お前いまウチの子のことエロいっつったか?   作:味噌カツ伝説

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 泉ちゃん視点はこれでおしまい。


この子たち、えっと、なんかえっちじゃない?(後編)

「いやあ、ありがとうね。どう?何か変わったことはなかった?」

 

「……いえ、特には。」

 

 制服とIDカードを持って事務所へと向かえば、ほんの数分前まで仮眠をとっていたであろう社長さんがいた。

 

「あの、ひとつ聞いても良いですか?」

 

「何かな?」

 

「なんでわざわざ人間なんて雇ったんですか?今って、監視カメラとか全部AIにチェックさせた方が安いって聞いたんですけど。」

 

 あー、それはね。

と社長は付け足して。

 

「そういうのは大企業の場合の話なんだよね。ウチみたいな中小企業だと、人件費の方が安く済んじゃうんだよ……ここだけの話、ああいう警備AI系の会社から借りるのって凄い高いのよ。」

 

 面と向かって安上がりだと言われるのはあんまり良い気分じゃないけど、そのおかげで稼げたと考えればトントンかな。

 

「今までは、どうしてたんですか?」

 

「……実はちょっと前にこの店舗に泥棒が入ってさ。いや、ソイツはもう捕まったんだけど。それがきっかけで夜間警備員を募集し始めたんだ。それまで、監視カメラもただのトラブル防止用って感じだったし。」

 

 泥棒、か。

人形の金属部品狙いかな。

ちょっと前に社会問題になって映画化してた『自転車分解泥棒』みたいに。

 

「──それじゃあ、今日、というか明日もよろしくね。」

 

 そう。

このバイトは2日間勤務することが条件なのだ。

だからこれから家に帰って、半日くらいゆっくりしたらまたここに来なくちゃいけない。

 

 でもしょうがない。

次のライブのためだ。

そのためなら多少の健康を害するくらいは必要経費と割り切るべきだ。

コラテラルダメージってやつ?

 

「そうだ、朝ごはん。お店で食べても良いですか。」

 

 


 

 

 夜。

再び店舗へと足を踏み入れる。

 

「あれ、叔父さんも来てたんですね。」

 

「おお、泉ちゃんか。僕も社長のお手伝いさ。」

 

「今日もしばらくはあの部屋で作業して、一段落したらまた事務所にいるから。終わったらまた来てね。」

 

「はい。」

 

「じゃ、行こうか。」

 

 機械人形(アニマトロニクス)って、そんなに頻繁に手を入れる必要があるのかな。

しかも、社長が。

単に技術者がいないだけか、『人手不足』らしいし。

 

「じゃ、俺たちはここで。今日もよろしくね。緩くやってくれればいいから。」

 

「あ、はい。頑張ります。」

 

 

 

現在時刻:0時30分

 

『ど──思──?』

 

『問題──い。バグ──られない。』

 

『昨──何も──』

 

 例の部屋で、2人はずうっと人形たちを見ながら何かを話し込んでいた。

ハッキリとは聴こえないけど、多少はカメラが音を拾ってくれる。

 

 一生懸命聴き取ってみようと頑張っても、素人の私じゃ大して情報を拾えなかった。

断片的な会話も、何かの専門用語っぽいものが多くて私じゃ繋ぎ合わせられない。

 

 ちぇ、つまんないの──

 

「ッ今の!?」

 

 今、2人が見てないところで人形が動いた!

目だけで2人の方を見て、口を開いた!

夢に出てきた、あの狼頭のやつだ。

間違いない。

 

 えっと、どうしよ!

で、電話だ、電話で教えなくちゃ。

緊急用の、受話器。

 

 そう思って、受話器に手を伸ばそうとしたとき。

 

『シー。』

 

 兎の人形が、カメラの方を見て。

目を細めて、左手の人差し指を口に当てた。

 

「……!」

 

 ぞ。

 

 動けなかった。

否、()()()()()()()

 

 

◆◆◆

 

 

「う〜ん……」

 

 スマホの画面を見ながら、首をかしげる。

 

「確かに笑ってるし、あざとめのポーズも取ってるんだよなあ。」

 

 それを横から覗き込む飯田も、同じように首をかしげる。

 

