牧師エドワードのありふれた日常   作:晴口 丸

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*「座っているだけというのも案外難しい」

 

 

「チーナ、楽譜の準備は?」

「出来てるわ。そっちはちゃんとお祈りの言葉暗記してきたんでしょうね?」

日曜の朝 。いつもと違い、忙しなく動き回る二人に

「私もお手伝い……」

「シルヴィはいいわよ」

「シルヴィは無理すんなって」

 

二人してシルヴィを止める。というのも今日はシルヴィアが来て初めての安息日である。

教会に人が集まって祈りを捧げる。その中で聖女の役割は、聖歌を捧げること。これは全ての聖女が毎週同じように行われる。一般に平常時、聖女が祈りを捧げるのは週でこの一回だけだと正式に決まっているのだ。

 

「でも……」

「じゃあ、今日の流れを改めて確認しておこう」

「そうね。聖女がきて初めての安息日なんだし、イレギュラーが起きても困るから」

 

シルヴィアが引き下がっても、二人はできるだけ彼女に負担をかけまいとする。

 

「あうぅ……」

 

結局シルヴィアは正装なので椅子にもたれることもできず、教会の椅子の端っこで小さくなることにした。

 

 

*「最後の音が消えるまで」

 

 

その日の教会はいつもと違い、厳かな雰囲気だった。住民は皆両手を重ねて祈りを捧げているものの、いささか身が入っているようには見えない。

皆の視線は一番前で祈りを捧げているシルヴィに向いていた。

無心で祈りを捧げる彼女はほのかに光を纏っており、まさに誰もが想像するところの「奇跡」であった。

 

「はい、皆様、楽にして下さい。これより、聖女様の聖歌奉納を執り行います」

 

 伴奏はクリスティーナが行う。これも都会のシスターの嗜みだ。

 オルガンの滑らかな演奏に沿うように、伸び伸びとした美しい歌声が教会を出て街全体に響き渡る。

 牧師は、アバンでも何度か聴いたその美しい歌声にほうとため息を漏らす。

 

 (本当に、何時までも聞いていたい歌声だ。)

 

 

*「すごいものは二回見たくなる」

 

 

 名残惜しくも、永遠とも一瞬とも思われる時間は、終わった。

 

「……これで今週のサバトは終わりです。各自ご自由にして下さい」

 

 全員が惚けているうちに、いうことだけ端的に済ませ、素早く裏に引っ込む。

 そうこうしているうちに、正気を取り戻した人から順に聖女の元へ向かった。

 

「聖女様、その素晴らしい歌、もう一度お聞かせ願えないだろうか?」

「素晴らしかったです、聖女様」

「すごーい!」

 

 口々に声をかけられ、目を回す聖女に、モップとバケツを持った牧師が駆け付け、人々を追い払う。

 

「こらこら〜、今から教会掃除するから、邪魔するなら出てけー?」

 

 皆は口々に牧師に愚痴を吐きつつ教会を後にする。しかしてそれは、和やかな雰囲気だった。

 

「全く、神を信仰してんのか、聖女を信仰してんのか、わからないね」

 

シスターは困った様子で人々を見送る。

 

「あ、ありがとうございます」

「まあうちの村の人間はこういう感じだ。悪いが慣れてくれ」

 

 聖女にとってそれは、未体験ながらどこか楽しいものだった。

 

 

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