ギシ……ギシ……
現在時刻:23時57分
「!」
(何の音だ?廊下の方からした気がするが……)
仕事部屋から、廊下に出る。
カチッカチッ。
廊下の電気はつかない。
ブレーカーが落ちている?
(スマホのライトで照らすしかないか。)
スマホを取りに部屋へ引き返す。
ガチャン!カラン、カラン……
リビングの方から、何かが落ちる音がした。
『何か』いる?
今度のは聞き間違いじゃない、確実だ。
ただ物が落ちただけかもしれないが、見に行かなくては。
一瞬、武器になりそうなものを探すが、特にこれと言ったものはない。
……さすがにマウスじゃな。
投げつけても全然足止めにもならんだろう。
デスクライトで、ギリギリ?
いや、ないな。
仕方がないので、ライトをつけたスマホだけ持って廊下に出る。
「……ッ」
息が詰まる。
ただの気のせいだとか、何かの勘違いだとか、或いは夢なら。
いや、夢なのかもしれない。
ただ、今の自分に出来ることは、この音の正体を確かめることだけだ。
一歩一歩、廊下を進む。
忙しくて使い道のない金をそれなりに注ぎ込んだこの家は、一人暮らしには少し広い2階建ての一軒家になっている。
当然ながら何部屋か余っているし、ぶっちゃけ使う予定もない。
趣味らしい趣味が無い、というのは存外寂しいことなのかもしれないな。
「!」
リビングから明かりが漏れている。
それに、音楽も。
なんだ、音の正体はこれだったのか。
勝手にひとりでビビってたのがバカみたいだな。
そうして、リビングに続く扉を開けば、やはり。
ちょっと前に録画していた、ウチの店の特集番組。
なんだ、簡単なことだ。
俺がテレビを消し忘れていただけじゃないか。
全く。
カチッ
テレビを消して、再び扉の方へと向かう。
もうさっさと寝てしまおう。
明日はせっかくの休日だからな。
有意義な時間を過ごしたい。
シュー……コー……シュー……コー……
(ヤバい!)
直感的にそう感じた俺は、リビングの扉を強く閉じる。
廊下に『何か』いる。
こ、呼吸か?今のは。
扉を背にし、自分の体重をしっかりかけて扉を封鎖する。
そうしている間にも、その呼吸のような、空気の抜けるような独特な音は続く。
もう、ちょっと泣きそうだ。
誰か助けてくれ。
(そうだ、武器!包丁!)
武器さえあれば。
一瞬扉の前を離れて、キッチンの棚から包丁を取り出せれば!
ガタン!ガタンガタン!
あ、無理だ。
めちゃくちゃリビングに入ってこようとしてるじゃん。
ここを離れた瞬間に殺されるの確定じゃないか。
ああ、どうしてこんな目に。
〜月翳り
闇世の我が身は
ひとりきり
我が家はとうに
棺になりけり
くそ、一句詠めてしまった。
辞世の句だ。
ドシッ……ドッ…………ドッ…………
あれ、いなくなった?
足音が遠ざかっていく。
「……」
……
「…………」
…………いなくなった、よな。
急いでキッチンへと向かう。
たった数歩が、何百歩にも思える。
棚を開き、ラックから包丁を取り出す。
そのまま棚も閉じずに弾けるように扉に突進して、再び扉を背にすれば、一先ず安心だ。
包丁を右手に構え直し、落としてしまったスマホを拾い、リビングを照らす。
電気はやっぱりつかないままだった。
現在時刻:1時0分
「はぁ~……」
思わず溜め息をつく。
いつまでもこうして扉の前でうずくまっている訳にもいかない。
……警察を、呼ぶべきだろうか。
決心がつかない。
大事にしたくない、という思いが心の底にある。
呼ばなくても案外何とかなるんじゃないか、という甘い考えが頭を支配する。
その一方で、これ以上スマホの電池を消耗する前に通報しなくてはならない、と必死に警鐘を鳴らす自分もいる。
(廊下を確認しよう、通報するかはそれから決めれば良い。)
俺が選んだ選択は、先延ばしにする事だった。
「すぅ〜……はぁ〜……」
よし、開くぞ、やってやるぞ。
何度も頭の中で動きをシミュレーションする。
肘でドアノブを下げ、そこから身体全体を捻って扉をほんのちょっと開く。
でもって足を隙間に突っ込んで一気に扉を開ける。
それなら両手が塞がってても大丈夫だ。
(こんなに恐ろしいのは久しぶりだ。)
ガチャ……バンッ!
「……?」
照らされた廊下には、誰もいなかった。
その代わりに、扉の直ぐ前の足元に。
──
ぬいぐるみのイメージは『fnaf4』のフォクシー人形です。