異能『実力隠し』の転生者、実力を隠していると認識させなければならず警戒される   作:忍法実力隠し

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1 実力を隠す転生者と振り回される異能バトル世界

 異能バトル漫画には、それぞれ独自の「ルール」みたいなものがある場合がある。

 それは制約と誓約や術式の開示といった、能力の出力を向上させる目的で用いられることが多い。

 俺が転生した世界におけるルールは至ってシンプル。

 

 「異能の認識」。

 それは主に、自分が自分の異能はこういうものであると強く「認識」することで発生する。

 異能バトルによくあるイメージ力が出力につながるというアレだ。

 これ自体はよくあるものだが、もう一つ。

 ()()()()()()()()ことでも、異能の出力を向上させることができるのがこの世界の特徴だ。

 要するに、「こいつは炎能力者である」と周囲が認識していればしているほど、その炎能力者の出力は上昇する。

 

 これはこの世界の異能が、人類の集合無意識から発生したものであるから……とかなんかそれっぽい理屈はあるんだが。

 まぁ、それ自体は置いておこう。

 問題は、転生した俺の異能が――「実力隠し」であったこと。

 本来はもっとそれっぽい四文字の名前があるんだけど、この世界だとわかりやすさ重視で能力を端的に一言で表すことが多い。

 そして俺の場合、端的に表すと「実力隠し」になるのだ。

 

 何じゃそりゃ、と思うかもしれないが、正直俺もそう思う。

 大事なのは能力の特性そのものではなく、俺が周囲に実力を隠していると思わせないと行けないこと。

 これ自体はまぁ、前世で培ったオタク知識により、それっぽく振る舞うことには成功していると思う。

 問題は――俺の実力隠しムーブに対し、想定以上に周囲が警戒していることかもしれないな。

 

 

 ■

 

 

 この日の俺の仕事は、発生した想念獣(そうねんじゅう)の討伐。

 想念獣が何かって言うと、まぁ色々入り組んだ存在だ。

 ただめちゃくちゃざっくり言うとファンタジー世界における魔物みたいなもので、こいつを討伐すると報酬が出る。

 それを目当てに、俺はある想念獣を追っていた。

 

 名は隠伏カゲロウ。

 討伐難易度は三級、街一つに甚大な規模をもたらしかねない危険度の想念獣だ。

 どういう魔物かというと――本当にマジで名前通り。

 姿を隠し、夜になると人を襲う。

 正体不明の怪物だ。

 

 すでに結構な人間が被害にあっているため、街に人の気配はほとんどない。

 俺がビルの上を飛び跳ねて移動する少年漫画ムーブをしても、気にするものはいないだろう。

 さて、現在の状況だが――

 

「――追い詰めたぞ」

 

 俺はすでに隠伏カゲロウに王手をかけていた。

 相手は”姿を見られると弱体化する”という特性があり、その姿を俺が見つけた時点で危険度はだいぶ下がっている。

 俺の異能も”能力の本質を知られると弱体化する”という特性があるので、なんとなく親近感。

 とはいえ、油断は禁物。

 眼の前の二メートル弱ある人と同じくらいの大きさのウスバカゲロウを討伐しなければ、仕事は終わらない。

 問題の隠伏カゲロウは、ビルの頂上のフェンス際に追い詰められ、俺を睨んでいた。

 しかしここで、ふと違和感。

 ――こいつに焦りがそこまで見られない。

 想念獣は知能が高く、感情を有しているものも多い。

 本気で追い詰められていれば、それが態度に現れるはずだ。

 そうではないということは――

 

「……こいつ、隠し玉を持っていたか」

 

 途端、噴出する”想力(そうりょく)”。

 俺達異能者や、想念獣等が利用するエネルギーだ。

 おそらくこいつは、自身が認識されることでも発動する能力を持っていたのだろう。

 それこそが、こいつにとっては本命の能力だったのであれば――この状況は完全に向こうの手のひらの上。

 ただそれは俺にとって――

 

「――わるいな、そういう隠し玉は俺にとって、ただのカモだ」

 

 

 気がつけば、隠伏カゲロウは自身の影から伸びた黒い刃によって串刺しにされていた。

 

 

