既にスマホも左手に握っていたためちょいと無理矢理にはなったが、何とか持てた。
一瞬気を抜くと直ぐにスマホを落としてしまいそうなくらい手がギチギチの状態だが、問題はない。
少なくとも、あのまま扉の真ん前に置きっぱなしにして、リビングに逃げ帰る途中で転ぶよりはマシだろう。
……にしても、本当によく出来ている。
鼻を押せばぷぴゅう、と何とも可愛らしい音が鳴るんだ。
最近ちょっと押しすぎて音が掠れかけている。
寝室にあったはずのぬいぐるみがここにある理由はさておき、俺はこんなイタズラをした犯人を見つけなくちゃいけない。
この好奇心の代償が、己の命でなければいいが。
先ずはブレーカーをあげたい、んだけども。
扉に耳をつければ、そこからギギギ、と何か金属が擦れるような音がしてくる。
(ブレーカーあるのこの部屋なんだよなあ……)
廊下の奥じゃなんか光る球体が浮いてるし。
ライト向けると消えるんだけどね。
とにかく、そこら中から嫌な音とか、おかしな現象が起こってる。
でも、とにかく突入してブレーカーをあげないことにはどうしようもない。
中で何をしてるのかは分からないが、やるしかないだろう。
「動くなッ!……あれ?」
ライトを当てながら勢いよく扉を開く。
が、誰もいない。
何もない。
ただ空っぽの部屋があるだけだ。
気のせいだったのか?
いや、そんなわけないよなあ。
もういいや、とにかくちゃんとした明かりが欲しい。
眠いし、疲れた。
カチッ。
ああ、良かった。
やっと電気がつい──
ヒヤリ。
冷たい何かが、首を触る。
「ッ!……誰だ、何が目的だ。」
持っていたスマホと人形が手から溢れ落ちる。
包丁を固く握り締めると同時に、いや、手放すべきかと思考がぐるぐる乱れていく。
「……?」
恐る恐る、首筋に触れている何かを見る。
それは灰色の、細長い……腕?
「??」
てっきり刃物でも突き立てられてるのかと思ったが、俺の両肩に、というか首に纏わりつくみたいにひんやりとした腕がまわされていく。
何というか、凄く見覚えのある腕だった。
色も、形も、そして後ろから聞こえる僅かなモーター音も。
ゆっくりと、後ろを振り向く。
「な……んでここにいる?」
そこにいたのは
「何してんの……??」
ニコッと笑う彼女は可愛らしかったが、俺は混乱するばかりだ。
何でここにいる?
どうやって侵入した?
いつから居た?
店はどうした?
脱走したのか?
誰も気づかなかったのか?
そもそも、歩いてこれる距離じゃない。
一体どんな方法で──
ギィ、ギィ。
廊下からまた音が鳴る。
とにかく、犯人はわかった。
適当な机の上に包丁と人形を置き、スマホだけ持って廊下に出る。
ビビってたのが馬鹿みたいじゃないか……!
答え合わせ、するか。
廊下の光る玉は、
廊下に出た瞬間、明るくなったライトの下で普通に立っていた。
そう。
光っていたのはあの子の目だ。
本物の猫は暗闇で目が光る、というのを再現するために入れた機能のせいだった。
こちらと目があった瞬間、飛びかかって覆い被さろうとしてきたが、残念ながら床に敷いてあったカーペットのせいですっ転んでいた。
……後で破損してないか確認しないと。
というか床の方にはガッツリ傷がついていた。
へこむ。
いや、床は傷だらけなんだけどね。
台所の異音は、
流しの下の戸棚の中の物を出して、その中に無理矢理入っていた。
流石に開けた瞬間には悲鳴をあげざるを得なかった。
フライパンとかはひしゃげていたし、買ったばかりのサラダ油は台所の床にぶち撒けられていた。
これなら、暗いままのほうが良かったな。
泣いてないよ、うん。
泣いてなんか、ないよ。
扉をぶち破ろうとしていたのは、
彼女はその後、俺の寝室のベッドの下に隠れていたようだった。
なぜ分かったかって?
……彼女は壁に爪を立てながら歩いていたからだよ。
当然のことながら爪の先端は丸くしてあるのだけれど、普通に力が強すぎて壁紙はビリビリに破れていて、その跡がそのまま寝室に続いていたのだ。
しかも、扉はまたしてもひしゃげて半開きだった。
部屋に入った瞬間、ベッドの下から飛び出してきた白狼《ホワイトルプス》は俺の足首を掴んだが、それに驚いて落としてしまったスマホが頭に直撃。
いそいそとベッドの下に引っ込んでいった。
いや、出てこいよ。
そして、ブレーカーが落ちていたにも関わらず点いていたテレビ。
これは
コードを引っこ抜いて自分の電力を使っていたみたいだ。
俺がリビングに来てからはずっとテレビの裏に隠れていたらしい。
ちょっとテレビ裏のコード類が重さに耐えきれず千切れまくっていたし、テレビ本体も画面が映らなくなっていたが、まあスパークも出てないし火も吹いていないから問題ない。
はあ……
現在時刻:3時0分
掃除しよ。
かわいそう。