あたち神様に幼女にされちった!   作:あるがままに在れる世界

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何かが欠けている少女ちゃん

 

 

 それは燃えるような苛烈な夢。そこに憧れを抱くこともあった。そこに嫉妬を抱くこともあった。でもいつからだろう。その夢を見ることすらできなくなったのは。

 

 遠坂凛。間桐桜とは赤の他人。でも確かな繋がりがある人。その人は誰よりも苛烈で、燃えるように輝いていた。汚泥の中に浸る桜とは違う。陽の元で朗らかに笑う人。

 

 いつも誰かに囲まれて、いつも誰かに憧れられて。そんな人と、桜には確かな繋がりがあった。それは桜にとって分不相応なもので、疎ましく思うこともあるけど、それでも大切なひとつの繋がりだった。

 

 なのに。あの人に、姉さんに妹ができた。燃えるような真紅の髪を持った、まさにあの人の妹とでも言う人物。

 

 あなたは一体誰?そこはあなたの場所じゃない。桜の、間桐桜の、遠坂桜の場所。なのになんであなたは何も顧みずそこに座っている?

 

 なんで私だけ、それを汚泥の中から眺めなければならない。

 

 ずるい。

 

 

「ずるいよ」

 

 

 嫉妬の言葉が、木霊する。夢現に浸っていた意識が、現実に引き戻される。すると感じるのは、肌を這いずる異物たちの不快な感触。

 

 ぬちゃぬちゃ。ざりざり。人が思いつく限りの不快な音が、その異物達より漏れ出る。でも桜はもうそれに何も思わない。ただ反射で、その音の主達の姿を眺めるだけ。

 

 それらは、やはり、相変わらず冒涜的な姿をしていた。ぬらりと輝く細長い体。その体に染み付いたぬめりは、果たしてその蟲生来のものか桜のものか。どうでもいい。

 

 ただ惰性でその蟲の群れに埋まる桜が、気まぐれに手を動かすと、その蟲達は慌てたように足をワタワタ動かし出した。そして生意気だ!と桜のその肉を突く。

 

 

「んっ。はは。変なの」

 

 

 嫉妬。絶望。諦観。そんなものこれまでいくらでも味わってきた。それが今更ひとつ内に加わっただけで、「ずるい」。これを笑わずして何を笑う。あまりにも喜劇そのものだ。

 

 ここまでふざけているとあるいはシェイクスピアという小説?の序章に書き連ねられたりするのだろうか?したら面白い。いずれにせよ。この嫉妬はお門違いだ。

 

 姉妹という繋がりは姉と自分のものだけではない。どころか今は他家のものなのだから、桜が遠坂凛の姉妹関係について今更口を挟む権利はない。全てはもう、手遅れ。

 

 桜は間桐で、凛は遠坂なのだから。もう両者が交わることはない。でも。それでも。許されるなら。

 

 

「もう戻れないなら、めちゃくちゃにしてやりたい」

 

 

 それが少女間桐桜が、自我を得てから、初めて自分で思い描いた願いだった。それが叶うかは、分からないけれど。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 夜の幕が開ける。

 

 狂騒の宴が始まる。

 

 今宵月が満ちる時、人気のない路地を疾駆する無数の影。それらはまるで競い合うように凄まじい速度で走行し、影を交差させる。月光の元で走るその姿たちは、非常に騒がしかった。

 

 静かな道をその足音で台無しにしている。だが彼らも必死だった。追うものと追われるもの。外から見ればその区別はつかないが、無数の影達はそのふたつに別れていた。

 

 そしてどちらもこの上なく必死なのだ。

 

 その度合いは、残酷なまでに違うが。

 

 

「そっち行ったわよ杏!さっさと術者を片付けてちょうだい!まだ私自身の稼ぎはそこまででもないから、宝石は温存したいわ!」

 

「りょーかい!できるだけ早く潰すわ!それまで頑張ってな!」

 

 

 その場には場違いな、少女たちの声が響く。遠坂凛と遠坂杏。共に姉妹同士。そんな彼女達が何を追いかけているのか。それは彼女達が冬木一帯の魔術師の元締めであることに起因する。

 

 

「クソ!来るなら来い!gear shift(変速)!」

 

 

 無数の影、現代では再現不可能な機械人形を従えた魔術師が、追いかけてくる杏の速度に逃げきれないと判断して、入り組んだ路地の中で迎え撃つ構えを取る。

 

 

「パワードアーマー : 回る機構(ローテイトデザイン)!」

 

 

