あたち神様に幼女にされちった! 作:あるがままに在れる世界
その魂は、上位の世界のものだった。その魂は、独自の
けれども一度積み重ねた技術が無駄にはならないように、堕落したからと言ってその魂の格が落ちることはなかった。だから魂には権限があった。上位の世界のものとして、下位の世界の法則を拒む権限が。
しかし、それでは困る存在、否、世界がいた。だからその世界は、より上位のそれに、悟られぬようにある機会を設けた。
上位の世界のその魂曰く、神様転生。
世界はあくまで超常の存在として魂の前に現れ、条件を飲むなら再度の生を与えようと嘯いた。そんなことを聞かなくても、上位のそれは世界の全てを好きにできるのにも関わらず。
だが上位のそれは目の前の"神様転生"に夢中だった。故に、世界のその偽りが暴かれることはなく、結果、上位のそれは本来あったはずの権限を転生するための条件としてできる限り手放し、その代わりに3つの力を得た。
ひとつ
『
ふたつ
『
みっつ
『強力な念能力の素養』
いわゆる物語の能力を所望する俗物のそれ。だが世界にとってはそんなことは知る由もなく、ただ願いを叶えたことによる安堵があった。
上位のそれ。それが得た3つの力。それは上位の魂に枷となって付き纏い、常にその権限を削ぐ。
だが権限自体を完全に無くすことはできない。しかしここまですれば、上位のそれも好き勝手に振る舞えないのは間違いなかった。
あるいは逆鱗に触れればその限りでは無いかもしれないが、世界はもうこれ以上その魂に関わる気はなかった。だからこの話はこれでおしまい。世界は危機を免れ平和への第一歩を踏み出したのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
薄暗い路地の一角。夜も深く梟が呑気に鳴く時間に、彼女はそこにいた。何をするでもない。ただ呆然と。かと思えば、しばらくして、彼女はあたりを見回しだした。
その様子は紛うことなき不審者だ。誰かに気づかれれば何らかの対応がなされるだろう。だがその前に、周囲の状況を把握して何か百面相を顔に浮かべた彼女は、直後、空に溶けて消えた。
果たしてそれがなんだったのか。知るものは誰もいない。
この世には、まだ。
それから時間は過ぎ去っていく。空に浮かぶ月の位置も頭の上に位置するようになり、おおよそ深夜の零時。
そんな時間に、これまた怪しい人影が、ビルの屋上で立っていた。
「らーららら──ら……ら──らららら──ーらら〜」
小気味よい旋律が、夜の帳の中で響く。誰に限るでもなく。向けるでもなく。自分はどこまでも自由なのだと主張するように。
時折それに踊りなども混ぜられ、その場にはちょっとした演芸会のような雰囲気が走り始める。そんな中で、月明かりに照らされて、歌声の主の姿が現実という名の衆目の目に晒され始めた。
それは優美にして可憐。燃えるような赤髪を纏った、快活な少女。どこまでも爽やかなその外見は、夜の闇に紛れて妖しさすら併せ持っている。そのような少女が、なぜ、このような場所で歌い踊っているのか。
それはひたすらに、現実逃避の結果であった。
「…………ああー!もう!金がねえ!地位がねえ!家がねえ!」
歌のリズム感を維持しながら、可憐な少女の外見とは裏腹に、雑な言葉の群れがその少女より出る。先程まで屋上で機嫌よく舞っていた姿もなんのその、今度は一気に機嫌を悪くしてその場で地団駄を踏み始めた。
「だいたいあの神野郎は適当すぎんだよ!そんな俺のことがどうでもよかったのか!?じゃあなんで異世界転生させたんだよ!つーか俺はこっからどうすればいいんだよ!バカヤロー!」
魂の叫びだった。この場合は上位のそれによるものではなく、本心からの叫びだった。いわゆる、"神様転生"という現象に遭遇したまでは良かった。だが、そこからが少女にとって最悪の連続だった。
そもそも少女は少女ではなかった。元々は上位の世界の、単なる男性だったのだ。それが何の因果か赤毛の可愛らしい少女になり。挙句遭遇した神様が言うには少女となった少女は3つの特殊な力を得た。
そこまではまだいい。許容しよう。だがそこからだ。そこからが問題だった。本当に何も無いのだ。先程も言ったように。金もなければ家も何もない。
普通神様転生をするならそういう所は何か神様が解決してくれるものだろう。しかしあの神と来たら、少女が出された条件を飲んで能力を授かった瞬間にどこかに行って。
そしてそのまま少女を転生させた。何故か少女の姿で!
