*「消毒は少しだけしみる」
「それで? 今日は何のようだ?」
「あ、うん。それがね……」
そう言って、チェリーの後ろに隠れていた少年が姿を現す。
「おお、どうした、ベン。どこかにひっかけたか?」
そのひざは真っ赤に染まっており、かなり痛々しい様相だ。
「チーナ、救急箱とってこい。それまで傷口洗い流しとくわ」
「分かったわ」
シスターはすぐに奥へ駆け出す。
小さな村だからこそ、専門的な医療知識を持つ人間は少ない。この町では牧師と、子供たちに恐れられている調剤師のおばば、それと定期的に街に訪れてくれる医者のお爺さんくらいだ。
おばばの怖さと言ったら、牧師が出張に行くとなった日には、子供達はおばばを恐れて外出をしなくなったほど。かくいう牧師も頼りにしている反面、少し食えないおばばに苦手意識を持っていた。
そんなことを考えつつ、牧師はベンの膝を手際よく処置していく。
「……まあこんなもんか」
「うん、ありがとう、牧師様」
「ありがとうございました」
「ありがと〜先生、結婚候補なら私もいるからね〜」
ませた子供たちに手を振り見送る。ベンも皆の後ろについて元気そうに走っている。少し膝に違和感を覚えているようだが、子供の怪我だ。明日にでもそれは消えるだろう。よかった、よかった。
「……こういうところは、皆に慕われる牧師様だから困るわ」
*「歓迎にも体力がいる」
聖女の話は瞬く間に広まった。皆が一目見ようと教会に押しかけ、連日の人の入り用にはこっちもいささか引いてしまうところがあった。
「もー、牧師様。聖女様が来たなら教えてくれても良かったじゃないですか。こちらとしても大歓迎ですよ」
「そうっすねー」
「おお、なんと美しい方だ。現代に降り立った女神様だ」
「聖女様ですー」
牧師のおざなりな対応も気にかけず、ひたすらに聖女、聖女という様は……、
「……客寄せパンダ」
「……言わないでください。自分でもそんな気がするんですよ」
二人顔を合わせてため息をつく。
「二人とも、言いたいことはわかるけどあからさまに嫌そうな顔しないの」
「そうは言いますけど、クリスティーナさん。こうも連日来られるとなればため息の一つも吐きたくなりますよ」
「クリスでいいわ。まあそうね。シルヴィは一回休んできなさい」
「よしそうしようか」
牧師は立ち上がり思い切り伸びをする。相当凝り固まっていたのか二、三回繰り返して続けた。
「いい茶葉が入ってる。疲労回復の効果があるんだ。二人に振舞ってあげよう」
「何言ってんの。エディ、貴方はさんざん休憩したでしょ。外の掃除よ」
牧師はうなだれ背を向けていってしまった。その背中は心なしか小さく見えた。