ーーーあなたにとってヤンデレとは 作:やんときはやるぜ、俺は
数多のヤンデレ作品へ、見ててください、私からのレクイエムです。
熱に浮かされるほど何か夢中になれる人は素晴らしいと思う。同時に羨ましいと、そう感じる。
けど、ボクにだって夢中になれる事がある、寝ることだ。
夢の中では何でも出来る、空を飛ぶことも、目からビームを撃つことだって出来る。
中には夢は動かせないと言う人もいるかも知れないが、ボクは例外に当たるのだろう。
夢を夢と自覚したまま夢の内容を好きに変えられる。もう一つの現実。
ここさえあればボクは何もいらない…!
「春…いい加減起きてくださいっ!!」
…が、現実はどうもそうはいかない。
剣道部が練習で出すような大きな声を耳元で言われた ボクは心地良い夢から追いやられた、知恵のリンゴを食べてエデンから追放されたアダムとイヴのように。
そんな邪智暴虐な幼馴染にボクはたまらず抗議の視線を向ける、呆れたような幼馴染…桜の顔が見える、肩にかかるほどの淡い桃色、その下から覗く髪色と同じ桃色の瞳は何時もより冷たく見えた、そして何より相変わらず端正な顔立ち、逆に苛ついてきた。
「うるっ…さい!朝からなんて声を出すんだ、近所迷惑だぞ」
「さっきから三度も起こそうとしたのに起きなかったので奥の手を使っただけです、春はお寝坊ですからね」
「生理現象だよ、二度寝は人類を備わってる正常な機能なの、邪魔するならいくら幼馴染でも絶許」
「いい加減な事を言う前に顔を洗ってきたほうが良いですよ、また寝癖付いたまま学校に行く気ですか?」
「それがボクのチャームポイントみたいなものだよ」
「私が気にするので今すぐ直してください、さもなくばまたアレやりますよ」
「…分かった」
アレとは写真撮影のことだ、ボクに女の服を着せて何時間も撮影会をする、ボクの体力じゃ地獄のモデル体験になるだろう。
ため息を付いて名残惜しいベットから降りる。
ここ最近は桜が生徒会で忙しいからと朝に起こしに来る事がなかったから油断していた。
霞ヶ谷桜(かすがや さくら)、眉目秀麗で勉強もスポーツも出来るうえに生徒会長とかいうチート人間だ。ボクも転生したらあんな感じのチートでふわふわ生きたい。
まぁ所謂腐れ縁と言うやつで、そこまでの親密度を稼げる幼馴染クエストをこなした訳では無いが、家が近くにあるからと起こしに来てくれるのだ、ここだけの話わりと迷惑である。
特に寝ることが趣味のボクにとっては天敵のような物なのでこの幼馴染をどうにかやり返したいが桜は生徒会で忙しいのでその機会を測りかけている、いつか何倍にもして返してやるんだ…(クズ)
「ご飯用意しておいたので食べておいてくださいね、それでは私は生徒会があるので早めに行きます」
「いってラー」
玄関の扉が開き、桜が家を出た。
空いた玄関のドアからは淡い桜の花弁と心地良い風が入り込む。
もう春か。
また気が付いたら一年が経っていた、思いの外時間の流れが早く感じる。
1週間は遅いのに一年はあっという間だ。
ボクはその間、何か出来たのだろうか?
……なんて、少しセンチな気分になってしまった。
高校生、少しだけ将来を見据える時期だからだろうか。
らしくもない焦りをしてしまった。
「…今からでも遅くないのかな」
そうひとりごちた今日この頃、ボクは遅れて学校に向かうことになった、遅刻したことがバレた桜の顔をその日のボクは忘れることはなかった。
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遠くからぼんやりと音のような物が聞こえる。
規則的、あるいは不規則的なメロディーを描く音。
あれは、何だろうとボクは好奇心にそれに近付いた。
その瞬間、
ーーーー爆音。
この世の物とは思えない爆音にボクは目を覚ました。
その衝撃たるや、ボクの顔色は真っ青、青い春ならぬ青春である。
一体誰だこんな音を鳴らしたのは!クレームをいれてやる!!