「ンガー!ふざけやがって!チクショー!!」
もちろん理屈はわかる。少女が選んだ転生特典と言うやつは、どれもHUNTER×HUNTERという物語に出てくる能力だ。いわゆる念能力というもの。
そしてHUNTER×HUNTERで転生と聞くと、不思議と赤毛の少女が思い浮かぶ。だからその想像を神様が拾ってついでに叶えた、のだろう。おそらく。しかしそれは余計なお世話だ。
やはり人間慣れ親しんだ体の方がいい。だいたい本当に少女はここからどうすればいいのだ?本当に分からない。解決できない問題に、少女は体を屋上の床に横たえた。
「あ"〜どうすっかなぁ。マジカルエステ。パーフェクトプラン。それこそパーフェクトプランを使えば金には困らないけどさぁ。それはなぁ」
パーフェクトプランは完全な透明化能力。実体を消すことはできないものの、それ以外のありとあらゆる気配を絶つ事ができる。実際、監視カメラにも映らず、能力発動中は一切の痕跡を残さない。
その能力を利用すれば金はいくらでも用立てられるだろう。しかしそれは所詮一般人程度の倫理観を持つだけの少女にはできないことだ。となると残るはマジカルエステのみ。
それでどうするか。少なくとも少女は真っ当に働ける年齢ではないから、この手札で今後をどうにか凌いでいかなければならない。そんな中での、マジカルエステ。
悪くはない選択肢だ。魔法美容師。その名前の通りこの能力はありとあらゆる美容の悩みを一発で解決してくれる。
便秘、肩こり、冷え性の改善から、美肌効果まで。あるいはある程度のアンチエイジングも可能。夢のある能力だ。もちろん夢があるからこそ選んだのだが。
しかしなんなら神との会合を夢だとすら思っていた少女にとってはびっくら仰天だ。実際に望んだ能力を使える。それはとても嬉しい。だが…………この光景を前にすればその使える喜びも一欠片程度になる。
「あー、まじでここどこだ?俺の家は?ねえ?」
時刻は深夜。にも関わらず、屋上の柵から身を乗り出すと煌々と輝く街中の風景が見える。特に繁華街らしきところは暗いところがあまりない。実に現代的だ。
しかしこんな街並みは少女の頭の中では見覚えのないものだ。もちろん探せばあるだろう。だが少なくとも、以前少女が住んでいた場所とは程遠いのは間違いない。
この複雑怪奇な超常現象からして、転生したというのは疑いようのないことだ。仮に異世界転生でなくとも、転移&肉体変性というのはその事実を補強するにあまりある。
「ほんと。どうすっかなぁ〜」
どうするもこうするも、この眼下に浮かぶ街で生きるしかないのだが。それはそれとして、あまりにも先の見えない現実に、少女は空を見あげた。頭上には、蘭々と輝く半月が。
ああ、今日も……月が……綺麗……だ。
それから、少女は屋上で少々のふて寝をすることにした。立ち入り禁止の場所だから誰かに見つけられることはないだろう、そう安心して。
そうして、少女はゆっくりと眠りに落ちていく。月明かりが少女の体を照らす中で、屋上にポツンと佇んだその体は、心做しか孤独を孕んでいるように見えた。
時間は、早く、遠くへ少女の意識を運んでいく。揺蕩うような暗闇の中で、少女は静かな夢を見た。家族と笑い合う夢。友達とバカをやる夢。けれどもそれらは全て過去のもの。
そう思った時には、既に、少女のまぶたには咎めるような光が侵入してきていた。その輝きを合図に、少女は目を擦りながら体を起こす。また繰り返すように空を見上げると、燦燦と輝く太陽が地平線の向こうに見えた。
「夢ではないか。仕方ねえ。やるか。マジカルエステ屋」
軽く伸びをして体を解し、その場で宣言した。とっても不思議なエステティシャン。マッサージ屋。目指すはそれ。目標をそうやって定めた少女は、早速行動を開始した。
屋上の只中で、慣れない少女の体を解し、準備を整える。そして特に意味もなく拝み、そこから少女は体を一気に躍動させた。体に溢れる力を全開にして、飛翔。
