*「冷やした果物の話になると、夏は少しだけ許せる」
「暑いー」
カント村に夏が来た。教会の窓から差し込む光が陽から逃れようとする牧師の背中に容赦なく当たる。
「ほら、サボってないでしゃんとしなさい。今日の仕事は終わったから、一緒に買い出し行くわよ」
「待て、それはいけない……絶対だめだ」
「え? どうして」
真剣な表情でシスターを止める牧師に、緊張が走る。ただの買い出しだ。ほんの少しの外出だというのに、いったい何があるというのだろうか。
「ボクは聖職者だ。自ら死にに行こうとする人間は止めないといけない」
「死にに行くって、どういうこと? ただの買い出しじゃない」
「チーナは気づいていない。君は今、死にかけているんだ……この暑さで外出するなんて、絶対死ぬ」
「…………シルヴィ、こいつ外に引っ張り出すわよ」
「ええ? お外は暑いですよ⁉ 死んじゃいます!」
「あんたもか! こうなったら……エディだけでも連れてこうかしら」
「そうですね! 行ってらっしゃいませ!」
「……ふふふ」
こうして牧師の抵抗むなしく、シスターによって外へ連れていかれる。そしてシスターは玄関で聖女に呼び掛けた。
「じゃあ行ってくるわね、エディとので・え・と」
それまで見送ろうとしていた聖女ががばっと起き上がり、玄関まで走ってきた。
「何だらけているんですか、テッド? 早く行きましょう! 私は冷たい果物が食べたいです!」
「そうね。朝から川の水で冷やした野菜があるわ。帰ったらみんなで食べましょう」
「昨日もそうでした! あとにんじんは嫌いです!」
「好き嫌いしない。デザートにリンゴ切ってあげるから」
「やったぁ!」
「ほら、エディも」
「ボクは梨の方が好きだ」
「どうせそう言うと思って、梨も準備してるから」
「やったー!」
*「日傘の定員は、たぶん一人だったと思う」
照りつける太陽の下、三人は連れ立ってサイドの店に向かう。
「暑いわねー」
「だから言ったじゃないか。今日はもう帰った方がいい」
「危険な暑さですー」
「……シルヴィ、どうして傘をさしてるの? 雨は降ってないわよ?」
「え? これは日傘ですよ? 王都の女性はみんな暑い日にこうして日光を遮っているんです」
「いいなぁ。ボクも入れて」
「じゃあ私も」
三人が聖女のさした傘にぎゅうぎゅうと入る。
「ふ、二人とも……暑いです!」
暑さか恥ずかしさか。聖女は顔を真っ赤にして身を縮める。
「おお、牧師先生たちかい。こんな暑いのに元気なこって」
「やあ、サイドのおじさん。暑いからお店に避難させてもらうね」
「おう、ゆっくり見ていけや」
三人中に入って、日光から逃れたことに安堵する。
「いやー助かったよ」
牧師はそういって懐から取り出したタオルで汗をぬぐう。そこに水が入ったカップがそれぞれに渡された。
「外は暑いからな。変わらずそんな恰好をするなんて見上げた根性だ」
「ありがとうございます!」
「いいの、いいの。先生はいつもたくさん買ってくれるからね」