…と立ち上がろうすると、そこは教室だったことを思い出す、どうやら放課後まで寝ていたらしい。
ならこの音は吹奏楽部のやつか、音が出ない水槽学部に名前を変更してほしい。
とはいえ放課後はボクにとって新鮮だ、高校2年目にして初めての放課後なため何もかもが新鮮に見えるし聞こえる。
聞こえすぎて耳が痛いのは御愛嬌ではないが、そう納得しないと許せないことがこの世には存在する。
それに、ボクにはないような熱を感じる。
皆がみんな必死で作り上げている青春の一部のような物が悪いものとは思えなかった。
新鮮で言えば例えばほら、野球部のカコンというバットで玉を撃つ音だったり…
ゴッ!!(空いた窓から飛んでくる野球ボールを顔面で受け止める音)
っっっっ!?(痛すぎてム〇カ大佐になりながら保健室に向かおうとする音)
ドタタタタタタタタ(階段まで転がったボールに気が付かずに滑り落ちる音)
ふぐにゅぅ…(勢い余ってドアにぶつかって気絶する音)
…あれ、いつの間に寝てたんだろ。
そういえばボク…野球ボールのゴミカスが顔に当たって…というかこのボクの後頭部から伝わる柔らかくて程よくムチムチの肉質的な枕は一体…?
「おはよう、目が覚めた?」
鈴を転がすような声、
優しそうな雰囲気が声伝わってくるような柔らかい声に、重いまぶたを開けて見上げるとデッカイお胸があった、天井が半分も見えない。
「えっと…」
少し起き上がり周りを見る、見た感じなんの変哲もない学校の一室のようだ。
「ここは文芸部の部室よ、何かデカいものがドアにぶつかった、みたいな音が聞こえたから気になって見てみたら貴方が倒れていたから」
抹茶色のショートボブに同じ色のタレ目のお姉さん。
何というか母性が溢れてそうな人だな。
朗らかに笑うその人は文芸部に所属しているというより手芸部に居そうだな
「とりあえずボクを助けてくれたんですね、ありがとうございます。ボクは2年Bクラスの新張春です」
「私は3年Cクラスの月野穂波(つきの ほなみ)、文芸部の部員よ」
「あ、先輩なんですね。それで、何でボクを膝枕されているんですか?」
「なんというか、何か可哀想な事があったんだろうなって思ってつい、ね。それに可愛かったから」
「うげっ」
「あら、ごめんなさいね?カワイイは余計だったかしら」
「あ、いえ…」
ボクの中ではカワイイって言葉は割とトラウマだ、主に桜のせいで。
カワイイ…カワイイですよ春くん…
「うにゃっあ〜〜!!」
「大丈夫?まだ痛いのね…よしよし、痛くないですよ」
頭に手を置かれよしよしと撫でられる。
子供がお母さんにされるみたいな、何処か落ち着く心地良さ。最高級の寝心地…文句の付けようがない星5枕だぁ…後少しで寝れそう…
「あ、所でなんだけど、文芸部に興味あるかしら?」
文芸部…?文芸部かぁ、
「え?無いですけど…」
「無いのね」
「はい、全く、これっぽっちもありません」
「…」
「…」
「えっとぅ、その文芸部って部員少ないのがあるあるじゃない?」
「そうなんですか?」
「そうなの、それで実は助けて欲しい事があって…」
「うん」
「部員になってくれないかしら?」
両手の人差し指を胸の前でツンツンとしながら、そう言ってくる。
だけど
「…それ膝枕しながら聞くことですか?」
「…確かにそうね」
あの太もも枕を手放すのは惜しいが、助けてくれた人が話をするというのに膝枕は失礼だろう。
というか雰囲気からして天然なのか?あの発育ボディで天然なのは、色々青少年に危なそうな人だ。
ひとまずしっかりと椅子に座って話を伺うことにした。
