*「棚に並ぶのは、だいたい誰かの人生だ」
「お、この服かわいいわね」
シスターが手に取る。
「それはトーマスん家の羊毛だな」
「羊毛なんですか?」
聖女が商品を覗き込む。編み込みも丁寧で、赤みがかった染めも施されている。思わず手に取ってしまうのも納得の品だった。
「そうそう。冬は暖かいんだけどな」
店主は笑う。
「夏に着たら蒸し焼きだぞ」
「じゃあ今売る意味ないじゃないですか」
「冬まで売れ残ってるだけだ」
「お、その燻製肉いい匂いだ」
牧師が釣り下がったそれを指さし、店主に話しかける。
「お、先生は分かるか」
店主は少し嬉しそうに言った。
「それはグレッグん家のやつだ」
「酪農家の?」
「ああ。牛育てるのは上手いんだが商売が下手でな」
「だからおじさんの店に並んでるんですね」
聖女が納得する。
「そういうこと。あいつ値段付けるとき毎回安くしすぎるんだ」
「善人なんだよ」
「今の時期は移牧でこっちに来てるみたいでな。子供沢山連れてこいつをもってきおったわ。ま、子供たちにあったらよろしくって言っとったな」
「わあ、このわんちゃん可愛いですね!」
聖女が棚の奥から取り出したのは木彫りの犬。細かく意匠が凝らされており、リアルさと可愛らしさが調和している。
「それはハンク……木こりの息子のだな」
「ロバートは何をやらせてもうまいからな」
「そうね。何をやらせても……はぁ」
「あのバカはなぁ……」
「どうしました? 三人そろって微妙な顔をして」
牧師は聖女の質問に答えにくそうに頬をかく。
「ロバートは……好色家の、少女趣味で、無駄に行動力があるナルシストだ」
「最悪のカルテットね」
「流石は懺悔室常連だな。前回なんか逆にボクの懺悔を聞こうとしてたくらいのバカだよ」
「あら」
「しかも内容が毎回恋愛関係。相手は幼女だし」
「あらあら」
「しかも全部振られてる」
「なんというか、変わった方もおられるのですね」
手に持った像をそっと棚に戻した。
*「半額シールは最高」
「じゃあ、これだけ買って、ボクたちはいくよ」
「まいど」
店の中で見繕った品を三、四ほど代金と一緒に手渡す。
「ああそうだ、このまま教会に戻るってんなら、こいつらを道中のラルフとアンドレに配達してくれねえか?」
奥から持ってきたのは重そうなミルク缶が二つ。一つ四十キロはあるそれを二つ同時に軽々と持ってきた。
「牧師を働かせるなんて、高くつくよー?」
「もちろん報酬は出すさ。今日の会計、半額にしよう」
「乗った。ところでボクはあなたと違って細いから台車を借りてもいいかな?」
「かまわないぜ」
「明日には返すよ」
サイドに見送られる形で三人は店を後にする。
牧師は買ったものとミルク缶二個が入った荷台をガラガラと転がす。
「二人とも、先に帰っていいよ。ちょっと遠回りになるからね」
「なんでよ。それぐらい付き添うわ」
「いいよ別に。先帰ってご飯の支度してよ」
「なんか怪しいわね。シルヴィ、ついていくわよ」
「ええ? はい」
「……ヤバイか? ……いや、最悪シルヴィを使って……」