 杏がその路地に飛び込むと、迎え撃つ姿勢を取った魔術師が特殊な道具を起動させる。いわゆる魔術師間の呼び名で、魔術礼装。

 

 それは古く力の籠った金属を用いて作られているのか、夜闇の中でも一層輝いて見えた。察するに、保有する神秘という力もそれほど多いのだろう。強力な気配を感じる。

 

 

「は、ははは!どうだ!ヒッタイト王朝時代に実際に使われていた鉄を再利用して作った補正鎧だ!これを纏った私は太古の英雄にも匹敵する!セカンドオーナー殿の片割れならこの絶望がわかるだろう!」

 

 

 太古の英雄にも匹敵する。その発言に嘘はないだろう。そもそも太古の英雄が強いのかという疑問があるが、この世界の法則に当てはめるならもう規格外に強い。

 

 それは先程言った神秘というものが関係してくる。古いものほど強力な力を持つ。言ってしまえば身も蓋もないがそれだけ。それが神秘だ。より詳しく言うなら、神秘とは湧水のようなもの。

 

 最初に発見したものは莫大な水資源を得られるが、後から見つけたものは最初ほどの資源を得られない。要するに神秘とは先行者利益の法則の類のものだ。

 

 そして現代の魔術師とは所詮後から湧水を発見した程度のもの。本来なら先行者である英雄には及ばない。しかし自身にその先行者としての力がないなら他所から持ってくればいい。

 

 実に魔術師らしい発想だ。

 

 今の杏とはまるで真逆。

 

 だが恐ろしい相手なのは敵の言う通り間違いなかった。

 

 薄暗い路地の只中で、杏は追いかけるために動かしていた足を止め、敵を冷静に観察する。その視線に、機械人形を複数従えていた敵がたじろぎ、動いた。

 

 

「オートマタ共!我が敵を討て!」

 

 

 輝く鎧を身にまとった魔術師が、周りの機械人形に指令を投げかける。指示された彼らは、その名前に反して、非常に有機的に体を各々杏の方へと向け出した。

 

 全部で三体。狭い路地を左右と前方の三方向に別れて杏へ迫ってくる。そのものたちが手にした刃などは、まるで杏の命を刈り取るかのように。対して杏は丸腰だった。

 

 こうしてみると、明らかに杏が不利。

 

 だがそこで、杏はふと腕を天に掲げた。

 

 

Schwert in meine Hand(我が手に剣を)

 

 

 

 ───『赤咲く剣身(チゾメノカラダ)

 

 

 

 魔術の詠唱。魔術を覚えていない杏には本来無意味な行為。だがそれを、さも意味のある儀式かのように腕から舞いでる輝きが演出する。「我が手に剣を」

 

 その宣言の通り、気づいた時には、杏の両腕に、赤色のふたつの剣身が生えていた。それを観測するには、念能力が必要なのだが。

 

 故に、敵からすれば何をしているのかわからなかっただろう。

 

 それでもわからないなりに、杏を討てと命じられたオートマタ達は、各々警戒を抱きながらも、杏の目の前にまで迫り、手に取った刃で、杏を切り裂こうとした。

 

 その刹那。

 

 オートマタ達は、垣間見た。

 

 視界内で閃く手刀。その意味を悟るまでには至らなかったものの、オートマタ達は、みな、一様に、そこに死の気配を直感した。

 

 

「は、早い!?だが!」

 

 

 瞬きに間に、杏を討たんとしていたオートマタ達が、杏の背後でバラバラのパーツに分解された姿を晒す。それを見て敵の魔術師も明らかな動揺を見せたが、決定的な隙を見せることはなく。

 

 むしろその身にまとったパワードアーマーでもって、杏との間にあった数mほどの距離を一瞬にして詰めた。そして、空気を破る音が鳴る。

 

 

「カァッ!」

 

 

 パワードアーマーによる音速拳。まるで巨砲のようなそれは、しかして空を叩くに留まる。だが、初撃で仕留められなかったことは魔術師になんら動揺を与えなかった。

 

 

「このアーマーを見ても絶望しない!それは対抗手段がある証拠!まさか生身が対抗手段だとは!驚いたぞ!セカンドオーナーの妹君!だが我がオートマタの性能は随一!数十に囲まれれば貴様の姉も無事では済むまい!」

 

 

 一息に驚嘆と脅しを吐き出しながら、形勢を逆転させた風に振る舞う敵の魔術師。もう逃げる気はないようだった。完全にこちらを潰してから今後の事を考えようとしている態度だ。

 