まるで空を飛ぶかのような勢いで跳躍し、街中へと繰り出す。体が浮遊感に包まれ、眼下に障害物の一切ない街の風景が広がった。それはいっそ現実味を失せさせていたが、だからこそ。
なんとなく綺麗だと思った。
まあ、それだけの話なのだが、しかしこれから生きていく場所としては、悪くないのかもしれまい。とも少女は思った。
そこから、少女は空を経由して街中へと繰り出し、ちょっとした準備を経てマッサージ屋の開業を目指す。主に住所不定無職の少女にとって、警察は洒落にならない天敵なので、そこに関する対処を僅かに。
というのもマッサージ屋を開業するためにもまずは資金と最低限の許可などの準備が必要だったので、それを揃えるために警察への対処は急務だったのだ。
だがそれも少女の容貌と念能力をもってすれば決して難しいことではなく、結果、ある程度の格闘の末、少女は正式にマッサージ屋を開業することとなった。
それと、これは色々な情報を道すがら聞いてわかったことだが、今、少女がいるこの街。名前は深山町というらしい。聞いたことがない。市の名前は冬木市というものだそうだ。
それはなんか聞き覚えがあるのだが、何かあの神の野郎に手放せと言われた知識の中に含まれていたからか、覚えていない。つくづくあの少女が出会った神は畜生であるらしい。
まあそんな事はともかく、やっとマッサージ屋を開業できたのだ。開業祝いとして多少羽目を外しても構わないだろう。
「おーい!そこのおじさーん!15分500円のマッサージはどうだい!?ワンコインだよ!」
「お、おじ!?500円!?15分!?マッサージ!?そ、そんな事君みたいな若い子が言っちゃダメだよ!」
底知れぬ誤解が、周囲に広がる。深山町の、とある路地。そこで少女は警察より何とか道路使用許可の申請をもぎ取り、実際の利用計画に沿ってごく小規模のマッサージ屋を開業していた。
今回は色々と語弊があったが、問題ない。周囲が少女の発言に目を剥く中、少女は声をかけたおじ、お兄さんを無理やり引き連れ、マッサージを施した。そうすれば周囲も安心。
マッサージ屋()ではなく、少女が言っているのが本当のマッサージ屋だとわかったからだ。
そうすればあとは少女の戯れのようなマッサージ屋に興味を惹かれるものと安心して離れていくものに別れ、その場は特に問題なく収まった。
強いて言えば興味を持って残ったものには刺激の強い光景だっただろう。マジカルエステはことマッサージという分野ではこれ以上ないほどの能力。
必然無理やり受けさせられたお兄さんも警戒を背にその顔を蕩けさせた。だが誰がおじさんのそんな顔を見たいというのか。誰も見たいとは思わないだろう。
しかし、それでも。無理やり受けさせられてもそれということは効果の程は言うまでもなく、結果的に、それはある程度の集客効果を産んだ。少なくとも、少女が今後の生活費にはある程度困らない程度には。
「うーん、やっぱり便利。俺の
陽も翳った頃。少女はまたあの屋上に戻ってきて、足をプラプラさせていた。そこにはもう先日までの焦りはない。そしてそんな少女の姿の横には、まるで保護者のように佇む女性の姿があった。
それがマジカルエステ。クッキィちゃんの正体。能力によってマッサージの補助のために具現化された存在。そのクッキィちゃんの姿を見て、少女は拝んだ。
桃色の髪にスタイリッシュな立ち姿。
どこまでも頼もしい。
クッキィちゃんがいなければマッサージで何とかする!なんて思いつかなかっただろう。本当に感謝しかない。そう思いながら、少女は、沈んでいく太陽と共に、その日一日を何とか終えた。
そして次の日。
その日も少女はマッサージ屋を開いた。
無論市役所などに行けば住所不定無職の問題は解消されるのかもしれないが、それはあらゆる要素から加味してあまりやらない方が良いだろうというのが少女の判断だった。
