりいる?」
シスターは擁護をあきらめたのか牧師のカップに紅茶を注いだ。
後日、カント村の報告書はなぜか問題なしとして通ってしまったらしい。