カチャン。
『こちら、ご注文のオムライスセットで御座います。』
「どうも。」
ニコッと人懐っこい笑みを浮かべて、美しい顔立ちをした女性のウェイターが去っていく。
いや、正確にはそうではない。
彼女の着ている制服のスカート、その長い裾からちらりと見えるキャスターが、彼女の正体を物語っていた。
俺があの子たちを生み出してから、もう7年が経とうとしていた。
会社は最高に上手くいっている。
まだまだ規模は小さいが、それ以上に社員ひとりひとりが充実している、そういう居場所に出来たと自負している。
飯田のやつは例の恋人と結婚して子供をこさえ、今日は家族サービスと称して遊園地に行っているそうだ。
あの子はアイツに似て、賢くてイケメンで気遣いの出来る優男になるんだろう。
それに比べて俺は彼女どころかアイツ以外の友達も……
いや、やめよう。
惨めになってしまう。
「……」
カチャン、カチャンとスプーンを動かす音だけが俺のテーブルに響いていた。
味は最高に美味しい、けど寂しいね。
いや、寂しいというのはオムライスではなく俺のことなんだけど、一人で食事をすることには慣れていても最近は忙しくて誰かと呑みに行く時間も取れないものだから、ちょ~っとナイーブになっているのかもしれない。
「どうです、お味は?」
と、こちらの食事の様子をテーブルの横でじっと見ていた女性に話しかけられる。
「うん、凄く美味しいよ。調理スタッフに人間が居ないなんてホント信じられないくらい。」
「ふふん、そうでしょう、そうでしょう!」
そうやって胸を張るのは、何を隠そう泉さんだ。
泉さんは今、高校、大学を卒業して起業し、ロボット事業に参入しているのだ。
ウチのバイトの影響もあったり?なんて聴いたこともあったけど、その時ははぐらかされてしまった。
とにかく、彼女の会社では完全にロボットオンリーの喫茶店を作ろうと頑張っているのだ。
今日はそのへんのアドバイス、というか議論を深めるために訪れている。
「ウェイターの足にはキャスターを?」
「ええ、そうです。重心の調整のために、スカート下部に色々詰め込んでるんですよ。」
「なるほど……そうやって自然な立ち姿のまま安定を。」
だからここの制服はメイド服なのか。
長いスカートで色々隠すために。
「一応、床に溝を作って線路みたいに通路を固定する案も出たんですけど……」
「うん、それもなかなか良さそうだけど?」
「お客さんが転びそう、という問題を解決できなくて。」
「ん、なるほどねぇ。」
「というか、そっちのが自立して歩行出来るのがおかしいんですよ!勝手に動くし!どうなってるんですかあれ!?」
「いやぁ、それがよく分かんなくてね?勝手に動くのもそうなんだけどさ、よくよく考えたらあのバランスで立てる訳ないんだよねえ……何でなんだろうね。」
「えぇ……?」
まあ、その不可思議な現象のお陰でウチの会社は続けられているんだから、不思議がりこそすれどそれに文句を言うことはできない。
「あ、そういえばこの前出来た2号店、行きましたよ!前の店より凄い広くてビックリしちゃいましたよ。」
「2号店は一から建てたからね。1号店は狭かったから、倍くらいデカくしたんだ。」
「あ、あとグッズも買ったんですよ、ほら。」
そう言って彼女はスマホの画面を俺に見せる。
そこには自宅と思われる背景とパステルピンクの机が写っていて、その机の上に1号店と2号店の
「新しい子たちも可愛くって全部買っちゃいました〜。」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
実際、インターネット上でもウケが良いことは確認している。
その辺はメディア展開が上手くいっているのもあるとは思うが、SNSでも彼女たちの二次創作をよく目にするようになった。
まあ、愛されているというのは本当にありがたいかぎりだ。
この平穏を壊さないためにも、彼女たちとの付き合い方は考えなければならないだろう。
……月一でちゃんと会いに行かないと、また脱走されてしまう。
ただ、今月はもう暫くはどちらの店舗にも行けそうにないんだよな。
一応一ヶ月ギリギリ経つくらいで会うことになってしまいそうだ。
──念のため、また脱走されないように対策する必要があるな。
◆◆◆
プルルルルル……
プルルルルル……
プルルルルル。
ガチャ。
『あー、んん。どうも、こんばんは。聞こえてるかな?今日は『レストラン:バウンドドッグ』の短期夜間警備員のアルバイトに応募してくれたこと、ありがたく思うよ。』
『このバイトはSNS経由で知ったのかな?ああ、いや、そんなことは良いんだが、とにかく。事前に説明は受けたと思うけど──』
『君にはこれから5日間、夜間警備をやってもらうよ。』
これにて完結です。
書きたいものが書けて満足しました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。