「でも、何も出ない。」

 

「何も引っかからない。」

 

 

 

カプッ。

 

 

 

 

 

「「でも、動いてる。」」

 

 白狼(ホワイトルプス)は俺に覆いかぶさるように後方から頭に()()()()、飯田は飯田で後ろから械馬(ミス・サントール)がしなだれかかっていた。

 

 バンザイ状態でマズルを撫でてやれば、ヒンヤリとした触感が伝わってくる。

今この子の電源が切れたら、間違いなく俺は潰されるか噛み切られるかで死ぬだろう。

違う意味でも背筋が冷えるね。

 

「どうしたもんかな、これ。」

 

「な……」

 

 俺も飯田も、この原因不明の事態に疲れ切っていた。

こうして勝手に電源ケーブル外して歩き回られちゃ、明日の電池が保たない。

大人しくしてて欲しいんだが……

 

 でも、電源切っても動くし。

ていうかさっき切ったし。

どうしようね、これ。

 

「なあ、『AIレベル』って下げられねえの?」

 

「下げても勝手に上げちゃうでしょ〜この感じなら。」

 

 AIレベルというのは、AIの賢さを表す指標だ。

0(電源off)〜20まであり、15あれば軍の指揮官。

20あれば国の為政者が務まるとされている。

ま、そんなのはまだ開発されていないが。

たぶん。

 

 ちなみに、10あれば人間社会に溶け込めると言われているが、今はだいたいこの当たりが最先端で競争中って感じだ。

5なら子供、それ以下ならペットくらいの賢さ。

 

 ウチの子たちはAIレベル7.98.99を搭載し、それを魔改造して色々教え込んだことでウェイター仕様にしている。

そのために俺はプログラミングを始めたんだ。

ま、ウチのシステム関係全部構築して管理してくれてた飯田に申し訳なかったってのもあるけど。

 

 話は逸れるが、基本、店の配膳は人間のウェイターか、もしくはキャスター式のロボットが運ぶのが主流だ。

まあ、わざわざ人型のロボットに配膳させるくらいなら、人間の方が融通利くしな。

おかげでウェイター仕様を作るのに随分苦労した。

 

「うお!?」

 

 びっくりした。

誘猫(プスプス)が正面から俺に抱き着いたようだ。

もう俺の頭はすっぽり白狼(ホワイトルプス)の口の中に入っているので全く何も見えない。

ちょうど頸動脈のあたりに歯がきててすっごい怖い。

 

 排気熱で暖かいやら冷や汗と金属で冷たいやら、もう俺の自律神経はぐちゃぐちゃだ。

 

 

 

 

きゃあああああああ!!

 

 


 

 

(助けに、行かなきゃ。)

 

 震える膝を叩き、怯える自分に喝を入れ。

 

(電話は何故か察知されてる。なら、私が直接部屋に行けば良い!)

 

 あの人たちが()()()()()()()前に。

 

 

 

……今思えば、随分私は錯乱していたのだと思う。

別に、あの人形が独りでに動いたからといって、あの2人に危害を加えるかはまた別の話なのに。

でも、この時の私は正気じゃなかった。

寝不足や恐怖で、おかしくなっていたのかもしれない。

 

 

──例の部屋にたどり着き、IDカードで扉を開いた先には。

 

 

 首を狼頭に食われたまま、猫メイドに身体をへし折られている社長と。

 

 

 ケンタウロスの怪力で身体を固定されたまま、兎に両手で頭をすり潰されている叔父さんの姿があった。

 

 

 

 

「……え。」

 

 思わず後ずさる。

 

 途端。

 

 左の暗闇から手が飛び出してくる!

 

きゃあああああああ!!

 

 その場から全力で逃げ出す。

机にぶつかっても、観葉植物を蹴飛ばしても。

止まっちゃいけない!

 

 もう、自分の顔を流れるのが涙か鼻水かもわからない。

最悪の気分だった。

死ぬかもしれないという恐怖が。

 

 ドシドシという足音はまだ追ってくる。

 

 

 もうッ!もうッ!もーッ!

 

 騙された!

 

 

 夜中に人形が動くなんて聞いてない!!




 もちろん泉ちゃんの見間違いです。
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