*「わんぱく坊主は、なかなか牧師になりきれない」
最初についたのはラルフ翁の家だった。
「おお、エドワード君か。それにクリスちゃんに聖女様も。ミルク缶? ああ、ありがとうね。上がってきなさい、お茶くらいは出そう」
「ラルフさん、気にしないで。それより困ってることはないかい? 奥さんが怖い、以外は聞いてあげるよ」
余所行きの優しい笑顔で質問すると、ラルフ翁は豪快に笑いだす。
「はっはっは! それ以外なら特にないわい!」
「ちょっとラルフ、いったいどうしたって……ああ、牧師様。ミルク缶を届けてくれたのかい? わざわざありがとうねぇ。今日は遅いし、三人とも、これ持ってきなさい」
そういって手渡されたのは、大きめに切られた食パン。
「いいのですか? ご婦人、ありがとうございます」
「いいのよ、私たちじゃこんな思いもの運べないからね。……お父様に似て、素晴らしい牧師様になって……あのわんぱく坊主がねぇ」
「ちょ、やめてくださいよ。パンありがとうございます。では私たちはこれで」
*「なめてみたらただの果汁」
ラルフ翁の家を出て次の家に向かう。
「大きいものもらっちゃいましたね……」
「気にしなくていいんだよ、こういう小さい村は助け合いなんだから」
「シルヴィも何か欲しいものがあれば、こうして手に入れることもできるわよ。私やエディなら村の人のことだいたいわかるし、そういうものがあれば相談して頂戴」
「なるほど……」
「あ、エドの坊ちゃん。今日はまたどうしたんだい、女の子二人も侍らせちゃって」
「アンドレさん。ミルク缶を届けに来たんですよ」
「いやそうだったのかい、ははは、ありがとうね。そうだ。うちで食べてくかい?」
「いえ、チーナが準備してくれていますから」
「そうかい、そうかい。もう立派な家内さんだねぇ」
「や、違います! ……まだ」
シスターが真っ赤になるのをアンドレは愉快そうに眺めた。
「それに聖女様だって。こんなきれいなお顔なんて、坊ちゃん、毎日ちゃんと眠れてる?」
「勘弁してくれよ、夜はぐっすり、昼もぐっすりに決まってるだろ」
「もう、聖女様、ごめんなさいね、うちの生臭牧師様が。女心なんてちっともわかってないんだから」
「あんたは母さんか」
その後もやり取りは続き、半刻は立ち話が行われていた。
「そういえばミルク缶だっけ、そこの軒先に置いといてくれるかい?」
「もちろんさ……じゃあ今日は帰るよ。さようなら」
「ちょっと待ちな。これ持っていきなさい」
手渡されたのは小さな瓶。中に黄色がかった透明な液体が入っている。
「なんですか、これ」
「精力剤。さっさと身を固めな」
「ええ……」
困惑しているとシスターにひったくられる。
「だめよ、こんなの持ってちゃ」
「とか言って、懐に忍ばせてるわるーいシスターさんはだれですか?」
聖女がじとーとシスターを見つめる。
「しょうがないわね。後で半分こよ」
「それで手を打ちましょう」
「最悪の半分こやめてね? ……冗談じゃないよ?」