「というわけで生徒会から廃部命令が出てしまいそうなのよね…」
「えぇ…部長のせいじゃん」
話をまとめると、月野さんともう一人の部長は文芸部を作ったが良いものの、どうやらその部長、かなり気難しいというか、ひと言で表すなら変人らしい。
そのせいでせっかく入りかけた部員もいなくなるという、なんだそれ。
「というか、その部長さんは一体…」
「私を呼んだかい?」
文芸部の部室、そのドアが開けられる。
陶器のような白い肌に整った顔立ち、部室に立ち入る風が長い黒髪を棚引かせている。
ドアに手をついて寄りかかり足を組むながら、その人はそう言った、キメ顔で。
漂う変人感にボクはすぐ逃げたくなったが、必死な顔でボクの腕をつかんでくる月野さんによってそれは阻まれてしまった。
「部長、なんで呼んでもないのに来るのかしら…」
月野さんが少し辛辣気味にそう言った。
「新部員が私を呼ぶ声がしたからね…」
「もしかして文芸部の部長さんですか?」
「あぁそうさ、私は橘凛(たちばな りん)という」
「あぁえっとボクは…「所でなんだけど」
「君はヤンデレは好きかい…?」
「…はい?」
なんだこの人、普通人の自己紹介遮ってまでそんなこと聞いてくるか…?
「正直に答えてほしい、ここでは全ての発言が許されるから心の赴くままに質問に答えてほしい」
それって無法地帯じゃん。
「…そもそもヤンデレってなんですか?」
「ヤンデレとは、まぁ簡単に言ってしまえば愛が重い人のことを指すんだ、病んでいるほどその人にデレてる、略してヤンデレなんだ」
「はぁ」
「しかしね、ヤンデレは描くのが難しいんだ、ただ愛が重ければ良いってもんじゃない、リアリティが無いんだよ!私はヤンデレを見たことがないからね」
「でも創作ってそういうものじゃ」
「確かに一理あるが、私はREALの愛が重いヤンデレを見て、それを書きたい!!そうしたい!!!」
「変態だ…」
「そこでだ、君に聞きたい、君はヤンデレが好きかい?」
「別に好きではないですよ、というか今知ったばかりですし」
「君はヤンデレが好きかい?」
「え、YESって答えないと次に進めないやつですかこれ」
「あの部長、流石にいい加減にしないと私、怒りますよ、この子はさっきまで頭を痛めていたんですからね、それなのにそこまで詰め寄るのは可哀想です!」
ぷんすかといった擬音が付きそうなこの人がこの部の癒しと分かった瞬間である。怒ってる感じが一切伝わらず、頬を膨らませて眉を潜める可愛い人がいた。
「…なら質問を変えよう、君は愛が重い人に好かれないと思ったことがあるかい?」
「好かれたい…?」
「そうだ、いや、相手の意識の全てが自分に向いているの感じるほど執着や愛情を向けられたいといった方がいいかな、それほどの愛を感じたいと思わないかい?」
ーードクンっ、と心臓が一際鼓動するのを感じた。
ボクは昔からなにかに執着をしたことがない。
物も人も、けど夢を見るのは好きだ、何故ならーーー。
けどもし、そんな僕がもし、仮に誰かからそれほどの執着を、熱を感じることが出来たなら。
ボクはボクを生きていいと思えるのだろうか。
もしそう思えるのなら、
「それは…少し良いかもしれませんね」
「ほぉ、いい顔をするように成ったな、ようこそ、文芸部へ、歓迎するよ」
ーーー新張春くん
気が付けば、ボクは入部届を書いていて
その時見た橘さんの顔は、まるで契約をする悪魔のような顔に見えた。
「ちなみに何で橘さんはボクの名前分かったんですか?名乗って無かったですよね?」
「全生徒の名前と顔と性格は覚えているからね」
「…こわ」