*「これから覚えることが増えていく」
買い出しを終えた二人が協会に戻るとエプロン姿のシスターが出迎えた。ちょうど付け合わせの下準備が終わったところで、持て余していたところだった。
「おかえりなさい。寄り道せずに買ってきた?」
「もちろんさ。ワインと蝋燭。それとほら、サイドの店で立派な鮭が手に入ったよ」
「あらいい鮭じゃない。じゃあ今夜はこれをムニエルにしましょうか」
シスターは満足そうに取り出した品々を受け取る。聖女はそれを尊敬のまなざしで見つめる。
「お料理ができるなんて、クリスはすごいです! 私、王都の学園ではお祈りの訓練や聖女としてのお勉強しかやってこなかったから……」
少しうつむく聖女にシスターは明るい声でその肩をたたく。
「いいのよ。でも、これからは私がビシバシ指導していくからね。エディみたいなダメ人間になっちゃダメよ」
「うわ、突然こっちを刺してきた。ひどいや」
「事実よ。シルヴィ、厨房に入って。早速手伝ってもらうわよ」
「はい!」
聖女は元気に厨房に入っていく。その様子を二人見送って笑みを浮かべる。
「あの子、ほんとにいい子ね。……嫌われるようなことしちゃダメよ?」
「お母さんかよ。なんにせよ、二人がうまくやってくれてよかった」
「クリス? 早く来てください」
厨房からひょっこり顔を出す彼女に「今行くわ」と返事をしてシスターが歩き出す。
*「サイズの合わないエプロンは少し引きずる」
「そういえば、シルヴィはエプロン持ってる? そのままだと服が汚れちゃうぞ」
「え? そういえば持っていません……どうしましょう」
「待ってろ、たしか親父のやつがあったと思う」
牧師が持ってきた男物のエプロンを着た聖女は、満足そうに笑った。
「使い古したやつで悪いな。今度新しいのを一緒に買いに行こうか」
「いえ、私はこれでいいです。それよりどうです? 似合ってますか?」
「ああ、様になったな」
「そうね。ちょっとサイズがあってないからあとで調整しておきましょうか」
確かに聖女が右に左に動くたびに床に生地が擦れてしまっている。
「そうだね、これはこれで可愛らしいけど」
「えへへ」
「……私はどう?」
シスターが聖女の横で見せつけるように一回転する。牧師は困惑しつつも頷いて返事をする。
「うん、もちろんいつも通り様になってるよ。今日もよろしくね」
「ごじゅう……三点」
「何が?」
「何かが」
「ふふ、テッドはまだまだお勉強が必要ですね」
「だよねー」
困り果てた牧師の前で二人は愉快そうに笑いあっていた。