妖炎のアベンジャー   作:川井 アザト

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1話

 

あの日見た炎を、僕は忘れない。

 

全てを奪われたあの日、僕の運命は変わってしまった。

 

愛する人も、土地も、何もかもを奪われた。

 

僕は忘れない。

 

あの日見た〈蛇〉の目を。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

開照歴1101年、照倭ノ国、天京。

 

この国の中心の都市である天京の街の一角。

 

そこに位置する遊郭の中の一つ、〈翡翠桃(ひすいとう)〉という店で、僕は働いている。

 

僕の名前は、慶(けい)。

 

貧しい村の出身の自分は、とある理由から、この店に引き取られ、己の体を売る仕事をしている。

 

奴隷商からこの店の主人に引き取られ、そのお眼鏡に叶った僕は、女物の化粧をつけ、花魁のような着物を着せられ、物好きな男たちの相手をしている毎日。

 

そんな日々を、僕は送っている。

 

今日も、一人の男を相手にし、はだけた衣装と髪を直しているところだった。

 

慶「はぁ・・・・・」

 

僕はため息をつく。

 

正直、この仕事はつらい。

 

生きていくためとはいえ、獣のような性欲を振りかざす男たちの世話をするのは、骨が折れる。

 

今すぐにでも、逃げ出したい気分だ。

 

慶「つらいなぁ・・・僕、どうなるんだろうな・・・」

 

度重なる性の交わりに、嫌気がさしている自分がいる。

 

仮に、ここを抜けたとしても、行くあてなんて無い。

 

自分の運命を呪うしかなかった。

 

「なに暗い顔してんだよ。慶。」

 

ふと、部屋の入り口から声がした。

 

慶「冷路・・・・」

 

彼の名前は、冷路(れいじ)。

 

この店で、僕と同じく、体を売って仕事をしている同僚の一人だ。

 

僕の一つ年上の先輩で、僕がこの店に来たばかりの頃からの付き合いだ。

 

冷路「また、派手にやられたみたいだな・・・・」

 

慶「うん・・・・」

 

冷路は、そっと僕のそばに来て、はだけた衣装や髪を直す手伝いをしてくれた。

 

冷路「お前は美人だからなぁ・・・ったく、ちったあ丁重に扱えよな、男どもも・・・」

 

冷路いわく、僕はこの店で、一二を争うくらいの美少年だという。

 

僕にそんな自覚はないが、物好きな客は、大層な金を僕に払って遊びに来てるらしい。

 

冷路「よし。終わり。直ったぜ。」

 

冷路は、僕の身だしなみを整え終わると、僕の横にあぐらをかいて座った。

 

彼の赤髪が、窓の外の提灯に照らされ、艶めいていた。

 

冷路「店の旦那から言伝だ。今日、もう一人だけ、お前に相手してほしい客がいるんだと。」

 

慶「え!?そんなの、僕の身がもたないって・・・!」

 

冷路「わかってるよ。だから、俺も一緒に相手することになってる。2人同時に遊ぶなんざ、景気の良い客じゃねえか。」

 

遊郭の中で、2人指名して遊べるのは、相当な太客で、金払いが良いか、〈天府〉の役人くらいのものだ。

 

この国の〈天府〉と呼ばれる、統治機関に属する役人は、階級の違いはあるものの、そこそこの権力を持っている。

 

商家から押し借りができたり、平民への無礼討ちもお構い無しの、おっかない連中だ。

 

そんな奴らの相手をすることが無いように祈ってきたが、ついに年貢の納め時が来たらしい。

 

冷路「そんな顔すんなって。まだ天府の役人って決まったわけじゃないし、これから来る客は、旦那いわく、かなりの良い男らしいぜ。」

 

慶「そんなの関係ないよ・・・はぁ・・・ついに僕も終わりか・・・」

 

遊郭で、身体が使い物にならなくなれば、つまみ出されるか、犬のエサにされるかの、おぞましい未来が待っている。

 

この世界に入ってから覚悟はしてたが、ついに僕にも、その順番が回ってきたみたいだ。

 

冷路「慶。」

 

慶「なに?」

 

冷路は、まっすぐに僕の瞳を見つめながら、肩に手を置く。

 

冷路「お前を畜生のエサになんかさせねぇ。いつでも俺がそばにいてやる。いいな?」

 

慶「冷路・・・・」

 

冷路は、面倒見の良い奴だ。

 

僕がここに来てからも、冷路には特に、世話を焼いてもらった。

 

その恩は、僕の中にいつだって刻まれている。

 

慶「わかった・・・・ありがとう、冷路。君がいなかったら、僕はとうの昔に壊れてたよ。」

 

冷路「お前をそうさせないために、俺がいるんだ。俺のことも信じてくれるか?」

 

慶「もちろんだよ。」

 

冷路の気持ちを僕は受け取り、互いに見つめ合い、結束を深めた。

 