 ここにきて、初めて驚愕してみせるカゲロウ。

 しかしもう遅い。

 想念獣の核を貫いた一撃は、またたく間にカゲロウを消滅させた。

 これは、俺の異能の特性の一つ。

 相手が勝利を確信して能力を発動した際に、その異能の発動よりも早く発動する異能。

 正確にいうと相手が「俺の底が見えた」と認識した際に発動できる能力だ。

 まさに、本当の実力を隠していたからできることだと言えるだろう。

 ただ感情のある想念獣以外だとあんまり有効打にならないんだよなぁ、これ。

 失敗すると本当に底が見えたことになっちゃうし。

 全体的に、油断している雑魚専能力といった感じ。

 とはいえ、雰囲気づくりにはぴったりだ。

 

 

「――葉隠リキト!」

 

 

 その時、俺の名を呼びながら一人の少女が背後に現れる。

 片腕に自身の身長並にデカい――といっても本人は小柄だが――ゴツゴツした手甲を纏った少女。

 そんな少女が、俺のカゲロウ撃破の場に現れた。

 ちょうど、カゲロウを串刺しにして屠るところまで目撃していることだろう。

 

「一体なんのつもり!? 貴方が三級の想念獣相手にわざわざ出張るなんて、企みがあるとしか思えない!」

「……さてね」

 

 俺は、できるだけ大げさに肩をすくめて冷静に返す。

 こういう動作が、謎の強者には必要なのだ。

 ――なお、実際はこの隠伏カゲロウが俺の能力と死ぬほど相性が良くて狩りやすかったから狩っただけです。

 隠伏能力は俺の能力で簡単に探知できるし、さっきの隠し玉も大したことなかったからな。

 こっちは金が必要なんだよ、しかもできるだけ楽に稼ぎたいんだ。

 

「それをわざわざ、懇切丁寧に教えるバカがどこにいる?」

「し、知らないわよ! とにかく、今日こそ私たち水上学園都市執行委員会が貴方を連行します!」

「お断りさせていただくよ、俺は秘密が多く持ちたい主義なんだ。――なあ、拳河原(こぶしがわら)

「リオって呼んで! そのゴツい名字……苦手なのよ!」

 

 普段から俺に絡んでくる拳河原が、名前負けしないデカい拳を振りかぶって――突撃する。

 やつの異能は巨大手甲。

 異能名と通称名が同一という、なんというか本人の気質がよく分かる馬鹿正直な異能だ。

 拳はブースターとして活用することができ、勢いよく俺にパンチを叩き込んでくる。

 それを回避すると、俺は空中にその身を投げ出した。

 

「あ、まちなさい!」

「じゃあな執行委員会、俺みたいな善良な市民にかまけてないで、悪の組織や危険な想念獣相手に治安維持を頑張れよ」

「な、あ! い、一体あんたのどこが! 善良な市民だっていうのよ――――!」

 

 そんな拳河原の叫びが街に響き渡り――俺の姿は虚空へと消えた。

 

 

 ■

 

 

 ここは水上学園都市『シミズ』。

 第五次想念戦争の後に、滅びかけた世界に建設された四大学園都市の一つ。

 そんないかにも異能バトルっぽい舞台の上に、一人の異能者の姿があった。

 名を葉隠リキト。

 

 そんな彼が、ある日突如として危険度三級の想念獣を討伐した。

 この動きは即座にシミズ全域へと拡散されていく。

 あるものは言った。

 これは『暗場闘争会』の活動を牽制するための布石である。

 あるものは言った。

 これは『シミズ』を巻き込む壮大なリキトの”実験”の最初の一手である。

 などなど。

 様々な憶測が飛び交い、一夜にして各勢力は騒然となる。

 

 長時間に及ぶ会議が白熱する勢力、ついにリキトが動き出したと勘違いして秘密兵器の準備を始める勢力。

 それぞれが、さまざまな動きを見せる。

 こう言った動きは、リキトが個人的な事情で行動すると、決まって起きることだった。

 

 しかしリキトはそんなこと、全く持って与り知らないのである。

 なぜならリキトは個人勢力で、どことも深い繋がりを持たないから。

 他勢力の水面下の動きなんて知る由もないから!

 結果として、リヒトは個人の行動だけで水上学園都市のあらゆる勢力に影響力を持つ謎の強者と化していた。

 しかもそれがリキトの能力をさらに強化することとなるのだから始末に終えない。

 

 かくして各勢力が、リヒトの気まぐれによって疲弊していく中、等のリキト本人は結構な収入にホクホク顔でゆっくりスヤァするわけだが、そもそもリキトを個人勢力であることすら知らない『シミズ』の人間たちは知る由もない。

 これは、実力隠しの異能持ち転生者のリキトが、異能バトルの世界を滅茶苦茶にしつつ救っていく物語。

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