そしてそれは、ある意味では間違っていなかったのだろう。マッサージ屋を初めてから何日か。最初は気のせいかと思ったが、明らかに途中から少女は誰かに観察されているのに気づいた。
念能力、という。神に与えられた力の感覚がそれを教えてくれたのだ。しかも普通の監視ではない。何か不思議な力の波動を感じる。この世界に来てから感じるようになったよく分からない力の流れ。
それと似たような気配。一体何なのか。申請の性質上簡単にマッサージ屋の位置も変えられないので、その気配に対して少女はあくまで警戒するに留めていた。
下手につついてもろくな事にならないのは予想が着いたからだ。だから静かにあまり大きな動きを見せないようにしていたのだが。
突如、少女は急に少し年上の少女に声をかけられた。
「あんた。何やってるの?」
黒髪に碧眼の眼差し。いつも通り深山町の路上でこじんまりとしたマッサージ屋を開いていると、そんな少女が声をかけてきた。
「何って、見ての通りマッサージ屋だよ」
質問の意図があまり掴めず、少女は小首を傾げて答える。この数日間で、転生者な少女は見た目相応の仕草を身につけていた。
そこに現地の少女が、そういうことじゃなくて。といいながら、呆れたように言い放ってくる。
「なんで魔術師のあんたがそんな事やってるの?」
「?」
「いやハテナじゃなくて、治癒魔術に暗示とか色々混ぜてるのかもしれないけど、そんな高度なことできるならもっと色々稼ぎ口あるでしょ?だいたいセカンドオーナーの私に話を…………」
現地の少女の話はまるで理解できなかった。ただ厄介なことになりそうだったので、ここはパーフェクトプランで一時退散しようと、少女の前で店仕舞いをして能力を発動させようとしたのだが。
「ちょ!ちょちょ!何するつもりよ!やるの!?やる気!?言っておくけど私は仮にも魔術の名門の出よ!野良の魔術師相手なら戦ったこともある!だから早まらないでよね!」
「あ…………あー。そっちの方がよっぽど早まりそうだけど、そもそも、まじゅつしって何?あたしはたまたまこの力に気づいたから使ってるだけだけど」
「…………え?魔術のこと知らないの?」
「うん。そもそも世界のことほとんど知らない。なんかおばあちゃんにあたしは奇跡の子だって言われて育てられてきたけど、戸籍もないし。困ったもんだよな」
まったくのでっちあげの嘘を、その場で披露する。転生者な少女ほどの年齢で、戸籍がないのはそうでもないと説明がつかなかった。それと、魔術師だかなんだかの相手の世界観に合わせたのもある。
それもあって、路上で対面していたその現地の少女は、すっかり転生者な少女の言葉を信じ、深刻な顔になる。そしてそのまま、なんとも言えない顔で、転生者な少女に言ってきた。
「その……話を信じる訳じゃないけど、とりあえずうちくる?……ほら、私魔術師……そういう力を使う連中の上司みたいなことしてるんだけど、あんたも見たところ魔術師みたいだし」
「いいの?ありがとう」
「う、随分素直ね。言っておくけど、擬態だとしても私に勝てるとは思わないでよね!まあ、そんなことは無いだろうけど。一応よ一応。一応言っておくわ!」
「うん?ありがとう」
「だー!もう!調子狂うわね!行くわよ!」
碧眼の少女が、肩を起こらせて転生者な少女に背中を見せる。見る限り、その態度に危険は無さそうだった。だとすると市役所を敬遠していたのもあるいは杞憂だったか。
この世界では魔術師、というらしいが。そういう異能者を警戒して余計なことはすまいとしていたのだが。その警戒もおそらく杞憂だったらしい。
とりあえず、転生者な少女は、碧眼の少女に連れられて、道を歩いていく。その碧眼の少女の家は、かなりの好立地な場所にあるようで、案内からしばらくすると、高級住宅街の姿が見えてきた。