 既に遠坂姉妹は眼中にはない。だがそれは多分に勘違いも含んでいた。単体性能なら確かに杏と凛は比べ物にならない。不可視の感知不能の剣を扱う妹に対して、どこまでも魔術師然とした姉。

 

 後者を甘く見積もるのは自然だ。だがこと対多数の殲滅力に関しては、凛に軍杯が上がるのもまた事実。つまり脅しは無意味だ。考慮には値しない。

 

 

「……動揺はしないか。それが魔術師故かは分からないが、まあいい。どちらにしろ貴様に勝機はない。奇遇だが魔術師の体はじっくり見てみたかったんだ。我が悲願のためにね。貴様はその肥やしになってくれ」

 

「根源に到達するのが悲願ねえ。その気持ちは分からないけど、あたしこれでも神様に出会ったことあるんだぜ?」

 

「なに?冗談もほどほど……に……」

 

 

 話し合いの最中、冗談も交えたその時に、敵の魔術師が明確な隙を晒す。千載一遇のその機会に、杏は見逃すことなく乗った。

 

 文字通り手刀を一振。腕を払う事によって、装甲の薄かった敵のアーマーの首元が裂け、血が吹き出す。

 

 あまりの急な事態に、敵の魔術師は唖然と首元を抑えた。

 

 

「わ、わたしの首が。クソ。こんなことで」

 

 

 本当にその通り。わざわざ脅しや驚嘆を露わにしなければ、あるいは真っ当に杏を殺すこともできたかもしれないのに。

 

 まあ杏にはまだパーフェクトプランがあるからそれで勝負が決まるという訳でもなかったが。ともかくとして楽にセカンドオーナーとしての仕事を終えられて良かった。

 

 想定外の敵に対して随分呆気ない結末だ。凛の方も、気配を見る限り無事らしい。なんだかんだここ数年で凛と仲良くなった杏は、安堵のため息を吐いた。

 

 外道魔術師の追討もこれで三回目。なかなか慣れないものだ。

 

 

「ふう。お疲れ様。魔術師はちゃんと仕留めたわね?まったくこんな事言峰にやらせればいいのに。魔術協会ができるだけ魔術師側で外道を確保しろってうるさいから」

 

「あー、おつかれ。こいつすごいよ。ヒッタイト王朝の遺物で礼装作ってやがった。油断してくれなきゃ面倒だったかも」

 

「え?うそ!?……やだ!本当にすごい神秘籠ってるじゃない!こんな礼装持ってるやつもあんた倒せるのねぇ〜。は〜」

 

 

 ある程度の傷を負いながらも身軽に杏のいる場所へと降りてきた凛が、血を垂れ流す外道魔術師の体を見て驚愕を露わにする。

 

 外道魔術師の体の周囲を覆う鎧。

 

 それは下手な遺物よりも余程価値あるものだった。神話に出てくる宝具などのようなものほど、とまではいかないが、その一歩手前位はあるだろうか。

 

 あるいは傑出した魔術師がそのヒッタイト王朝の鉄を使っていれば、宝具級になっていたかもしれない。それほどの代物。

 

 それが目の前にあり、しかも凛が運営する土地で倒したから、ある程度の所有権を主張できる。

 

 準宝具級ともなれば魔術師界隈ではヨダレ物の品だ。先代の遺産の大部分を失った遠坂家にとっては得難いものとなるだろう。

 

 

「しっかし。やったわね杏!こいつ一般人に手を出してたし、人間を大量調達するための計画も運用してた。ここで倒せて良かったわ!魔術師としてのモラルすら守らないなんて!最低よ!最低!」

 

「そだな。でもあんまりいい気分じゃねえよ。殺しはよ」

 

「まあ……そうね。外道相手に何も思うことは無いけど、命は命だしね。とりあえずこの魔術師の処理をしてから色々反省会しましょうか。人払いの結界を敷いてるから一般人に見られることはないでしょうけど」

 

 

 しんみりとした空気がその場に流れ始める。その横で魔術師の遺体が今も血を流し続けているのは、如何にこの魔術師の世界が狂っているかを語っているのか。

 

 いずれにせよ神様に普通の生以上を望んだ時から、こうなるのは目に見えていた。普通では無いことなんて、それこそ良いことがあるはずもないのに。少なくとも今になって、杏はそう思った。

 

 だが後悔はしていない。それで辛いとか、死にたいとかは思わないからだ。きっと杏はどこか欠けているのだろう。しかしこの世界で生きるには、きっとそれこそが必要なものだった。

 




正直桜が人間としてはいっちゃん好き。
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