僕らは、互いに信じ合い、次に来る客を、部屋の中で待つことにした。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

しばらくの時が過ぎ、いよいよ、その瞬間がやってきた。

 

冷路「来るぞ・・・」

 

階段を上がってくる音が聞こえる。

 

僕と冷路は、客を迎えるために、正座で座り、頭を下げる。

 

歩く音の主は、部屋の前まで来て、戸を静かに開け、僕らの目の前に立った。

 

「苦しくないぞ。面をあげてくれ。」

 

僕らに掛けられた男の声は、しっかりとした、腹の据わった声だった。

 

声の主にそう言われ、僕たちは頭を上げた。

 

頭を上げた先にいたのは、カミシモを着て、腰に刀を挿した武士。

 

〈天府〉の役人だった。

 

「よっこらせっと」

 

役人の男は、僕たちの前に座った。

 

冷路「ようこそいらっしゃいました。お役人様。今日は、俺たち2人が、あなた様のお相手を致します。俺の名前は、冷路といいます。」

 

慶「僕は、慶といいます。ようこそおいでくださいました。」

 

僕たちは、目の前の役人の男に、軽く自己紹介をした。

 

客を迎える時の、最低限の礼儀作法だ。

 

「冷路に慶か。よろしくな。俺は、将之進(しょうのしん)だ。」

 

将之進と名乗る男は、役人の身分でありながら、僕たちのような人間に対して、友好的に接してきた。 

 

普通の客や役人には、ありえないことだ。

 

将之進「冷路に慶。今夜は、お前たちに会いにきた。お前たち二人は、この遊郭でも評判の美少年と聞く。これからの時間が楽しみだ。」

 

慶「もったいないお言葉です。」

 

冷路「その名誉に背くことのないよう、あなた様のご期待に沿ってみせましょう。」

 

将之進「ああ。期待している。」

 

天府の役人、将之進の声は、どこか安心するような雰囲気を醸し出していた。

 

僕たちの想像していた天府の役人とはかけ離れた印象の、将之進は、信頼できそうな人物に見えた。

 

将之進「んじゃ、さっそくだが・・・・・・・・・許せ。」

 

そんな希望を抱いた直後、全身に悪寒が走った。

 

目の前の将之進から、鬼氣にも勝る、殺気を感じた。

 

慶「冷路!!」

 

冷路「慶!!」

 

僕たちは、咄嗟に後ろへと飛び上がり、将之進の殺気を回避した。

 

殺気を回避した後、僕たちのいたところに置かれていたのは、刀の白刃だった。

 

冷路「てめぇ!!なんのつもりだ!!」

 

いきなりのことに、冷路は、接客の姿勢を忘れ、激昂していた。

 

将之進「・・・・・・やはりな。お前たちのその目・・・・」

 

将之進が、僕たちの瞳をまっすぐと見つめた。

 

慶「ッ・・・!やばい!冷路!目が!」

 

冷路「クソッ!こんな時に・・・!」

 

僕たちの目は、青く光っている。

 

そんな僕たちの目を見て、将之進は言い放つ。

 

将之進「〈半妖〉だな。」

 

〈半妖〉。

 

それは、あやかしの血を受け継いだ人間達の総称。

 

人間と人間の間に生まれた子の中に、何百年もの間に混じった遺伝から覚醒し、稀にこの世に生まれ落ちる存在。

 

この照倭ノ国には、悪鬼百鬼のあやかしたちが、跋扈している。

 

あやかしたちの性質は千差万別で、この国の内部の脅威であり、僕たちの身近にある生き物たちだった。

 

僕たち2人も、そんなあやかし達の血を引く人間に生まれた。

 

僕と冷路が半妖であることは、お互いにしか知らないことだ。

 

この店での、2人だけの秘密であり、引き取られてからの3年間、一度も片鱗を見せたことはなかった。

 

慶「冷路!!どうしよう!!」

 

冷路「見られたからには仕方ねぇ・・・!慶!ここを離れて・・・!」

 

将之進「待ってくれ!二人とも!」

 

将之進は、僕たちを諌めた。

 

そう言った彼は、刀を鞘に納め、姿勢を正座に正した。

 

将之進「悪かった。二人とも。どうか落ち着いてくれ。」

 

彼は、僕たちに謝罪し、刀を腰から抜き、自分の体の右側へと置いた。

 

もう僕たちに、危害を加えないという意思表示だろう。

 

僕たちは、彼のその姿勢を見て、そっと心が落ち着いていくのが感じられた。

 

冷路の目も、半妖の目から人間の目に戻っていた。

 

冷路「・・・・・・・おいオッサン。あんたナニモンだ?」

 

冷路は、将之進に対して、疑るような目と声色で聞いた。

 

将之進は、冷路からの質問に対して、こう答えた。

 

将之進「俺は、吾妻 将之進。天府直轄、〈妖伐隊〉の隊長だ。」

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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