*「真似できないものもある、それだけ」
「えっと、今から行商人様にあってワインと蠟燭を買う、であっていますよね? テッド?」
「ああそうだ。ロテク商会はカント村でいろいろなものを売ってくれたり、郵便の役をこなしてくれたりする」
キョロキョロと村のあちこちを見渡す聖女のすぐ横で、シスターから預かったお金を握りしめる牧師の顔は少し明るい。
「ワインや蝋燭といった、この村では作っていないものが多数そろってる。見るだけでも楽しいぞ」
「あ、カールマン先生。こんにちはー」
「お、アンゼ、買い出しか? えらいぞー」
いっぱいに肉やら野菜やらを詰めたかごを少しおぼつかない足取りで運ぶアンゼに牧師は少しかがんで頭をなでる。
「そうだよー。へへへ、先生のお嫁さんになる日は近いかもね」
「ばーか、アンゼはまだまだガキだよ。おにーさんみたいに酸いも甘いも嚙み分けてからプロポーズするんだよ」
「? なにそれ? クリスちゃんみたいになれってこと? それとも聖女様みたいに?」
「え?」
反射的に牧師は聖女のほうを見る。先ほどまでのキョロキョロ、ほわほわとした雰囲気はなく、どこか真剣なまなざしで、牧師とアンゼの会話に耳を傾けていた。
瞬間、牧師はそこはかとなく嫌な予感がした。そして猛烈な速度で頭を回転させる。そしてこの場を切り抜ける最適解をはじき出した。
「ううん、それは違うよ、アンゼ。アンゼはアンゼらしくするんだ。カトリア様の教えにだってあるだろう? 『自ら自分らしく正しくあれ』ってさ。人のいいところを見て真似をするのはいいことだ。でもね、アンゼはアンゼが感じるままに、自分でいるべきなんだよ。チーナだってシルヴィだって。ボクだってそうだよ」
「なんか難しくてわかんないよ」
アンゼはこれでもかというくらい首を曲げる。牧師は小さく微笑み、ぽんと頭をたたいた。
「アンゼはみんなといると楽しいかい?」
「うん! ルートはちょっと強引だけど、一緒にいると楽しいことばかりだよ! チェリーはすごく優しいし、みんな頼りにしてる。ベンはちょっと泣き虫だけど、びっくりするくらい色々知ってる。みんな楽しい!」
楽しそうに語る様子に聖女も顔をほころばせた。村の人も通りすがりに笑みをこぼす。この町の温かい空気に、聖女はすっかり魅了されていた。
「そうか。アンゼだってみんなと違って料理ができるし、裁縫だってできるんだろう? みんないいところがあるけど、それはそれぞれ違う。そういうところがいいから、自分らしさを大切にしなさいってこと」
「そっか! ありがとう先生!」
アンゼは合点がいって、嬉しそうに飛び跳ね、当初の目的も忘れて自らの家へ走り去っていった。
「いや、カールマン先生。素晴らしいお話でした」
「ほんとですね。うちの子供にも聞かせたかったわ」
「流石は、御父上の遺志を継いだ高潔な牧師様だなぁ」
村人たちは口々に牧師を持ち上げるが、彼は特段反応した様子はなく、貼り付けたような笑みを浮かべたまま軽く会釈をしてその場を後にした。